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クリエイティブな発想が未来を救う。太刀川英輔が語る「創造力」の養いかた

「社会のためになるデザイン以外はしない」

そんな一貫したコンセプトを持ちつづけながら、社会課題に関わる多くのデザインプロジェクトを企業や行政との共創によって実現してきた太刀川英輔さん。

今は1億総クリエイター時代と言われるように、誰もが気軽にものづくりをすることができるようになりました。一方で、私たちが普段やっている発信や創作活動が、社会のためになるようにも思えない…。

そこで、「クリエイティブな発想が未来を救う」と言う太刀川さんに、クリエイティブを通じて社会を変える方法を聞いてみました!

太刀川英輔(たちかわ・えいすけ)
NOSIGNER代表 /  JIDA(公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会)理事長 / デザインストラテジスト / 金沢美術工芸大学客員教授 / 阿南工業高等専門学校特命教授

未来の希望につながるプロジェクトしかしないデザインストラテジスト。プロダクト、グラフィック、建築などの高いデザインの表現力を活かし、SDGs、地域活性などを扱う数々のプロジェクトで総合的な戦略を描いている。主なプロジェクトに、東京防災、PANDAID、2025大阪・関西万博日本館基本構想など。そのデザインはこれまで100以上の国際賞を受賞。生物進化から創造性の本質を学ぶ『進化思考』(海士の風、2021年)の書籍は第30回山本七平賞を受賞した。(Twitter:@NOSIGNER

「有名になりたい」みたいなエゴによる創作も、社会のためになるかも!?

ーー太刀川さんはデザインを通じて社会のために尽力されていますよね。今は誰もがクリエイターになれる時代ですが、「再生回数を稼ぎたい」「有名になりたい」というのが目的の人も多いと思うんです。

そういうクリエイティブも、いつか環境を守ることに繋がっていたりするんですかね…?

太刀川さん:
あ、僕も最初のころから「世界のために役に立とう」なんて思ってたわけじゃないですよ。

そうなの?

太刀川さん:
僕も「デザイナーとして、オレがかっこいいと思うものを作りたい」っていうエゴ始まり(笑)。でも、「エゴ」と「社会貢献」って矛盾しないんですよ。

ミュージシャンもはじめは「かっこいい曲作りたい!売れたい!」と思うかもしれないけど、次第に「音楽に貢献したい」という想いに変わっていったりするじゃない。

自分がうまくいく目先の目標」で物を捉えても、意外とすぐに叶っちゃうかも。もっと言えば、最初からその先を大きめに目指したほうが、もっと早く叶いますよ。そう気付くと、テーマが大きくなってくるんです。

ーー「自分のため」って案外すぐに満たされるんですね。

太刀川さん:
そう。というか、自分だけがうまくいっても大して満たされないと思います。エゴがエゴのままだと、共感されないからね。だから、自分がやってることは誰のためなんだろう、というのは考えておいたらいい。

僕の場合は、デザインが好きで、そのかっこよさの正体を知りたいと思ったときに、気付いちゃったんですよ。

「もの」に価値があるわけじゃなくて、「ものが導いていく理由」に価値があるってことを。

太刀川さん:
「デザイン」とは形をかっこよく作ること、でもある。でも、その先には、「なぜこの形だといいんですか?」という問いかけがあるんですよ。

そもそも理由がないものは作られないし、社会のなかで淘汰されていくもの。「オシャレだけど座り心地の悪い椅子」なんていらないでしょ?

ーーそれは…いらないですね…。

太刀川さん:
となると、デザイナーの仕事は、本来の椅子の役割である「骨盤を支えて足を楽にする方法をかっこよく設計すること」になる。つまり、理由と手段はセットで提供されるんだよね。

だから、「何を作る」ではなく「何のために作るのか」という理由に答えていくことが、あらゆるデザインの手段にとって目的になるんです。

それが大切な理由であればあるほど、スケールが大きくなって、社会の話になっていく。「どんな理由だったら、本当に答えるべきなのか」を考えると、エゴで考えてたつもりが、必然的に「社会のため」になっていくんですよ。

ーーなるほど。「作る理由」を突き詰めるほど、社会課題に結びついていくんですね。

太刀川さん:
そう! だから、解決すべき大きな目的があって、そこにヤバい手段がピタッとハマったときに、すごくかっこいいものができると僕は思ってるんですよね。

それがデザイン。僕が1番やりたいことなんです。

「変なこと」をやってガチャを回す。創造力を磨いていく。

いしかわ:
その「目的」を発見して、「手段」を考えるにはどうすればいいんですか?

太刀川さん:
まず、「諦められている分断」を発見することかな。社会課題というのは、大概が繋がるべきものがうまく繋がっていないから起こっているんです。

それって、分断に接してる人のほうが見つけやすい。たとえば病院内で、患者と医師の関係がうまくいっていないことに気付くのって、看護師だったりしますよね。分断は、まず現場にいる人が見つけられるはず。

つまり、誰もが発見できる可能性があるってこと!

太刀川さん:
そのテーマを発見するのに重要なのは「観察」する力です。思い込むと観察しなくなるでしょう?

関係性を見たり、歴史を見たり、観察から「やるべき理由」を掴んでいくと、理由が自分の思い込みの外にたくさんあることがわかると思います。

ただ、大多数の人はテーマを発見して諦めておわってしまう。なぜなら、変なことを考えられないからです。

ーーへ、変なこと…?

太刀川さん:
僕は、「創造性」というのは、「生物進化のプロセス」のようなものを僕らが頭のなかでやっている状況なんじゃないかと思っているんですね。

生物の進化のプロセスには、偶然による「変異」と、自然選択で近づいていく「適応」という現象があります。「変異」は、兄弟のなかで顔や性格が違うとか、ランダムなエラーのことね。

自然選択による「適応」は、自然のなかで勝手に起こる品種改良のようなもので、だんだん環境にフィットしたものが生き残るプロセスのことです。

たとえばある環境で、首が長い個体のほうが生き残ったり、子どもが生まれやすい傾向にある場合、首が長い子どもが次の世代には増える。それが何世代も繰り返されると、全員の首が伸びちゃう、という現象ですね。

太刀川さん:
この2つが何世代も往復すると何が起こるかというと、だんだん環境に合わせて「勝手にデザインされちゃう」んですよ。

ガチャのなかで、何が環境にフィットするかはわからない。首が長いか短いかは偶然なんだけど、首が長い個体がちょっと有利だと、何世代もかけて首が長いことが普通になっていく。

これと同じことが、僕らのあらゆる創造性、つまりクリエイティブにも言えるんです。今変なことが、少しずつ人の心に火をつけたら、将来の常識になるかもしれない。

だから、創造的なアイデアに辿り着きたいなら、当たり前を疑ってたくさんのガチャを回すことが必要なの!

ガチャ!

太刀川さん:
何が役に立つかわからないし、何がひらめきの種になるかわからないのが当たり前だけど、わからないものに対して前向きにガチャを回しつづける。固定観念を疑いつづける。それが、創造力を養うひとつの方法です。

だから、変なこといろいろやってみましょう。やったことないことをやりましょう。

太刀川さん:
そうして、ガチャからたくさんの可能性に出会ったら、客観的に観察して、自分の外側にある必然的な理由に当てはまっている、つまり適応してるものを選びぬいていくこと。

そうしたら、選んだものをまたガチャにかけて、少し変なアイデアを考える。変になったり、客観的になったり、二重人格みたいだけど、これを何度も往復するのが創造的なプロセスです。

観察できない部分は誰かを頼ってもいいし、手段が足りなければデザインのアプリを使って自分で練習をしてもいい。

そうして仮説の実証をして、フィードバックを受けて、磨き込みをしたり、別の仮説を立てたり…と往復してくと、いずれ分断が繋がるかもしれないでしょ? 

しかも、一発でアイデアができるなんて思わなくていい。そもそも完璧なアイデアなんて存在しません。

ーー創造性があると、「わからない!」と諦めることがなくなっていくんですね。

太刀川さん:
そのとおり。そして、このプロセスは全部練習できるんですよ。

「観察力」を磨いてテーマを発見して、「変なこと」を考える練習をして、理由に当てはまる挑戦に仮説を立てて、「手段」を磨いて実証をする。

これが発明家とか創造的な人が、頭や手でやっているプロセスだと僕は思っています。それをみんなができるようになれば、マジで社会は変わると思います。

今を面白くして、未来にも役に立つことを創造する

ーー太刀川さんは、このCQプロジェクトのコンセプトや、デザインにも携わっていますよね。これが発足したのにはどういう背景があるんですか?

太刀川さん:
まず、CO2を削減することは全世界的なミッションですよね。ただ、これがめちゃくちゃ難しい。CO2を減らすということは、僕ら全員のライフスタイルや産業を変えなきゃいけないということだから。

それを一緒にやろう、という仲間に出会えたところからこのプロジェクトが始まってます。

ちなみに、CO2は活動的な人ほど出るんですよ。炭素を出さないライフスタイルの最強の姿は引きこもりなんです。一切移動しないのが一番いい!(笑)。

えぇ…

太刀川さん:
でも、「みんな引き込もれ」って言われても全然やる気にならないじゃない。ムーブメントになるには、みんながやりたくなるようなものじゃないといけない。

太刀川さん:
そうして、ずーっと「CO2を減らす」ことを考えていたら、「O」と「2」が合体して、ひっくり返って「CQ」になったんです。そこでピンと来たのが、「IQ=知能指数」。

動いても食べても、生活の全部でCO2が出ていますよね。しかも目に見えないしわからない。そして、これがムーブメントになるなら、定量的なCO2評価だけでなく、まわりに影響を及ぼせるかどうか、といった定性的な評価も必要そう。

だから、自分の脱炭素スコアがわかる指標があって、セルフチェックできたらいいかもと思って。

ーー何だかゲームみたいですね。

太刀川さん:
ひょっとしたら、将来はキャラクターとして性格が評価できるようになったら、すごく面白いじゃない? そこから「脱炭素を伝えに世界を飛び回るインフルエンサー」や、「俺は引きこもりで最強レベルだぜ!」って人も生まれるかもしれない。

「脱炭素スコアを上げるには、こうするといいんだ」と気付いてもらって、ライフスタイルをちょっとずつ変えていくことができるきっかけとなるサービスにしたいですね。

太刀川さん:
たとえば、今着ているTシャツは、製造にかかった炭素に加えて、プラスで炭素をオフセットしている「カーボンネガティブ」Tシャツなんですけど、このTシャツを着ていると、「この人は俺らのカーボンまでオフセットしてくれたエラい人」になるわけです。

ーーだから「NEGATIVE」なんですね!

太刀川さん:
そう。面白くないですか? ネガティブって。CQでは、「ネガティブ」「ニュートラル」という言葉をポジティブな意味で使っていきたいんですよね。
そういう小さな「面白さ」はムーブメントに絶対に必要。

ただ、そこで気をつけているのは、「今も叶えるし、未来も叶える」っていう繋ぎ込みをしていくことです。

カーボンオフセットをしているCQグッズたち

太刀川さん:
僕らはどうしても今の自分が面白いことや、今の自分を幸せにすることを考えてしまいがちだけど、僕は、時間軸が「今」に寄りすぎていることが、持続不可能と言われる社会の一番の分断だと思ってるんです。

これって、簡単に矛盾してしまうんだよね。

ーーたしかに、今の幸せのことだけ考えていたら、未来の「今」が幸せじゃなくなってしまいますね。

太刀川さん:
だから、今を面白くして、未来にも役に立つことが必要なの

この状態を越えていくためには、やっぱりアイデアがいる。CQもそのなかのひとつです。

これまでうまく繋がってないんだから、普通のやり方じゃ無理かもしれない。それには、今まで誰もやってない、変なことへの挑戦が役立つかもしれません。

物語を書く、音楽を作る、服を作る…とか、いろんな未知のやり方があると思います。CQはそういう新しい挑戦を応援する運動になってほしいんです。

脱炭素は、全人類のミッションだと思うから、みんなの創造力で一緒に越えていけたらいいな。

(取材・執筆=いしかわゆき(@milkprincess17)/撮影=ふかやん(@nrmshr))

高めよう 脱炭素指数!

CQは、カーボンニュートラル社会の実現に向け、一人ひとりがライフスタイルについて考え、行動を変えていくことを目指すプロジェクト。イベント協賛やグッズ展開などを企画しています。
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