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記事『人は何故「神」を信じるのか』

【イギリス文学の授業に提出したレポート】
 イギリス文学の世界(前期)で勉強した中から、自分で一つ「なぞ」
を見つけて仮説を立て、証拠をあげていきながら、結論を書く。
 1600 字以上(ワードでファイルを作る。図版を載せてもかまわない)

[人は何故「神」を信じるのか]
ある調査【1】では全世界で「神」を信じている人口は全体の7割以上であることが示された。神の存在を信じる人々は何を理由に「神」を信じるのだろうか。
仮説としてあげられるものは、「神が存在する」「自然の脅威などを理由として神を作り上げた」「現実の世界の酷さの理由と救いを求めるため」などがある。
これらの仮定を証明するには、まず、「神が存在する」前提と「神が存在しない」前提で分けて考えなければならない。ここで論じる「神」はありとあらゆる宗教において「人知を超えた存在として畏怖・崇拝され、信仰の対象となるもの。絶対的能力を持って人間に禍服をもたらすとされる(『明鏡国語辞典』 第二版 大修館書店 より)」存在のことである。

[「神が存在する」ことの証拠]
まず初めに、「神が存在するから神を信じる」といった場合のことを考える。その場合、「神が存在する」ことを証明しなくてはならない。

[①宗教を越えて同じような信仰・神話がある]
地球上の各地域で似たような信仰や神話が存在している。それらは貿易や植民地化などで伝わった可能性もあるが、そういった関わりが出来る前から存在していたようだ。
例えば、「神の体の一部から子供の神が生まれる」などの神話があげられる。ギリシア神話において代表的なものはヴィーナスの誕生だろう。彼女はウラノスの生殖器を息子のクロノスが切断した際に精液が海に落ちて生まれる。また、日本の神話の『古事記』(【2】)では黄泉の国から帰ったイザナキノミコトが汚れをはらうために行った禊の場面で、体に着けていたものからたくさんの神が生まれる。そして、顔を洗うと左目から天照大神、右目からは月読命、鼻からは須佐之男命が生まれた。このように両方ともに本来子どもを作るための行為である「まぐわい」を行わずに子どもが生まれるという共通点がある。
また、「太陽神は男である」という思想も共通しているようだ。ギリシア神話のヘリオス、古代バビロニアのシャマシュ、古代エジプトのレー、彼ら全員が男神の太陽神である。また天照大神も男であったという説がある。これらが共通している理由として、太陽(陽)が男、月(陰)が女、という考えがあるからだ。その考えからかヘリオスと同一視されるアポロは月の女神であるダイアナと共に生まれる。(太陽神【3】)
このように共通点が多くある。これは、同一の神を世界中で信仰していたから解釈の揺れはあるが、似たような話が残っているのだ、と言えないだろうか。同一の神の事実だから、それらを人間が知り各地で言い伝えているというのなら、合点が行く。
「樹木崇拝」もここに含めることが可能なのではないか。樹木崇拝とは「樹木が超自然的な力の表現あるいは象徴として働いているとする宗教的観念。(『ブリタニカ国際大百科事典』 小項目電子辞書版 ブリタニカ・ジャパン より)」のことであるが、もし実際に「神」が樹木の中にいたとすれば、この信仰が世界中にあることは何もおかしくはない。

[②キリスト教において見えないものを信仰することが大事]
「信仰がなければ、神に喜ばれることはできません。神に近づく者は、神が存在しておられること、また、神はご自身を求める者たちに報いてくださる方であることを、信じていなければならないからです。」(ヘブル人への手紙11章6節)とあるように、キリスト教においては、姿が見えなくても神がいる、と信じることこそが大事だという。全知全能の力を持つのだから、神は民衆に姿を見せてすべての人に信じさせることはできたはずだ。しかし、それで信じたからと言ってそこには「信じる気持ち」が存在しない。だからこそ、姿の見えないものを信仰すること自体が神を存在させるのではないか。
「イエスはトマスに言われた。”わたしを見たから信じたのか。見ないのに信じる人は、幸いである。“」(ヨハネによる福音書20章29節)
このようにキリスト教では考えているようだ。信じる心こそが大事、という点は他の宗教にも共通するだろう。故に同じ考えを持って各宗教の神も姿を見せないという可能性がある。

[③信じている人が7割もいる]
なにかしらの神の存在を信じている人が7割もいる、と言うこと自体が「神は存在しない」と言えず、神がいるということの証拠になるのではないか。目に見えないものを世界の7割の人が信じる、ということは神の御業ではないだろうか。何千年もの間、地球上のいたるところで忘れられることなく受け継がれて信じられていることは、それ自体が奇跡のようなことであり、神が存在しなければ起きえないことだと言える。

[④自然=神]
世界中の民俗宗教などの多くに「自然=神(大いなる力)」という風に同一視しているものがある。日本の神道もこれに値する【4】。タイラーが提唱した『アニミズム』もこれに値し、「呪術・宗教の原初的形態の一つ。自然界のあらゆる事物は、具体的な警鐘を持つと同時に、それぞれ固有の冷帯や政令などの霊的存在を有するとみなし、諸現象はその意思や働きによるものとみなす信仰(『広辞苑』 第六版 岩波書店 より)」である。トーテミズムも含まれる部分があるだろう。樹木崇拝もこれに含まれる。
これらの信仰では、自然そのものが「神(大いなる力)」であるため、自然がなくならない限り神は存在する。言い換えれば、自然が存在しているため、神も存在していると言える。
しかし、この考えは裏を返せば、それは自然でしかないのだから神は存在しない、とも言えるため、次から上げる「神が存在しない」場合の証拠にもなり得る。

[「神が存在しない」ことの証拠]
次に「神は存在しないが神を信じる」と言った場合について考える。この場合もまず、「神がいない」ということを証明することが必要だ。

[①多神教と一神教]
キリスト教は唯一神だ。しかし、イエスも神の子、救世主として信仰の対象だ。マリア信仰も存在する。一方、日本の神道は、多神教だ。古代ギリシアの宗教もギリシア神話など多神教である。しかし、イスラム教は一神教であり、ムハンマドは預言者でしかなく信仰対象ではない。
このように世界中にある宗教ごとに信じる神が違い、正反対の信仰が行われていると言えるだろう。神が本当に一人しかいないのであれば、他の宗教でも形は違えど神は一人として伝えられるだろう。また、多神なのであれば、一人だけを特別視するような宗教を作るのはいかがなものか。解釈の揺れだけでは説明がつかないのではないか。

[②神道は日本のことしか言っていない]
古事記では天つ神が「この漂っている国を修め理り(つくり)固め成せ」とイザナギノミコトとイザナキノミコトに命じて、国が生まれる【5】。この国とは日本のことだ。このように、神道では日本のことしか言っていないのだ。故に他の国が出来る理由はわからない。神道においては日本しか存在していないのだ。しかし、自明であるが、日本以外もこの世界には存在している。そのため、矛盾が生じる。もし、神が各地域を各地域ごとに担当分けをして作ったのだとしたら、そのことが伝えられるべきである。故に神は存在しないといえるのではないか。

[③選民思想の存在]
もし、地球を作った存在がたった一人の神であるのならば、平等に愛するはずだろう。しかし、今の世界はそうではない。その証拠として、一民族だけを救済する神がいるとされていることがあげられる。代表的なもので言えば、ユダヤ教であろう。【6】彼らは唯一絶対の神のヤハウェのみを信じ、他の神を一切認めず、ユダヤ人はヤハウェに選ばれた民であり、律法を守ることで救済されると考えた。これは、選民思想であり、「自分たちは神によって選ばれた特別な民族・人種である、という信仰、確信。このもっとも代表的なものがユダヤ教における選民思想である。ここでは、現在、抑圧されて不幸な状態にあるユダヤ民族が神の召命によって解放され、やがて正義と仁慈に満ちた世界を実現する民族的使命をもつもの、として描かれていた。(『日本大百科全書(ニッポニカ) 小学館 より)」というように、自分たちだけが救われるという思想がある。
これは、現状の苦しみから脱出を望んだ民族が、「自分たちだけが苦しみ、しかし最終的には救われる」と思い込むことで、悲惨な状態を耐え抜こうとしていたからなのではないか。「神」を作り出し、こんなにひどい現状でも私たちは選ばれている、と縋りつく精神の居所を作ったのではないか。
このような信仰はいたるところに見られる。新興宗教などはこれに当たるのではないか。人間の弱さゆえに一人では立てなくない現状の依存先として「神」は作られた。その「神」を信じていれば、苦しみや喜びを受け入れることが出来、人生が豊かになる。そういった理由で現代まで「神」の存在は信じられてきたのではないか。

[④自然の脅威に理由を]
人々は自然の中で生きているからこそ、自然に悩まされてきた。大雨が続けば土砂崩れや川の氾濫、不作になる。不作が続けば、食糧難で飢餓になり死を迎える。海が荒れると多くの人が死ぬ。雷に当たると死ぬ。そういった死が隣り合わせの世界で、ただただそれらが襲い掛かってくるのに怯えているだけでは、心が持たない。そのため、それらに理由をつけることにする。「悪さをしたから山が怒っている」「あいつが死んだのは悪いことをしたからだ」と言ったように因果応報の図を作り、「山神」などと言う存在を作り、お供え物をすることで怒りを鎮めてもらったのだろう。一度成功したら、それがたまたまであろうが、続けて精神的安心を得る。失敗したら何かが足りなかったのだ、とより多くお供え物をしたり、ルールを作ったりするのだ。そうすることで、安心するからだ。そうやって、「神」は生まれて人々の心に根付いていく。神道はこの方法から生まれた信仰である。【4】【7】
この考えは、先に挙げた「神が存在する」の『④自然=神』に限りなく近く、逆の解釈であるといえる。自然はただの自然現象であるから、神などいない、ともいえるのだ。また、上記「③選民思想の存在」とも近いものがある。人の弱さを支えるための宗教であり「神」という存在なのだ。だから人の多くは「神」の存在を信じるのだろう。
また、「魔女狩り」なども人の弱さゆえに「神」ではなく「魔女」という敵を作り出したものだと言える。共通の敵を作ることによって、精神的依存場所を作ることが出来たのだろう。また、実際に神がいるのだとしたら、このような「魔女狩り」で狩られた人間に救済を与えるべきなのではないか。また、魔女狩りを行った人間には罰を与えなければならないのではないか。

[⑤当時の政権を支持・維持するため]
エリザベスI世は民衆の支持を得るために肖像画に神話を使っていた。女王自体を神話化し広めたのだ。これは、神話自体がすでに広まった状態であるからより影響があった可能性もあるが、これより以前の世界でも同じことが行われているのではないか。言ってしまえば、その時の王様や政権を維持させるために「神によって選ばれたのだ」と神の存在を作り出し、民衆に支持させたのではないか。今では『王権神授説』という言葉がある。権力を得るための理由として神の存在を広めたとしたら、多くの国で宗教のトップが莫大な権力を持っていたこともわかるのではないだろうか。

[⑥人間創造の違い]
アダムとイブは神が土から作ったと言われている。「主なる神は土(アダマ)の塵で人(アダム)を形づくり、その鼻に命の息を吹き入れられた。人はこうして生きる者となった(第2章7節)」【8】また、「アダム」はヘブライ語で「赤土」という意味である。
一方、日本の神道ではイザナギノミコトとイザナミノミコトのまぐわいからたくさんの神々が生まれてくる。これが人間の先祖なのではないだろうか。また、神道では父と母だけでは生命として誕生できないとされているようだ。この二人と産土神の存在が必要である。【9】
しかし、ギリシア神話でも人間は土から生まれたとされるようだ。だが、キリスト教とは大きく違い、大地から自然発生的に生まれていきてきたのだとされる。【10】
このように、人類は同じ仕組みのはずなのに各宗教ごとにつくり方が違う。そうなると、その後不具合が出てくるのではないか。また、生まれてから信仰を変えた場合、その人間はどの生まれ方がルーツとなっているのか怪しくなる。

[結論]
以上のことから、神の存在の有無よりも大事なのは「人間の弱さを支えるための宗教であり神なのだ」という考え方だろう。各地で同時多発的に「神」を作り出し、信仰し始めた。この偶然は、神の力によるものか、それとも人間の性質かそれはまだ解明されていない。そして解明される必要もない可能性もある。
人は過度なストレスの中では生きていけない。【11】
その時、私たちは信仰に縋るのだろう。「神様が見てくれている」「あんなひどいことする奴には神様が罰を与えてくれる」そのように思うだけで、少し心に余裕が出て生命を維持することが出来る。救いがない中で、ただ辛いことに耐えることは人にはできないのだ。社会も文化も発展した今、趣味などに縋ることもできるだろうが、それでも「神様」という言葉は日常で出てくる。遠い昔、キリスト教や神道が出来たころは、今よりも何もなく縋る先がなかった時、「神」の存在は温かく救いのように見えただろう。
私は、もともと「神」が存在しなかったとしても、古くから人々が信仰してきた「神」が今の現代にも繋がってまだ信仰されることによって「存在している」のではないかと考える。これはミームのようなものではないか。人々の信仰心が伝達し、増殖していって「神」が生まれる。「神」がいるという前提の信仰が進めば進むだけ、「神」の存在は濃くなる。ミームによって増え濃くなった「神」は様々な解釈や伝達の欠落、創作や実在人物の存在によって、新たな存在になったり、信じられたり、信じられなかったりするのだろう。私たちが今見聞きしている「神」もどこかからか辿り着いた昔の人たちのミームであり、遠い国のミームであるのだ。
日本においての宗教観は、信仰が薄いように思われるが、むしろ強すぎるミームにより信仰すらする必要がないほどの集合的無意識として存在しているように考えられるが、この考えについては今後の課題としたい。
(注釈)
【1】世界の7割「神を信じる」 日本は無神論者の割合で世界2位 ギャラップ国際調査
https://www.christiantoday.co.jp/articles/25615/20180601/religion-prevails-in-the-world-gallup-international.htm (2020年8月13日)
【2】『現代語古事記 神々の物語』 竹田恒泰著 学研マーケティング出版 2013年
【3】太陽神(たいようしん)とは - コトバンク
https://kotobank.jp/word/%E5%A4%AA%E9%99%BD%E7%A5%9E-92153(2020年8月13日)
【4】神道への誘い | 神社本庁
https://www.jinjahoncho.or.jp/shinto/shinto_izanai(2020年8月13日)
【5】国生み | 神社本庁 https://www.jinjahoncho.or.jp/shinto/shinwa/story1(2020年8月13日)
【6】ユダヤ教 | 世界史の窓
https://www.y-history.net/appendix/wh0101-069.html(2020年8月13日)
【7】神道とは – 神道国際学会
http://www.shinto.org/wordjp/?page_id=2(2020年8月13日)
【8】「アダムとイブ」の生涯とは?林檎の由来や『聖書』と絵画も解説
https://biz.trans-suite.jp/25491(2020年8月13日)
【9】【神道03】人間誕生の秘儀(父と母と産土神の産霊)
https://transpace.jp/tanjo/(2020年8月13日)
【10】ギリシャ&ギリシャ神話人間の起源
http://www.ihic2008.org/small-business-healthcareare-health-savings-accounts-the-solution.html(2020年8月13日)
【11】 NHKスペシャル「シリーズ キラーストレス」(2夜連続) http://www.nhk.or.jp/special/stress/index.html(2020年8月13日)
(参考文献) <研究ノート>日本文化とヨーロッパ文化における樹木崇拝の比較について カミンスカ クリスティナ著 https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=4377&item_no=1&page_id=13&block_id=83 (2020年8月13日)
『D. H.ロレンスと樹木崇拝- i生命の樹」をもとめて』 中田 智子著
神は存在するのでしょうか?神が存在するという証拠はあるのでしょうか? GotQuestions.org
https://www.gotquestions.org/Japanese/Japanese-does-God-exist.html(2020年8月13日)
神の存在は証明できるのか~科学と証拠の関係 | TRUE ARK
https://true-ark.com/bible-faq-proving-god/(2020年8月13日)
<学術雑誌論文>『アニミズムの語り方:受動的視点からの考察』長谷 千代子著
イスラーム教 | 世界史の窓 https://www.y-history.net/appendix/wh0501-008.html
ミームとは - コトバンク (2020年8月13日)
https://kotobank.jp/word/%E3%83%9F%E3%83%BC%E3%83%A0-682715

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