リユースカップで約80トンのCO2を削減!ヴァンフォーレ甲府の「地域に根ざすクラブ」ならではの課題解決とは?
山梨県甲府市、韮崎市を中心に活動するJリーグのクラブ「ヴァンフォーレ甲府」。ピッチ上での活躍や、ホームタウン活動による地域への貢献によって、地元住民の皆さんから長く愛されてきたクラブです。
以前、Jリーグ執行役員・辻井隆行さんにお話を伺った際は、「環境活動はすべての活動の土台である」と語っていただきました。
Jリーグに所属するクラブは環境課題の解決のために、どのような取り組みを行っているのでしょうか?
今回は、ヴァンフォーレ甲府・社会連携部の渡辺 敬太さんに、ヴァンフォーレ甲府が地域と環境に貢献するために取り組んでいることをお聞きしました!
年間3.8万個のリユースカップで、約80トンのCO2量を削減!「小瀬エコスタジアムプロジェクト」とは?
ーーまず、ヴァンフォーレ甲府が行っているエコな取り組みを教えてください!
渡辺さん:
ヴァンフォーレ甲府では、ホームスタジアムである「JIT リサイクルインク スタジアム」で、2004年から「小瀬エコスタジアムプロジェクト」を行っています。
これは、クラブの活動で出るゴミの削減を目指し、スタジアム内でのドリンク販売にリユースカップを利用するという取り組みを中心としたプロジェクトです。
スタジアム内で販売されているドリンクやかき氷を入れるカップは100%、リユースカップを使用しています。また、臨時出店やイベントと連動したメニューを販売するときなどはリユース食器も使用しているんです。
今シーズンでは、38,000個以上のリユースカップの使用が見込まれているんですよ!
ーー38,000個も! それだけゴミが減らせているんですね。
渡辺さん:
リユースカップは何回も使用でき、リサイクルが可能な素材を使用しているので、一般的な使い捨てのコップを使うよりずっと環境負荷が少ないんです。
ドリンクを購入する際にドリンク代に100円上乗せしてお支払いいただき、飲み終わったカップを返せば、上乗せした100円が返金されるというデポジット制になっています。
ーー実際に、どのくらい環境課題に貢献できるのでしょうか?
渡辺さん:
2004〜2021シーズンまでは、累計1,004,000個のリユース食器が使用されていました。
この数の使い捨て容器を使用しなかったと仮定すると、77.4トンのCO2量を削減したことになり、5,522本の杉の木が1年間吸収するのと同じCO2量になります。
さらに、コロナ禍などの影響で使用数が減ってしまった時期もありましたが、平均すると年間に56,000個近いリユースカップやリユース食器が使われています。累計すると、これまでに約80トン以上のCO2が削減できたことになりますね。
ーーすごい!こうして数字を見える化すると、取り組みに参加する皆さんのモチベーションも上がりそうですね!
渡辺さん:
サポーターの皆さんにも積極的に活動に参加してもらうために、こうして定期的に数値を計測して、公開してきました。
また、小瀬エコスタジアムプロジェクト以外にも、子ども向けのゴミ拾いプロジェクトや自然環境教育など、未来を担う世代に環境を守る大切さを伝える活動もしています。
環境課題への貢献は「地域への恩返し」。20年間続けた取り組みはクラブの「個性」に。
ーー環境に優しいとはいえ、デポジット制のリユースカップを利用することで、お客さんが負担を感じることはなかったのでしょうか…?
渡辺さん:
たしかに、プロジェクトが始まったばかりのころは「手間がかかる」「値上げではないか」という意見をいただいたこともありました。
でも、プロジェクトを20年近く続けてきたことで、リユースカップを使うのが当たり前になったんです。
現在は、「ヴァンフォーレ甲府はこんな取り組みをしているんだね」「先進的なクラブだね」と楽しそうにリユースカップを使ってくださるサポーターさんがほとんど。ビジターチームのサポーターさん、スタッフさんにも興味を持っていただいています。我々運営サイドや選手たちも、日常生活での環境課題への意識が高まりました。
長い時間をかけて、環境課題の取り組みを当たり前にしたことで、リユースカップは我々にとっての「個性」になったのだと思いますね。
ーー続けることで、受け入れてもらうことができ、個性にまで繋がったんですね!
渡辺さん:
ヴァンフォーレ甲府は母体企業を持たない小さなクラブなので、地域の皆さんに愛され、応援してもらうことが必要不可欠なんです。だからこそ、まずは愛されるための取り組みをしなければいけない。
地域の皆さんのためにも、ごみ問題を解決することが重要だと考えたため、小瀬エコスタジアムプロジェクトを始めました。
そして、こうして取り組みを続けていけるのは、いつも応援してくださる皆さんへの「恩返し」をしたいから。
どこのクラブもやっていないような、地域に貢献できる新しい取り組みを先んじて始めることで、クラブの存在を地域の皆さんに誇りに思ってもらいたいんです。
そんな気持ちがあったからこそ、小瀬エコスタジアムプロジェクトを20年にも渡って続けてこられたのだと思います。
環境課題を解決に導く「スポーツの3つの力」
ーー環境課題を解決するために、スポーツはどんな効果を発揮すると思いますか?
渡辺さん:
私は、スポーツには3つの力があると考えています。1つは、「発信力」。
スポーツは世界中でたくさんの人に愛されており、チームの勝敗が頻繁に大きなニュースになりますよね。そんな多くの人に注目されているスポーツが持つ発信力は、環境課題の認知にも活かせると思います。
2つ目は、「中立性」。
スポーツには、勝つか負けるかの2通りしかありません。政治や宗教、それぞれの思想などが混ざることなく、ただ純粋にその場の勝負を全員が楽しめる中立性は、地球上の誰もに浸透しなければならない環境課題とも相性がいいのではないでしょうか。
最後に3つ目は、「ワクワク感」。
これは説明するまでもありませんが、スポーツには試合を見るだけで、誰もが熱狂できる楽しさがあります。
環境課題と聞くと、重く堅苦しいイメージがありますが、そんなマイナスイメージをスポーツの持つワクワク感で払拭できる方法があるのではないかと思うんです。
ーースポーツだけでも、こんなにたくさんの可能性があるんですね!
渡辺さん:
さらに、我々のような小さなクラブは地域に根ざして活動しているため、いい意味で地域との距離感が近い。
町中で選手と遭遇することや、週末にスタジアムに遊びにくることが日常の楽しみになっているという地域住民の方々もたくさんいます。
サポーターの皆さんは、「近所のお兄ちゃんがスタジアムで活躍している!」というくらいの親近感と思い入れを持って、クラブを応援してくださっているんです。
そんな地域と連携をしやすい我々だからこそ、スポーツの持つ力を最大限に活かして、環境課題への意識を地域に広めていきたいと考えています。
ーー今後、新たに取り組んでいきたいことはありますか?
まだ構想中ですが、遠方からスタジアムに足を運んでくださるサポーター様向けに、エコツーリズムのプロジェクトを始めたいと考えています。
具体的には、CO2をなるべく出さない方法で移動を楽しむツアーを実施したいと考えており、9月の試合に向けて、実証実験を進めている段階です。
また、小瀬エコスタジアムプロジェクトの利便性を高めるために、今は人の手で行っているリユースカップのデポジットを、自動化できる機械を導入する予定です。
リユースカップを機械で簡単に返却できるようになれば、スタジアムに来る大人の方だけでなく、お子さんにも楽しんで取り組みに参加していただけるのではないかと思っています。
環境課題は日々刻々と変化していきますが、その変化に乗り遅れないよう、小さなクラブならではのフットワークの軽さで、新しいことにどんどん挑戦していきたい。
そして、地域の皆さんにそんなヴァンフォーレ甲府の姿を誇りに思ってもらうことが、我々の変わらない目標です。
(取材・執筆=目次ほたる(@kosyo0821)/編集=いしかわゆき(@milkprincess17)/(撮影=深谷亮介(@nrmshr))
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