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DSXTX & ARIGATO MANE「Shinto Souljas Namida」レビュー&インタビュー

東京のラッパーのDSXTXとビートメイカーのARIGATO MANEがリリースしたミックステープ「Shinto Souljas Namida」について、二人からコメントを取りながらレビューを書きました。作品はこちらから各種配信サイトで聴ける・ダウンロードできます。

UGK8Ball & MJGLunizMobb Deep……と、ヒップホップ史では様々なデュオが活躍してきた。ラッパー二人組だけではなくラッパーとプロデューサーによるデュオも多く、近年でもLNDN DRGSNxWorriesなどが活動。ラップとビートの見事なコンビネーションで人気を集めている。

ヒップホップではしばしば「最高のラッパーは誰?」という会話が白熱する。例えばLil Wayneのようにラッパー自らが「ベストラッパー」だと宣言するケースも多い。しかし、デュオとなると意外なほど「ベストデュオ」に名乗りを上げるケースは少ない。そんな中、ベイのラップデュオのMain Attarakionzは2013年に「BDE: BEST DUO EVER THE BRICKTAPE」と題したミックステープを発表。「Legion of Doom」「Perfect Skies」など多くの名曲を生み出したMain Attrakionzは、確かに「史上最高のデュオ」を名乗る資格を持つデュオだった。異論があるリスナーもいるかもしれないが、その理由もこの二人の実力への疑いから来るものではないだろう。

そこから10年。日本のラッパーのDSXTXとプロデューサーのARIGATO MANEは、二人でリリースしたミックステープ「Shinto Souljas Namida」で新たな「BEST DUO EVER」に名乗りを上げた。この二人はRare Forested名義でデュオとして活動しており、これまでにも「SHINTO GODS」「Rare Forested FREESTYLE SWAG 2015​,​2016」などの作品をリリースしている。デュオとしての歩みは、インターネットとライブの現場で繋がったことから始まったとDSXTXは話す。

俺がARIGATO MANEを認識したのは、2014年か2015年に前のTwitterアカウントをフォローされたのがきっかけでした。それでツイートを見たら、ARIGATO MANEがまだラップしていた頃のミックステープ「闇おら」をリリースしたばかりだった。それを聴いてみたらビートもラップも全部DIYで自分でこなしている上に、日本ではまずいないスタイルだったんです。誰もトピックにしていなかった遊戯王についてラップしていたり、ビートもオリジナルなダークトラップ。「仲間」の意味合いで「Gang」という言葉を多用していたり、俺にとってはとにかく新鮮でした。

もちろん即フォローバックしました。さらに、リリックやビートの元ネタチョイスからなんとなく同世代だと思っていたんですが、やりとりの中で同い年だったことが判明したんです。その後、渋谷のGladで行われたイベントにSantana Ryutaくんの客演で出ることになったので、告知のツイートをしたらARIGATO MANEが「行きます」ってリプをくれて、本当に遊びに来てくれた。そこからさらに意気投合しました。

俺が中・高時代に聴いていたヒップホップは主にUS南部やベイエリア、日本語ラップが中心でしたが、ヒップホップ以外にもゲームやアニメ、映画等のサントラも好きでした。この好みについて語れる人は周りにいなかったですし、出会った事は無かったので意気投合にもスピード感がありました。特にThe Packの話で盛り上がれたのはとてもアガりましたね。

DSXTX

その数日後には一緒に曲を作り出していました。それで、当時稲城にあった俺のアパートで夜通しフリースタイルRECしたり、交互にカメラ持ってミュージックビデオを撮ったりするようになって。そうしていくうちに、自然とRare Forestedが完成していきました。RICE GANGは俺が途中で加入した身です。

デュオ名の由来は、俺たちは日本で希少なスタイル=レアということと、お互いBGMも含めてRARE社のゲームが好きだったことから「Rare」の部分を名付けました。「スーパードンキーコング」「バンジョーとカズーイの大冒険」「ゴールデンアイ」とかですね。「Forested」の部分は、俺が青森でARIGATO MANEは千葉とお互いに自然を連想させる名前の県の出身なのと、ネイチャー感のあるアンビエントなども好んでいたことから決めました。

ちなみに、最初は俺が好きなホラーコアデュオのTwiztidをもじろうと思って、最初は「Rare Forestid」になる予定だったんです。でも俺の天然で誤字ってしまってRare Forestedになりました。

DSXTX

これまでの作品と同様、今回の新作ミックステープも基本となっているのは「クラウドラップ」と呼ばれるスタイルだ。幻想的な質感やダウナーなムードなどが特徴のサブジャンルで、The PackのLil BClams Casinoなどの試みによって2000年代後半に産声を上げた。その後先述したMain AttrakionzやA$AP Rockyといったアーティストの活躍を通し、2010年代半ば頃までのヒップホップで大きなムーブメントに発展。Lil Bが拠点としているベイやSpaceGhostPurrpを送り出したフロリダで特に盛んだが、基本的には地域を越えて広がっているスタイルだ。アメリカだけではなく、スウェーデンからもYung Leanのようなアーティストが登場している。

しかし、ARIGATO MANEが受けた影響はクラウドラップだけに留まらないという。

自分的にはクラウドラップの一括りだと違う気がして、あまり使ったことがないのが本音です。ガキの頃から音楽は聴いていたけど、小6の時にロスに遊びに行ってからガッツリとヒップホップにハマりました。特に西と南のヒップホップを好んでいましたね。今の歳まで色々な曲を聴いてきて一番衝撃だったのが、2010年頃から後半にかけてインターネット上で生まれたアーティストでした。かなり影響を受けていると思います。

2010年頃はSoundCloudやBandcamp、YouTubeなどSNSが盛り上がり出した時で、PCを開けば毎日新鮮な新しいスタイルの音楽が溢れていました。それでアニメやゲームなどのオタク要素を取り入れたものや、パンクのマインドやサイケなアート、ローファイな質感など型にハマらない自由さに刺激を貰いまくってました。

YouTubeチャンネルの「TRILLPHONK」「Shroomtard」などは毎日喰らいまくっていましたね。挙げたらキリはないですが、Lil B、Metro ZuRaider Klan周り、初期のOdd FutureLil Ugly ManeGoth MoneyAntwonDas RacistKool A.D.、Main Attrakionzとかにめちゃくちゃハマりました。あとShlohmoGroundislavaなどのWedidit周りやSoulection系のビート、ウィッチハウスも好きでしたね。

Lil Bからは「Swagとdgafに生きること」、Metro Zuからはアートの思考などの面で影響を受けました。影響を受けたアーティストはそれぞれ違う色を持っている人たちですね。俺はそういうアーティストが好きです。

ARIGATO MANE

ARIGATO MANEがDSXTXに惹かれたのも、この「違う色を持っている」という部分からだったようだ。DSXTXが当時発表していたミックステープの数々は、シーンの主流とは異なる「非常に稀」なスタイルだった。

ARIGATO MANEと出会った頃の俺は、BandcampやSoundCloudでダウンロードできるフリーなビートにラップを勝手に乗せたミックステープをリリースしまくっていました。MANITEEcat soupのビートテープから拝借したり。ヴェイパーウェイヴやアンビエント色の強いビート・トラックをチョイスして活動していましたね。ウェイヴ系全般をよく使っていました。

それがたまたまオツトメシャバ帰還したARIGATO MANEの目に留まったっぽいです。ビート選びやらジャケやらで、俺に他のラッパーとは違う匂いを感じていたらしい。

俺は当時からジャケを自分で作っていたんですけど、俺は南部の1990~2000年代のPen & Pixelのジャケがド真ん中の作品ばかり聴いてきた人間だから、作るものもPen & Pixelからの影響が強いものになる。海外のクラウドラップ勢も南部に影響を受けているアーティストも多かったので、クラウドラップやトゥリルウェイヴをディグっていたARIGATO MANEのアンテナにも引っかかったんだと思います。Raider KlanのジャケとかモロG系譜だし、彼らも俺らと同世代だから影響受けたところが正にドンピシャです。

DSXTX

DSXTXも語っているように、クラウドラップは南部ヒップホップからの影響を指摘されることが多い。そのダウナーなムードからはチョップド&スクリュードや1990年代メンフィスラップのそれと通じるものを発見できるし、ラップ面でもThree 6 Mafiaなどを思わせるスタイルの持ち主が活躍している。

Rare Forestedで現在メインにラップするDSXTXもそれは同様で、そのフロウからはメンフィス勢からの影響を強く感じることができる。また、ソロ名義やKAY DIEGOなどとの作品ではより南部ヒップホップ色の強いビートを使用。その南部ヒップホップからの影響をストレートにアウトプットしている。DSXTXに南部ヒップホップへの思いを聞くと、心の底から愛情を抱いていることが伺える熱い回答が返ってきた。

以前某所で受けたインタビューではRIP SLYME「ONE」が初期衝動的な説明をしたんですけど、それはLord InfamousにとってのBig Daddy Kaneみたいな感じで、単純に身近で最初に触れたラップミュージックだったということです。例えば何種類かの食べ物を出されて、そこからラーメンが好きになったとするじゃないですか。その流れで家系か二郎系かetc.でまた好みが分かれてきて、最終的には二郎系しか食べたくなくなるみたいなことがあると思うんですよ。

それと一緒で、ヒップホップも細分化されまくっている中で、自分にとって何が性に合うか、どのスタイルが一番マッチするか、股間と鼓膜と心に響くかで言ったら、俺にとってはそれが南部のヒップホップなんです。ラップスタイルやサウンドがドンピシャにハマったし、ルーツであり多感な時期に一番食らってディグったカルチャー。それがあったからこそラッパーとして生きる今、無意識に自然とフロウや制作に色濃く反映されているんだと思います。南部っぽさを狙ってやるんじゃなくて、耳や脳に染み付いているんです。

俺の故郷には米軍基地があるんです。それで、アフリカ系アメリカ人の方々が車にクソデカいビカビカのリムを履かせて、爆音で南部のヒップホップをかけて信号待ちでキメッキメにピースサインをしてきたりするのを見てきました。アメリカンハウスが揺れるくらいのヒップホップが、昼間だろうが夜中だろうが流れている街で育ったことの影響はデカいですね。通る車から家が揺れるくらいのデカい音が流れてくるんですよ。ヤバいですよね(笑)。街ですれ違う人たちのファッションも、被っているキャップのチームがブレーブスやアストロズ、フロリダマーリンズなどの南部モノが多かったんですよね。逆にNYやLAはあまり見かけなかった。あとYUMS(笑)。

DSXTX

南部ヒップホップと一口に言っても、都市によってスタイルは異なる。今作にも影響が読み取れるテキサスはチョップド&スクリュード、テネシーはダークなクランクやソウルフル路線などに強い。DSXTXは音楽面で特に影響を受けた都市についても細分化して語ってくれた。

南部にも様々な地区があるけれど、音楽面では主に4つの地区から影響を受けていると思います。アトランタ、テキサス、テネシー、ルイジアナですね。

でも俺は多分根が陰キャなので、ダンス系のサウスはあまり好きじゃなかったんですよね。GS Boyz「Stanky Legg」とかは曲調は好きだから、クラブで流れたら心の中で控えめにノリノリな感じにはなります。Soulja Boy「Crank That (Soulja Boy)」よりも「Let Me Get Em」派でした。

アトランタの場合は食らった順番的にはT.I.Young JeezyShawty Lo台頭時代から始まり、Lil Jon関連は全部好きでした。もっと前の世代の、OutkastDungeon Familyの面々とかのヤバさに気付くのは大人になってからでしたね。サウンド的にシンセの効いたクランクや音数少ないスナップが好きだったからしゃあない。

DSXTX

テキサスはヒップホップを聴き始めた当時、ドンピシャでブチかましていたSwisha House勢から入りました。貧乏だったから家にパソコンが無かったし、携帯電話も買ってもらえなかったので、夜中に目覚まし時計をかけてBillboardを見たり、「CUSTOM LOWRiDING」「411」を買って頭にジャケとタイトル、アーティスト叩き込んでいました。広告の「COMMON WEALTH」もチェックしましたね。祖母の家に事務仕事用のパソコンが来てからは、夜勝手に起動させてYouTubeでペプシがやっていた「Houston Mic Pass」系を見まくって色んなラッパーの名前覚えました。

ウェストコーストのチカーノラップもかなり好きでしたが、ダラスのPlay-N-SkillzSPMChingo BlingBaby BashBig GeminiRob G、シンガーだったらDallas Blockerとか。テキサスのチカーノ・ラティーノメインどころもマジで好きでした。

もちろんScrewed Up Clickも後追いでチェックしました。でも、当時の個人的バンガーならTrae「In The Hood」です(この収録アルバム「Restless」「Intro」後の「Real Talk」がブチかましすぎ)。

DSXTX

ルイジアナなら俺はNo Limit派でした。なぜかと言うと、DSXTX少年はLil Romeoになりたかったから(笑)。レーベルはGutter Musicだけど、Rich Boyzは最高です。服装とかもなけなしの金で真似しまくりました。

子どもの頃はお小遣いとかも無かったから、たまに会う親戚の叔父や叔母さんから貰ったお金を切り崩してCDにお金を使っていましたね。家族と買い物に行きたくないけど足が無かったので、CDを買うために着いて行って下田のタワレコ輸入盤セールで買い漁っていました。もちろん服なんてなかなか買えないから、毎回エニーチェの38インチのバギーパンツにPro Clubの無地Tee 3XLで。GFLとか着てて良いスニーカーなんて買えなかったから周りから馬鹿にされていたけど、その時に得た音楽の知識が今アーティストになって活きているから問題無いです。

No Limitは、サウンド面だとバウンス調の曲よりもダークな曲調の方が好きでしたね。Master Pなら「Ice Cream Man」「Nobody Moves」みたいな。あとはNo Limit全般にある大ネタ使いのメロウモノはマジドンピシャで、Mo B. DickとR&B部隊のSons Of Funkが大好物でした。

DSXTX

Cash Moneyも後追いでバッチシチェックしましたけど、やっぱNo Limitなんですよね。もちろんLil Wayneは世代的にラップスターなんですけど、あまり興味が無かった。Lil Wayneはずっと最先端で新しいスタイルだと思うんですけど、でも俺が食らうのはやっぱりその土地・地区のサウンドとラップスタイルを時代に合わせてブラッシュアップした色のあるラッパーやプロデューサーなんです。

後はTrill Entertainment。「Mouse On Tha Trackのタグがイントロで流れたら確実にヤバい曲だ」って仲の良い友達の野呂くんと良く話していました。ちなみに、俺にサウスのあれこれやクラブでの遊び方etc.を叩き込んでくれたのも野呂くんです。

DSXTX

今作にもNo Limitでの活躍で知られるC-Murderに曲名でエールを送った「FREE C-MURDER」が収録されていることからも、No Limitへの思い入れの強さが伺える。ラップスタイルの面で影響を強く感じさせるテネシーのヒップホップについても、熱量を持って語ってくれた。

テネシーだとHypnotize MindsDJ Squeeky周りのメンフィス産のヒップホップから強く影響を受けていますが、先にハマったのはナッシュビルのPlaya Gでした。何よりあのハイハットとメロウ加減、ラップの滑らかさが完璧。CDが高過ぎて買えないからYouTubeで聴きまくっていました(※当時の相場は3万円超え)。でも、大人になってからはなんとかCDを手に入れましたよ。Nahm Da BVBに頼んで代わりにディスクユニオンに並んでもらいました(笑)。

メンフィスの面々にドンピシャマインドが移るのは、俺が社会人を経験してがっつり鬱と怒りのマインドに入ってからでしたね。俺の闇の部分、負の部分全てがマッチして今に至る。

でも、振り返ってみると17歳の時に野呂くんと一緒にやっすいREC環境で初めてラップしてデモCDを作ったんですけど、一番初めにラップを乗せたインストがThree 6 Mafiaの「Side 2 Side」だったんですよね。この時から既に今こういうスタイルのラッパーになる運命だったのかもしれない。

DSXTX

メンフィスだけ一番遅く着目したけれど、思い返せばヒップホップにドハマりした頃にメインストリームでブチカマしていた南部のお気に入り曲は、大体が地区関係なくDJ Paul & Juicy Jプロデュースでした。なので、点と線が合いまくりなんですよね。メンフィスとヒューストンのドロドロしたスロウモノはダウナーやトリッピーな面だったり、鬼気迫るBPM早めのサウンドは俺の躁鬱状態の鬱的な部分と日常での怒りにリンクしてくるから、自然とそういうスタイルになってくる。メンフィスから派生したDevil Shytやホラーコアは特に。

あと、やっぱり南部はヒップホップ以前にソウルやブルースの里なので、ソウルサンプリング曲も南部産ヒップホップが最高に格好良いと思います。扱い方やアレンジの仕方などもドンピシャだと思うし好きですね。

DSXTX

DSXTXは、自身のラップスタイルに影響を与えたラッパーについても教えてくれた。そこで挙がった名前も、かなり「わかる人にはわかる」面々だ。

もちろん、テネシー勢の詰め込みフロウの影響はモロに受けています。ヒューストン勢ならGuerilla Maabの面々、アトランタならバチギレPaster TroyしかりT.I.も。T.I.はファストフロウのみならずジャストなライミングも勉強になりますね。

あと、やっぱり究極の完成系ならPimp C(R.I.P.)ですね。でも、影響を受けたラッパーは数知れない。全ての南部ラッパーから影響を受けています。
詰め込みフロウもジャストなフロウも、ヨレフロウも。

DSXTX

ちなみに、なんかラップに対してスランプ気味だったりイップス的な感覚に陥った時は、T.IのGo Get Itを聴いて感覚を整えています。あの曲のT.I.のヴァースは基礎が完璧だと思うんですよ。

南部で特に影響を受けまくって、受けすぎたラッパーを挙げると、T.I.とGuerilla Maab全員、Three 6 Mafia 全員、T-RockKrucifhx Klan全員、UGK、8Ball & MJG、Big K.R.I.T.ですね。

DSXTX

今作にはGot Me Fucked Up「No Sleep」「TRYING TO BE HARD」のようなフックに声ネタを使った曲が収録されているが、これも南部ヒップホップ的な要素だ。しかし、今作はクラウドラップや南部ヒップホップの影響だけで構成されている作品ではない。どことなく日本的な詫び寂びが感じられるのが今作、そしてARIGATO MANEの作風の特徴だ。それは例えば和楽器の使用のようなストレートな手法によって生まれているのではなく、ループされるメロディや質感などによってもたらされている。それがアメリカのヒップホップの要素と自然な形で合流し、今作をユニークなものにしている。ARIGATO MANEにこのスタイルのルーツを聞いた。

哀愁流離い系のルーツは、根本的なところだとゲームサントラだと思います。日本人だからそれを出したいのもありますね。和洋RPG、ドンキーコングのサントラは元から好きでした。クラウドラップなどでサンプリングされているのをよく聴いていたのもありますが、ウィッチハウスも好きでその派生からやウェイヴ系もかなり好きだったんですよね。ああいう冷たいシリアスな音にハードなビートの組み合わせが好きなのもあります。

完全にオリジナルなものを作るのは難しいですが、何か自分だけの要素や色を出すのが重要でクリエイティブだと思うんですよね。俺はそこを意識してビートを作っています。RPGやホラー映画だけではなく、意外な作品から面白いネタがあったりするので、サンプリングネタも地道に掘っていますね。映画やアニメを見ている時や、ゲームプレイ中に良いサントラがあればとりあえずビートにしています。

ARIGATO MANE

詰め込みフロウを得意とするDSXTXのラップは一聴してテクニカルだ。しかし、同時に感情表現のスキルも高い。シーンへの問題提起となる「Death Trip」のような苛立ちを表現した曲でもそのスキルは発揮されているが、今作でそれが特に感じられるのは内省的な路線だ。寂しげなループに乗せてDJ ScrewYoung Dolphなど故人を追悼する「A Song For Legends (Rice G Namida)」で始まり、「遊戯王」で知られる漫画家の高橋和希への追悼曲R.I.P. Takahashi Senseiで締める構成もあり、作品を通しで聴くとエモーショナルなリスニング体験をすることができる。この2曲についてのエピソードをDSXTXに聞いた。

「A Song For Legends (Rice G Namida)」は、亡くなってしまった自分が特にかなり影響を受けたアーティストや好きなアーティストへの敬意を込めて作った曲です。

この曲以降に流れる曲たちにこの曲でシャウトしている方達のギミックや声ネタサンプリングなどが含まれているので、俺らなりの「恐れ入りますがサンプリングさせていだきます」って意味も込めて一曲目に持ってきました。どの曲にピンポイントで先人達のギミックや声ネタがサンプリングされているかは聴いて当ててみてください!

亡くなってから何年も経ってしまったアーティストたちへの思いというのは、これから先に何年経とうがリスペクトは消えないし、その方達が作り上げたスタイルやアートは形を残し続けて語り継がれると思います。Geniusに歌詞を載せたので、この記事を見て興味を持った方は是非曲内でシャウトしている全員の曲を聴いてみてください。必ず関連性と俺らが受けた影響が一致するので。

DSXTX

近年亡くなってしまったアーティストへの思いも話したいです。まずPaper Route Empireの頭のYoung Dolphさんは、先人のDJ Squeekyや従兄弟のKey Glockなどと一緒にメンフィストラップの最前線で活動していたラッパー。正統派のブレないメンフィススタイルのフレイバーをきっちり残しつつ、最先端のトラップをカマしまくっていたのでマジで好きでした。これからPREはどうなっていくか楽しみな中で、凶弾に倒れてしまったのでとてもショックでした。

同じくメムのCMGはメムのみならず主要G地区の精鋭達が年々加入してすごく勢いあるし、ドカメインストリームでカマしまくりだけど、俺はやっぱりコアな側面が強いPRE派ですね。ドカヘッズ目線ですけど、残ったメンバーでDolphさんの魂を継承していってほしい。

Big Scarrもレーベルは違えど、メンフィス出身のホープとしてこれからがとても楽しみなラッパーでした。

DSXTX

Gangsta Booは、2023の年明け一発目にいきなりショックでした。世界のフィメールで間違いなくトップクラスに格好良いしスキルもエグい。もうこれ以上、すぐ先の未来でThree 6 Mafiaのメンバーの訃報は見たくないです。勘弁してください。

黒人天才さんは絶対現地で会いに行きたい人の一人でした。特に好きな曲は「三本下」「Ashimoto」。高校生の頃はYouTubeで世間擦れ仲間達や黒人天才さん自身が披露するGウォークやジューキンのビデオなど見まくっていました。もちろん広島チョコレートも好きだった。

俺の地元もそうだし、日本各地の米軍基地絡みの地区では特に日本語でラップする黒人ラッパーがいたはずです。その中でも黒人天才さんのメンフィスレペゼンスタイルは勝手ながら俺自身の勉強にさせていただいてました。

DSXTX

「A Song For Legends (Rice G Namida)」では、ヒップホップ界だけではなく坂本龍一などにも言及している。ヒップホップ以外の分野への思いも話してくれた。

Vangelisや坂本龍一さんなどの訃報も衝撃的でした。ニューエイジやエレクトロ、アンビエントなどからはヒップホップと同等の影響を受けています。クラウドラップに出会う前のガキの頃から今に至るまで、ヒップホップと同じくらいの時間を生活の一部として聴いて好んでいるジャンルです。自分がARIGATO MANEと共にこのスタイルで制作したり、ヒップホップ以外のジャンルのイベントからオファーがあったりするのも必然的だと思います。自分の内面の繊細な部分や陰気さ、弱さが曲調とマッチしているのは間違いないです。

俺らにクラウドラップがマッチするのも、こういう部分と主食である南部やベイエリアのヒップホップが自然と混ざっているからだと思います。繊細な部分や弱さといえばエモラップがありますが、自分らとはまた別の表現方法になると思います。Young Philip名義でラップしていた時代はガッツリオートチューンを使って歌うようなラップもしていましたが……。その時はLofty305やYung Leanから影響を受けまくっていました。もうあれはやらないけど。

DSXTX

そういえば、2014年か2015年あたりに、エアリプで「今更クラウドラップで騒いでいる奴らは何年も時代遅れ」と誰かに言われたことがあったんですよね。でもクラウドラップは流行り廃り関係なく、俺らの根っこを昇華したスタイル。逆に流行りでしか捉えてない奴は、アラサーゆとりド真ん中世代としてのアニメやゲーム文化も、南部やベイの歴史も何もかも理解していない。現に今そいつはブレブレだし。昔からブーンバップのスタイルでやっているベテランのように、俺らもベテランの域に達しても変わらず今のスタイルを貫く。がっつり古臭いのなんてやるつもりもないから、多少なりともその時代のやり方も踏まえた上で。そういう風にやっていきたいですね。

俺自身の作品を昔から隅々まで聴いている方ならもう気付いてると思いますが、俺はラップスタイルやトラック選びなど性格的にも好みがニ極化しているんですよね。一つはDevil Shytやホラーコア、ギャングスタラップなどに見られる暗く闇で負のマイナス感情、怒りや獰猛さなどの面。もう一つはニューエイジやアンビエントから成る、自分自身の繊細さに通じている部分や自然音、環境音等からインスパイアされた面。この自分のハッキリと二極化した内面的感情の振り幅が音楽的表現に表れていると思います。他ビートメイカー達とのコラボ作では一貫性のある作品になりますが、自分のソロアルバムでは必ず二極化するように作っています。

DSXTX

あと、ミュージシャンではないけど、「遊戯王」の高橋和希さんの追悼曲も作りました。

俺のアーティスト名の「セト」もそうですし、リリックにも沢山のインスパイアがありまくりだったり、あと厨二心くすぐる初期のイラストだとか。とにかく俺がどうとか関係なく、アラサー世代からしたら完全なレジェンドなのでリスペクトと追悼の意を表明させていただきました。

そして、このインタビューの最中にHタウンのレジェンド、Big Pokeyが亡くなってしまいました……。Big Pokeyは南部のジャストライミングフロウラッパーでガチに一番上手く、且つ格好良く渋いラップをするラッパーだと思っていました。もっともっとこの先、何年も最新のトラックに乗った沢山のラップが聴きたかった。非常に悲しいです。合掌。

DSXTX

今作の収録曲のいくつかは「SHINING RICE」「SNOW MOTION THE MIX TAPE」といった過去のEPが初出だ。ベスト盤的な性格も強く制作時期もまばら、さらに32曲という大ボリュームながら不思議と寄せ集め感のような印象は受けない。それは二人の目指す方向がしっかりと噛み合っており、デュオとしての音楽性が確立されているからである。

ヒップホップは新しい試みへの挑戦と同じかそれ以上に、先人との繋がりを確認していくことが重要になっている音楽である。自分たちのスタイルのルーツを示しながら独自のカラーを加えていく迷い無きRare Forestedの二人は、まさにMain Attrakionzも名乗った「Best Duo Ever」の冠を継ぐにふさわしいデュオなのだ。近年の集大成のような今作の後、二人はどんな音楽を届けてくれるのか? 今後も要注目である。

早くて2023年内、遅くても来年にはソロで数年ぶりのフルアルバムをリリースする予定です。他にもいつも通りKAY DIEGOとのコラボ作も作っているし、名前はお楽しみってことで伏せておきますが、ラッパー同士のダブルネームEPも何作か控えています。

DSXTX

今後の俺の活動としては、Blind ForestプレイリストをSoundCloudに随時更新していく予定です。あとビートテープをBandcampに上げる予定。最後まで読んでくれた人ありがとう!

ARIGATO MANE

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