サルの商売⑤|中野のキャバ嬢・アリサ
「お前の女のツレを紹介?いいに決まってるやろ。」
「じゃあ今日も店来るっていうからそのとき話してあげてよ。」
翔太は、生活する程度のカネと下半身のこと以外ほとんど何も考えていない単純なヤツだったが、男として少し変わった、というか厄介な性根を持っていた。
前話④はこちら
一言でいうと絵描き。かまってちゃんで嫉妬深くて、おまけにちとハッタリも多かった。
出会った当初からちょっと違和感はあったんだけど、このときはまだ確信がなかった。のちにメンヘラぶりを確信するんだが。
それはそうとこないだ客できてたあの子か。スタイル良くてエロかったな。楽しみやん。
そんなことを期待しながらふとひとつ気になったので尋ねた。
「ちなみにお前の済みか?」
「違うよ。俺の女のツレだよ?」
「お前関係ないやん、そんなん。」
そういう経緯で俺はアリサという女と知り合った。電動歯ブラシで突いた手の甲あたりの変な墨、きつい香水、Yoshikiみたいなグラサンが印象的な背の高い子だった。
アリサは俺が入社してから何度か店に来ていた常連客で、中野のキャバクラで働いていた。金髪でスタイルのよいパッと見美人だから何度もきてたら覚えてるはずなんだけどな。なんて思っていたが、最近まで付き合ってた男がいてそいつと来ていたこともあったらしい。
初めて話した日は出勤日じゃないというので、俺の仕事上がりにそのまま飲みに行って、ウチに泊めた。
「ケータイの番号、なんか怖い人みたいだよね。」
「あー、下4桁覚えやすいやろ?」
「私も欲しいかも。男と別れたから番号変えてもいいし。」
「指定できるモンじゃないんだが、今度入ったら教えたるわ。売り物だけどな?」
「うんいいよ。」
思えばこの頃、楽しかった毎日とは裏腹に寂しさも感じていたのかもしれない。大人になってからは女と子供のいる生活が普通だったから、孤独の楽しみ方ってのをあまり知らなかったのかもな。
山口さんからもらった猫を飼い始めたのも確かこの頃だった。アメリカンショートヘアの「かんくろう」。
8時間はカラオケ屋で働いて適当に飛ばしのシノギして女抱いて後輩と飲んでたまに疲れて猫に癒される。
しかしなぁ、あのとき稼いだ泡銭で当時のNASDAQ IT銘柄でも買っておくんだったわ。
つづく
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