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記事『世界ワーストで多忙な教師』

【教職概論のレポート】

[世界ワーストで多忙な教師]
日本の教師は世界で最も多忙である。日本教職員組合の2009年の調査報告【1】では日本は一日の労働時間が11時間に及ぶという、二番目に多いイングランドより3時間近く多いことがわかっている。また、OECDの調査【2】でも一週間の合計労働時間は小学教師で54時間、中学教師で56時間と参加国平均38時間よりも圧倒的に多いことがわかる。
けれど、小学教師よりも労働時間が多い中学教師は授業時間においては参加国平均より少ないのだ。
何がこんなにも教師たちの労働を増やしているのだろう。教師たちはいったい何に時間を割いているのだろうか。
また、教師の離職率は非常に高く、そのうち病気を理由に退職する人の中で精神疾患での離職者の割合は、60%近い。(【3】の(5))
この事実の原因は過労だけではないだろう。人間関係や仕事の難易度、逃げ場のなさなども原因になる。以下に問題点として考えられるものを上げて、一つずつ考えていく。

[教師がやるべきでない雑務]
まず、教師の1日の労働内容を確認する。
主な業務内容は
・授業 ・実習 ・生徒指導 ・授業準備 ・校務分掌
・クラブ活動 ・保護者対応
などがあげられる。ここに行事予定があればそれに対する業務が増える。けれど、これらは世界的にも同じなのではないか。そこで【2】をもう一度見てみる。課外学習、クラブ活動、事務作業が圧倒的に他国より多いのだ。
そこで、このツイートを見る。これは少し前に話題になった画像【3】なのだが、中学教師である投稿者が教師がやるべきでない雑務をまとめたものだ。

画像1

画像2

このような雑務に多くの時間が割かれている。投稿者自身が画像の中で、改善策を記入しているため、これらすべてに論じることはここでは避ける。また、SNSでの投稿のため鵜呑みにしないことも留意する。
一方、教師が無駄だと思うがこれほどあげられる中、解消されていないという事実は疑問を持たなければならない。組織として改善をしようとしていないのではないか。何故、この雑務は教師一人一人に押し付けられているのだろうか。
特筆すべきこととして、膨大な事務作業を勉強を教えるための教師自身が行っていることがあげられる。欠席者の電話やクレーム対応、教材の管理注文などは事務員を雇い、専門的にやってもらえば解決するだろう。ここで、私立の離職率の低さに注目する。これは、事務員が事務作業を担っているからではないか。事務作業が少しでもなくなることで、労働時間は少なくなる。専門的に同じ作業を続けることと全く違った業種の中で事務作業を強いられることでは、作業効率は大きく変わるだろう。また、精神負担も軽減される。
やはり、部活動の顧問活動が大きく疲労させている。ただし、教師を目指した人の中では部活動の顧問がやりたくて、と言う人も多くいるようだ。しかし、美術大学を卒業した美術教師が若いからと言う理由で運動部に回され、美術に詳しくない教師が美術部を持つ、なんてことはざらにあるようである。これでは、学生たちもよりよい指導を得ることが出来ず、部活動の必要性がなくなる。外部や専門家に委託することで、学生も正しい指導が受けられ、教師は負担が軽減される。
教師がやるべき最も大事なことは、勉強を教えることである。しかし、今の日本の教育現場では、何より大事な勉強がないがしろにされていることがわかる。世界基準で見た時(【2】の1ページ目)、ICT教育や児童生徒の自己肯定感や学習意欲を高める教育方法をとることが出来ていない。これらが連鎖的に将来のよりよい先生を生み出せないことに繋がるのではないか。また、そういった教育がない状態では、複雑な問題が起きうる。不登校や問題児といった問題【5】やまたモンスターペアレンツなども教育の欠陥故から来るのではないか。
また、不登校対策や問題児とされる生徒の対策などを担任の教師のみで対策することは不可能なのではないか。精神的な問題やカウンセリングの専門家ではない教師が一過的な感情論や主観だけで対処したのなら、その問題の根本を解決することが出来ず、より問題な状態になることは多いだろう。【6】
上の世代が若手に各種の雑務を押し付けているという事実もあるようだ。2013年の国際教員調査(TALIS 2013)【7】では、20代の若手の6割が60時間の労働をしている。これは部活動の活動も若手が多く担わされているということも関係しているが、雑務などで先輩に助けを求めても助けてもらえず孤独で頑張らなければいけないようだ。
以上のことから、現場で働く人数が業務内容と見合っていず、足りていないことがわかる。この問題は、教職員の離職率の高さにもつながってくる。
[病気離職多数の原因とは]
公立学校教員の精神疾患休職者は1990年度では1017人だったが、2014年度では5045人、5倍近くに膨れ上がっている(文部科学省調べ【3】の3ページから4ページ)。在職の教員数は減っているから、精神疾患休職者の出現率は増えていることになる。
まず、教職員の年齢の割合を確認する。文部科学省の調査【8】【9】によれば、50代が多く全体の30%以上であり、30歳未満が16%であった。この事実から、旧式の考え方がはびこっているのではないか。先ほど挙げた先輩に助けても助けてもらえない、などの事実は若手に重くのしかかるだろう。
また、1997年以降に増え始めている。これはいったいなぜであろうか。
[業務内容が増えた]
理由の一つとして、業務内容が増えたことが大きく影響しているのではないか。全国学力テストなど、世論により求められた調査などに協力するために時間が割かれる。先に挙げたようにこう言った雑務が増え、労働時間が長くなっている。また、2004年に学校運営協議会制度が導入されたことにより、保護者や地域住民などの意向を聞くことが義務付けられたことも大きいようだ。【7】

[「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」]
そもそも教師を縛る法律である給特法がブラックであるのではないか。これは、公立校の教員は多岐にわたる業務から勤務時間を厳密に管理することが難しいという理由から、月の給与のの4%分をあらかじめ「教職調整額」として支払われる代わりに、残業時間が長時間にわたった場合でも「残業代や休日出勤手当を支払わない」という規定になっている。
これの問題点は、1972年から48年間変わっていないという点だ。この法律での少し多く支払う4%というのも昭和41年の基準であり、現代の基準からずれたままである。また、法律に規定されている時間外労働は、部活動は含まれず、また超勤4項目以外の仕事は全て「自発的行為」として給与が支払われない点も問題である。
働いても働いても給料が変わらない、という事実に精神的に追い詰められるということは想像に容易い。これが公立の教員に精神疾患者が多い原因の一つとしてあげられる。

[教室と職員室しか場所がない]
また、学校にいる間の逃げ場がないというのも大きい問題点なのではないか。長時間学校に籠って仕事をしなければならない教師は、職員室での人間関係もより長く築かなければならない。息をつける場所がなく、職員室に行くと先輩に愛想笑いや仕事を押し付けられたり、そして夜遅くに家に帰り寝るだけ、だと心が休まらず体力も回復しないだろう。そして、子どもと同じ量の夏休みがあるわけでもない。長期休暇が1か月毎年得ることが出来たなら、自分の好きなことが出来たり精神的回復もできるだろう。
コロナにより学校が休校になった教師が「久しぶりに1か月丸々休んだ、仕事はあるけれど、とても幸せだ。不謹慎だがコロナに感謝している」といったツイートが話題になったが、それだけ教員たちは休むことが出来ていないのだ。他者がいる環境は心置きなく休憩できる場所ではない。

[まとめ]
以上の理由から日本の教師は肉体的にも精神的にも疲労していて、教師を辞めていく人が多い。これらを改善するためには、教育現場の体質を改善しなければならない。今までに上げたものも振り返りつつ、追加で改善への案を述べたい。
各学校ごとにカウンセラーを二人以上配置する。日本はそもそもカウンセリングを受けるということを嫌う。それは「精神が壊れた時点で弱者で敗者である」というような思想があるからだ。そういった考えを持つ教師も多くいるように思う。けれど、アメリカでは人の弱さを認めているからカウンセリングを受けることは当然である。いじめの対策などで生徒からの相談を受けることによって教師が精神的負担を感じ、全てを抱え込むということが起きやすいため、生徒側のためのカウンセラーであり、教師が相談できるカウンセラーを配置することは必要である。これは教室と職員室しか場所がなく、気を張っていなければいけない、という状態の改善にもなるのではないか。

また、いじめなどは犯罪として対処をするというのはどうだろう。教師は犯罪心理の専門家ではない。だからこそ、いじめの対処など難しすぎる問題なのだ。だからこそ、犯罪の専門家である警察によって、きちんと対処をしてもらえれば、被害生徒も楽になるだろう。また、犯罪の専門家として弁護士も上げられ、学校で起きうる事件を専門に扱う弁護士を教育委員会で雇うなどすれば、隠蔽体質などの改善にもなるのではないか。
本来教師と言うものは勉強を教える存在だ。そして、その中で確かに人間性の育みというものもあるだろう。しかし、先生自体が問題を持っていたり、問題児が暴れているクラスでは「問題のない子」は放置されてしまう。これは、本来平等であるはずの教育の機会を奪われているのと同意だ。問題を起こさない生徒は問題を起こさないから、面倒を見てもらえず、声すらかけてもらえない。そうなったときの孤独感は強いだろう。だからこそ、まっとうに勉強をしようとしている彼らにも目をかけられる状態を作る必要があるため、上二つのような対策をした方がいいだろう。これは教師にとっても良いことだ。人間を育てることに喜びを感じて教師を目指した人にとって、事務作業に追われて仕事を辞めたくはないだろう。またこれらの問題については、武富健治による『鈴木先生』という中学教師の漫画で大きく取り扱われているので、参照した。
年功序列制度があるため、高齢の先輩教師が力をつける。これは、職員室内の緊張を走らせるだけでしかない。そのうえで、仕事の方法を教えないなどという先輩教師は後輩教師にストレスである。しかし、先輩教師だからと言っても仕事を教えなければならないというのは、自分が持っている仕事がハードであれば負担が増えるだけで断りたいものだろう。だからこそ、「仕事を教えるための教師」を確保するのはどうだろうか。これは、上のカウンセラーと兼任できるのではないか。大学で教育についての研究をした人間や教育現場について新しい知識を持った人を起用すれば、良いのではないか。
部活動の顧問は教師の労働時間い負担を与えている。部活動を廃止し、地域のスポーツクラブを活発にするために各スポーツクラブにきちんとした指導者を入れるなどをした方が効率的なのではないか。スポーツに詳しくない教師に謎のプライドや理由で訳の分からない練習をさせられる、などは生徒にとって本来部活動を設置した動機から外れたことになるのではないか。
根本的に事務作業を事務専門の職員を雇いやってもらえば、大幅に負担は減るだろう。そして、教育委員会が各学校ごとに押し付けず、業務をすれば学校としては楽に動けるようになる。
しかし、これらの問題点は、予算がない、ということではないか。教育機関にお金を回せない社会自体が、教師の苦しみを生み出しているのではないか。教育現場というものが社会の縮図となっているのだ。だからこそ、そういった社会の方向を変えるために動かなければ、教師の苦しみは永遠に続き、年が経つごとにより業務が増え、首が締まっていくだろう。これ以上教師になる人が減って教育がないがしろにされるようになったら、より社会は偏っていくはずだ。だから、今食い止めなければならない。教育現場に予算が下りることは、社会を作るにおいて大事な要素だろう。
ここで、 -首相官邸ホームページの『我が国の教育行財政について』【10】のページを見る。「我が国の公財政教育支出の対GDP比は、機関補助と個人補助を合わせて3.8%であり、データの存在するOECD加盟国の中で最下位である。」と書かれてある。やはり、日本は教育にお金を回していないのだ。どのデータを見ても圧倒的最下位である。
また、「一般政府総支出全体に占める公財政教育支出の割合は9.1%であり、データの存在するOECD加盟国 の中で下から2番目である。」とあるように国の予算の中で教育に関する予算が微々たるものしか割かれていないことがわかる。
やはり、現場の人数不足解消や部活動の外部委託、カウンセラー配置などが積極的に行われないのは、予算がないためだ。そのツケとして、教師たちが酷使されている。人間は使い捨ての道具ではない。彼らが辞めなくても済むように予算を確保することを訴えていかなければならない。


(注釈)
【1】国際比較でみる教職員の働き方
https://www.jtu-net.or.jp/survey_effort/work/(2020年8月8日)
【2】学校や教職員の現状について 文部科学省初等中等教育局 初等中等教育企画課 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/052/siryo/__icsFiles/afieldfile/2015/02/18/1355024_4.pdf (2020年8月8日)
我が国の教員の現状と課題 – TALIS 2018結果よりhttps://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2019/06/19/1418199_1.pdf(2020年8月8日)
【3】参考資料 教職員のメンタルヘルスの現状等 文部科学省 https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2013/03/29/1332655_04.pdf(2020年8月8日)
【4】Twitter 投稿者ID:@wakateowl
https://twitter.com/wakateowl/status/926794515574226944(2020年8月8日)
【5】平成30年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1422178.htm (2020年8月8日)
【6】日本財団ジャーナル 若者に自殺を考えさせる多くの原因は「いじめ」、「不登校」経験も強く関連。そのとき相談する相手は誰?
https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2019/28707(2020年8月8日)
【7】【病気離職最多】20代教員をツブすのは、部活とモンペと「職員室」
L20063 安尾 菜乃子 教職概論最終レポート
https://president.jp/articles/-/17154?page=2
https://president.jp/articles/-/17154?page=3(2020年8月8日)
【8】教職員の年齢構成[内訳]
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/giji/__icsFiles/afieldfile/2016/10/31/1377491_003.pdf (2020年8月8日)
【9】学校教員統計調査-平成28年度(確定値)結果の概要- 2.調査結果の概要
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2018/03/28/1395303_03.pdf(2020年8月8日)
【10】『我が国の教育行財政について』 -首相官邸ホームページ https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/bunka/dai3/dai1/siryou4.pdf(2020年8月8日)
(その他参考文献)
【実体験】教員の長時間労働は改善されません。【不当な長時間労働】
https://setsuyakugorila.com/teacher-longworking(2020年8月8日)
教員の離職率が高いのはなぜ?教員と転職の関係と、転職するときのコツ
https://rebe-career.co.jp/detail/8353/ (2020年8月8日)
今すぐ転職すべき!学校の教師(教員)に離職が多くブラックな理由
https://shachiku.org/archives/500 (2020年8月8日)
公立教職員、精神疾患で5,077人休職…文科省調査
https://resemom.jp/article/2018/12/26/48348.html (2020年8月8日)
教員の離職率(25~35歳)が高い理由。こんな人は転職するべき!
https://texasinvancouver.org/4419.html(2020年8月8日)

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