見出し画像

「初任者授業改善システム」を考える2~継続的・効果的な研修システムとは?~

前回の記事の続きです。


 前回は、私自身が新人時代に受けた初任者研修を振り返り、
どのような育成システムがあるかを見てみました。今回はそれらのシステムが抱える課題とよりよい育成システムの形を検討することを目的としたいと思います。


4 いわゆる初任者研修システムの抱える課題とは?

 「課題」と書きましたが、前回振り返った研修システムはいずれも効果的なものです。

 自治体の教育委員会が主催する初任者研修では、教育公務員としての心構えや制度、過去の裁判の判例等を学び、行動の指針を持つことができます。
また教科指導や生活指導などに関わる基本的な知識、言うなれば教員としての「共通言語的知識」を学ぶことができる貴重な機会でありました。

 また校内の授業研修では、授業計画→実践→フィードバックというプロセスを経て、先輩教員からの助言や技術の共有を経て、実践的な授業力・指導力を磨くことができました。


 その中であえて課題を挙げるのであれば、以下のようなものがあると考えています。
①自治体の初任者研修は実践的指導方法を学ぶ機会が限定されている。
 基本的な「知識」を学ぶ場としては機能していますが、「指導技術」を学ぶ場としては改善の余地があると思われます。
 技術を学ぶ場はありましたが、先進的授業実践の見学が1年目に1回、
模擬授業の場が夏期宿泊研修中に1回、2年目研修の夏に1回程度であったように記憶しています。
 技術は現場での実践や研修を通していけばよい、とも言えるかもしれませんが、初任者には体系的指導法の技能は備わっていないことが一般的です。なぜなら、教員養成段階において授業の技術を学ぶ場は、必修の教科教授法が4年間で4単位程度、その他には教育実習の場しかないからです。この限られた時間であらゆる学力層に合わせた授業立案の技術を身に付けることは極めて難しいと言えます。


②校内の授業研修は回数が少ない(年間3回程度)
 「指導技術の育成」は現場での授業研修で補完したいところです。しかしながら、現場での実践を通した研修は大変効果的でありますが、機会が限られていることが課題です。

 当時のルールでは3年目までの教員は年間に3回校内研究授業を行うことが義務付けられていました。この機会は前回の記事・上記にもあるように大変貴重で技術向上に効果的なものです。
 しかしながら、「年間3回」しか授業にフィードバックが与えられないというのは、初任の先生が授業改善を行っていく上では不足していると言わざるを得ません。現場のマンパワーによる負担を抑えながら、いかに若手が継続的に振り返り・改善していく機会を「継続的に」設定していくかが大切であると感じています。
 


5 文部科学省は令和の研修をどのように発展させていくのか?

それでは、どのような研修が必要とされていくのでしょうか。
まず国は今後どのように教員養成をしていくビジョンがあるのか、見てみたいと思います。

今回は文部科学省ホームページより、
「令和の日本型学校教育」を担う教師の養成・ 採用・研修等に関する改革工程表(案)」を参考に検討してみたいと思います。

https://www.mext.go.jp/content/20230320-mxt_kyoikujinzai01-1412985_00004-12.pdf


「教員の数をそろえること」が今の政策の中心となっていますが、
様々な背景を持つ新人が授業を円滑に行えるようにする政策はあまり見受けられませんでした。

合計8ページ分さまざまな施策・改革案について書かれていますが、大半は柔軟な教員養成方法について、すなわち教員の母数をいかに増やすかが主題となっています。
そのなかで教員研修について書かれているものは以下の1項目のみでした。

抽象的であり、どのように現在働いている教員を「強化」していくかというプランは見えません。ここについては残念に思いました。

6 よりよい初任者育成システムとは?

ここからは経験と私見も交えながら、よりよい初任者研修システムについて検討していきたいと思います。

教員として最低限必要な「知識」については、当時あるいは現行の初任者研修で十二分に学べると思っています。
一方で実践的な「指導技術」を学ぶ場は、必修の教育委員会主催の研修においてのみでは、十分に学ぶ機会がなかったと思います。(もし今は実践の場が増えた、とかあればぜひご指摘ください)

その中で、初任時代に最も自分の「指導技術」を高めてくれたのは、毎日の授業実践と、それに並走してくれた厳しくも愛情深い先輩方による継続的指導でした。
同教科・同学年の先輩方が授業を見に来てくれてアドバイスをくれたり、
課題があるときに相談に乗ってくれたりしたことは、
初任者で体系的な指導法も持たず、先行きが見えない中で指導をする自分を
力強く支えてくれました。
しかし、これはあくまで制度化された以上のことを、この職場で先輩方が行ってくれたから可能となったことです。
つまりこれはマンパワーへの依存の元に実行できたことであり、
一般化できる「システム」とは程遠いものです。

まず単純に校内研修の回数を増やせば、というのも難しいです。それは、
①多数の指導案の作成は、初任者にとって大きな負担となる
②現状の仕事分担の中では、先輩教員や管理職の先生にとっても頻繁な授業見学は時間的に難しい
③個別フィードバックを体系的・継続的に行う仕組みができていない
というのが現実であるからです。

それでは、初任者の指導技術を育成する「手厚い指導の一般化」すなわちより良いシステム作りのためにどのようなことを行っていけばよいのでしょうか?
以下のようなアイディアを挙げてみたいと思います。

① その学校で求められる指導技術の体系化・リスト化(目標の共有)
② 育成・研修部門の分掌を設置する(担当教員の明確化)
③ 個別コーチングの機会を増やす(長所と短所の明確化+フィードバック回数の増加)
④ 生徒からのフィードバックを受ける機会を設ける(継続的フィードバックと改善)
⑤ 指導力の変遷の「見える化」(指導技術のメタ認知)

その学校で求められる指導技術の体系化・リスト化
よく研究授業の後に、チェックリスト的なものを渡されてそれを元にフィードバックをしていただく機会があったのですが、
その項目を事前に全体で共有しても良いかもしれません。
そもそも、その学校ではどのような点(例えば板書のレイアウトや、話し方、生徒の思考を促す発問や活動の有無など)に留意しながら指導・授業していくことが求められるのかが分かっていれば、それにある程度沿う形で指導案も作ることができるようになるはずです。
「評価者」と「被評価者」という構図を作るだけでなく、全体で目標を共有して指導に当たっていく「協力者」であるという組織ができるとより良いでしょう。

② 育成・研修部門の分掌を設置する(担当教員の明確化)
前述の通り、授業見学やその後のフィードバックには、授業者だけでなく見学者側にも一定の時間と労力が求められます。
現状では時間が空いている先生方や管理職が参加し、その後の指導にもあたっています。それはもちろん任意によるものであり、協力できる人や指導に熱心な人が育成を担っていくという形になっていますが、その先生たちは当然ながら自分の空き時間を指導のために提供することになります。
よって、多忙な時期などには、せっかく初任者が模擬授業を行っても見学者が少なく、十分なフィードバックを受けられないということも起きます。(誰も悪くないのですが)

継続した指導には、継続して見学と助言を行い続ける教員が必要となります。よって分掌業務の中に「育成・研修」を明確に設け、そちらに配属されている教員の立派な分掌業務として「初任者への継続指導」を行ってもらうのはいかがでしょうか。
「現状も初任者には指導教員が付いている!」という声が聞こえてきそうですが、その先生たちは大抵の場合ベテランでありその他の分掌にプラスした形で指導教員という業務を与えられていることが多いです。
そうではなく、一定数の教員が初任者(1年に数人程度のはず)を継続的に指導できる体制を整えておくことが重要です。

③ 個別コーチングの機会を増やす

②に付随することになりますが、育成の専門業務を担当した教員は週1回あるいは2週間に1回など定期的に初任者の授業を見ることが大切です。
それはダメ出しやプレッシャーを与えるためではなく、授業者の長所と短所を把握し、学校のニーズと合わせながら教科や個に合わせた育成を行うためです。
また定期的に見学することによって、授業者(初任者)の授業での工夫や向上を確認することができ、それらに対してフィードバックを行うことで初任者も安心して授業改善を継続することができることになります。
また年間3回の研究授業だけでは得られなかった「定期的なフィードバック」があることにより、より多くの改善がなされていくことでしょう。


④ 生徒からのフィードバックを受ける機会を設ける
年間3回 研究授業で管理職+教科内外の先生からフィードバックを受け、
月2回以上 「育成部」の指導教員により、定期的なフィードバックを受けることで授業技術は間違いなく向上します。
さらに、生徒から授業のフィードバック(各実践への効果の実感や感想、意見など)を受ける機会を多くすることも授業力の育成には大きく役立ちます。
どんな学校でも、今は学期に1回程度は授業評価アンケートを実施し、教員にもその結果がフィードバックされているはずです。
それらに加えて、何か新たな実践や継続的に取り組んでいる指導方法に対して、生徒がどのように捉えているのかを「聴く」機会を設けることは指導方法の軌道修正や確認に極めて有効です。その反応を参考に、初任者はとるべき行動を把握しやすくなるということです。

⑤ 指導力の変遷の「見える化」

客観的に、指導改善がうまくいっているか否かを測るためには、生徒からのフィードバックを参考にすることに加えて、
「数値化された指標」を参考にすることもできます。
例えば年間に3~4回同一会社の模試を受けるのであれば、特定の大問(英語であれば語彙、文法、読解セクションのいずれか)の正答率や偏差値の変遷を観測するなどして、
自分の指導法と生徒の学力向上がどのように相関しているかを測ることも有効だと思います。(もちろん自分の授業は生徒の成長に一要因でしかないため、因果関係を測るまではできないことが多いです)
単語力を強化する実践を年間通して行っているのであれば、同一範囲のテストを年間で数回行って、変化を見るなどは取り入れやすいでしょう。



今回は初任者研修システムの課題の分析と、よりよい育成システムについて検討してみました。
これらは、若手の先生たちがよい働きやすく安心して教職を行っていける社会の実現のために考えたことであって、
若手の先生たちに不満があるとか、そういうことでは全くないです。
むしろ育成システムも不十分な中、いきなり現場に入り、入職から一週間強で学校教育の主体者となっていくことは単なる「無理難題」であり、
私たちには彼らの失敗や不足を責める権利など一切ないのです。
「無理難題」を押し付けられながらも、目の前の生徒の成長のために奮闘している先生たちが、少しでも安心して日々の授業実践や改善を行っていけるようになるために、
私たちは現場レベルでの研修システムを向上させていくべきなのではないでしょうか。
現場で働いている皆様が、現任校でのシステムを振り返るきっかけになれば嬉しい限りです。

本日もありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?