かに星雲

潮の満ち 小説と日記があります。

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砂漠の狼|創作

 少年は泥にまみれた手を見ながら考えた。ぼくの身体はいずれ砂になってしまうだろう。砂が皮をただれさせべろべろに剝がしきったあと、血の流れにも砂が混じっていき、臓器という臓器に砂がいっぱいに溜まり、最後には地平線まで延々と続くこの砂漠と全くの同じになってしまうのだ。砂でいっぱいのここで異質なのは、少年でも、少年と同じようにあばらが浮き出るほどやせ細った男たちでも、彼らをつまらなそうな顔で働かせる監督官でもない。泥と、水とで作られたレンガだ。レンガは一面の黄色い世界を突然ぶつ切る

    • 生きることの苦しみとよろこび|エッセイ

       生きることの苦しみとよろこびが書きた~~~~い  先日、「シラサギの飛び立つとき」という小説を書き終えた。読んでね♪  自分としては、なかなか頑張って書いたと思う。初めて一万字以上のものを書けた。小説の良し悪しは必ずしも文字数で決まらないとは思うが、量が無ければその分盛り込まれるテーマも少なく平板なものになってしまう。死ぬまでには十万字の小説を書いてみたい。  ただ、満足いくものが書けたかと言われると難しい。私は恥ずかしがりで、どうにも私小説の類のものは書けない。今回も

      • シラサギの飛び立つとき-終|小説

         ひとしきり滑ったあと曾祖母の家に帰って、夕食の後は疲れてすぐに眠ってしまった。目が覚めたのは朝の四時だ。今日ここを発つのに、荷造りがまだ終わっていない。慌てて広げた荷物を片し始める。ひと段落したところでまた寝ようとベッドに潜るが、なかなか寝付けない。仕方がないので居間に下りて暖かい物でも飲もうと思い立つ。  キッチンに灯りがついている。よく見ると曾祖母が料理をしていた。こんな朝早くからいつも朝ご飯を作ってくれていたのかと驚く。ロシア語でおはようと挨拶する。 「あら、おはよう

        • シラサギの飛び立つとき-2|小説

           そうして気づけば三日が過ぎた。残すところあと三日。半分を超えたが、漫画はほとんど読み終わってしまった。この家には娯楽が全くなかった。本当に、テレビとモノポリーくらいしかない。イリヤに普段は何をして過ごしているのと尋ねると、他の友人の中にはゲームやコミックをたくさん持ってる子もいるけど、だいたい皆外でお酒を飲んで遊ぶから困らないと言われた。たしかにイリヤは初日の晩は私たちのために夕食を共にしてくれたけれど、次の日以降は夕食にいないことが多かった。  手持ち無沙汰に、周とのメッ

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        砂漠の狼|創作

          シラサギの飛び立つとき-1|小説

          この物語にはロシアが登場しますが、私はロシアの文化にのみ憧憬を抱くのであり、戦争によって苦しんでいる人々への救済を願っています。  冷たい空気が肺を刺した。ここに来たのは三年振りだろうか。前は高校二年生の冬休みに来たのだった。ちょうどスケートをやめたばかりで、せっかくこの国に来るならまだ現役の頃が良かったと思ったのだ。  暖房の効かない父の車に乗ってぼうっと外を眺めると、そこには一面、白、白、白の雪景色が延々続いていた。ロシアの田舎は——少なくともイルクーツクからさらに北の

          シラサギの飛び立つとき-1|小説

          赤い鼻|創作

           父はだるま職人だった。俺の家の一階は、だるまを作るための作業場になっている。作業場には生地を流し入れてだるまの形に成型する機械や、だるまを赤く塗るためのスプレーや、顔を書くための筆と絵具が並んでいて、いつも塗料や古紙の独特な匂いがしていた。  幼いころは、よく父がだるまを作る様子を見ていた。とくに、だるまの顔を描く様子が面白かった。それまでに成型や着色といったほとんどの工程は終わっていて、あとは顔だけだというのに、その顔描きが一番難しい。顔描きは職人が一つ一つ手作業でやる

          赤い鼻|創作

          考えることは泳ぐこと|エッセイ

           片づけをしていたら、高校生のときに使っていたメモ帳を見つけた。そのなかに、わりと芯を食った文章があったので、保存用に書き起こしてみる。 ***  私は演劇部に入っていて、今はもう引退してしまったけど、あれはたぶん夏になったばかりの話だと思う。  そのとき、部員である私と他高校生4人とコーチ2人がいた。私たちは文化祭公演で銀河鉄道の夜というとても難しい作品を演じるにあたって、練習をしてはいたけど、なんというか漠ぜんとしていて、なぜ銀河鉄道の夜という作品を公演するのか?お

          考えることは泳ぐこと|エッセイ

          詩は感情の伝達のために存在する?|エッセイ

           アンドロイドの彼氏がほしいと本気で願うときがある。最初にこの願望を抱いたのは、前の彼氏と別れたときだ。自分から振ったくせに、この世の終わりみたく落ち込んで、ゲームや本を楽しめなくなって、ただ天井を見つめるだけの不規則な生活になった。  深夜、コンビニから酒を買ってきた帰りに、「私の気持ちや願望をなんでも受け入れてくれて、容姿端麗な、私のためだけに作られたアンドロイド彼氏がいればいいのに」と本気で思った。それから数年経った今でも、仕事や人間関係で疲れたときはアンドロイドの彼氏

          詩は感情の伝達のために存在する?|エッセイ

          ハンティング・オブ・ザ・スナーク|創作

           少年たちは、いつもの秘密基地に集まった。ちょうど421回目の"作戦会議"(というのはお題目だけで、実際は漫画を読んでゲームをするだけ)が始まろうとしていた。いつものように、仕切りたがりのブルースはどこから拾ってきたのか、わざわざホイッスルを甲高く鳴らして、ブービーとベティの注目を引いた。 「諸兄、よくぞ集まってくれた。本日、我々はここに『スナーク捜索隊』を設立する」と、ブルースは畏まって宣言した。小学校教諭にしては口調がばかに堅すぎる担任を真似するのが、最近の彼の流行りだ

          ハンティング・オブ・ザ・スナーク|創作

          「きっと何者にもなれないお前たちに告げる」|エッセイ

          卯月コウの配信を見た。具体的には、『集まれ!卯月コウの視聴者』をアーカイブで視聴した。配信日の2月2日はどうやら卯月コウの誕生日らしく、内容は視聴者による卯月コウ宛てのクソデカ感情お便り配信だった。その中で、「何者にもなれなかった美大生」からのお便りが来ていて、私は、ああ、こういうの、と思いながら見ていた。以下、該当のお便りから一部引用する。 率直に、この卯月コウの発言は名言だと感じた。私はここで指す配信を見ていないので細かなことはわからないが、それでも『NEEDY GIR

          「きっと何者にもなれないお前たちに告げる」|エッセイ