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SS『もう少しだけ青い』

大きな交差点で私は立ち尽くしたくなった。車窓から見えたその交差点は六叉路で、横断歩道なんてなかった。ただ、車が行き交う上を幾つもの歩道橋があるだけ。

日頃から、私はなんてちっぽけな存在なんだろうと思っているけれど、夕焼けが赤く染っていたら綺麗だと思うし、海を見ると広いなぁと思うのだから何も考えていないも同然だった。

ものとして運ばれる通勤快速は、私の一部となり得るだろう。地球の足の指の間みたいなこの場所は、あの匂いで満たされている。

名前を知ろうとも思わなかった校舎に大きく『全国大会出場』と書かれていると、本当に自分が情けなくなる。

自分の人生で成し得たことがあるとは思えない。そして、これからもそうなんだろうな。そう、私の人生はこの空のように薄暗いんだ。雨が降るわけでもなく、朝急いで持った傘は一日中邪魔になる。そんなハッキリしないのが私で、海すら霞ませる。

高校の時に何か一つに打ち込むことが出来たなら、少しは変わっていたのかな、と考えてみるがそんなこと出来ないから今の自分なんですよ。

自分で嘲笑する。

たくさんの人の皮脂のついた窓は、ひたすらに汚くて不鮮明に地球なるものをうつす。

それを不愉快だと思ったということは、もう少し私の目に映るもの達は鮮やかだったのかもしれない。

目的地まで運んでくれた電車に感謝もせずに歩き出す。その群れの一員として、私はただ足を動かすだけだ。

高層ビルでもない。
十階建てぐらいのビルとマンションの街並みの中で、私は前を向いては歩けなかった。手の中を見ては、感覚だけで歩行する。

なにかの音がした。
それは、すぐに鳩達の羽ばたきだとわかる。鳩のお腹ってあんなにも白いんだな、なんて考えてしまった。

上から落ちてくる女子高生を抱きしめた。

そのまま、私は潰れ果て土に帰れることになった。もう少しだけ美しいはずの地球というものの一部として生きることが出来る。

ああ、最後の最後に人の役に立てたかな。
一瞬だけ感じた温かさに私は空を見上げることが出来た。

少しだけ
水色をもっと水で薄めたような空が見えた。

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