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文体練習 比喩の坩堝はどこに

一文を長くしようのコーナーです。
比喩に比喩を重ねる文体をやってみます。

もう戻れないと知っていても、僕はただ使われることの無い公園のベンチに我が物顔で眠り込む猫のような君を見つめることしか出来なかった。

空はどこまでも青くて、息が止まりそうなほどの夏を受け止めるためだけに肺を膨らませる。

ああ、と言うだけのアイツは、俺の事を心底嫌いなのに全てを包み隠そうとしたあの女に似ていて吐き気がした。

好きな人を殺した後に降るには多すぎる雨は、誰も殺すことすら出来ない私をただじっとりと濡らす。

飼い犬が鳴きだして、もうすぐ猫がそれに怒る、そんな騒がしい雨が引き連れてきたのは、たった一つの青春だった。

傘を嫌う僕はその日も傘を持たないでいたのに君の傘の中で右肩を濡らす。

大好きだったアニメを見ながら過去を埋める夏休みの日記を書いたあの時に飲んだ麦茶よりも美味しくないそれを私は何も感じないように胃に流し込んだ。

なんとなく繁華街のラブホテルでセックスをした苗字も知らない人は冷蔵庫から麦茶を私に渡してくれたな、と思いながら私は1人ぬるくなったコップのお茶をチビチビと啜った。

私は1人で踊ることを夢みたその体育館は、今は誰も小学校であることを覚えていないよ。

君がつけたキスマークは、君の痛みを分けたように道端の菫に柘榴をまぶしたような色をしていた。

私はそっとあなたのキスマークを撫でた。きっと、何度も何度もこの骨の上に椿の花を咲かせてきたのだろう。

ただ一人寂しくて見たあの冬の空を私はあの入道雲に訴えた。

インフルエンザになった日に父が置いていったバームクーヘンのような甘さの海斗の表情はひたすらに私を見透かしているのだった。

宙にぶら下げられた人形は、クラスでから回る道化になり損ねた来年の頭には虐められるであろうアイツのようで僕は見てられなかった。

喘ぐ君の口の中は、舌の色を全てかき消しどこまでも続く闇のようで私はそこに吸い込まれそうでそっぽを向いた。

ゾッとするようなあなたの部屋の観葉植物は、龍のしっぽの鱗のようであった。

踊り狂う猫たちはその楽しさで鳥を飛ばして、私の家の中を揺らした。

馬鹿げた笑い声をあげる兄貴を横目に僕は僕で深淵を覗きながらその恐怖に乾いた声を上げるように愛想笑いを浮かべた。

彼の見た目はいつだって私の嫌いなサボテンのようにトゲトゲした攻撃的なものだから水やりを怠りたくなってしまう。

そういやあの人はどうなったの?と訊ねる彼女は今日は一段と命を削るような色を身にまとっていて、私も早く自分の魂の形を理解しなければなんて考えていたから返事が遅れてしまった。

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