サルの商売⑨|恒例、夏のWIRE。
職安通り沿いのコインパーキングに駐めた車を出して、横浜アリーナへ向かう道中だった。
ワンボックスの座席には笹沼、翔太、太一、つっきー、俺が乗っていた。もう1人、運転席では佐々木がハンドルを握っている。佐々木は当時付き合っていた女ユミの同級生。
前回⑧
この頃、ユミは高校を卒業し大学生になっていた。それを機に俺は中野から女のキャンパスの近くへ引越し同棲を始めた。
運転している佐々木とユミがあんまりに親しいから、腹立って食事の席に呼び出してちゃんと紹介させて知り合った。
大学生の割に話してみるとしっかりしていたのと、夜は都内でセキュリティーのバイトをしている格闘技経験者だったので話が合った。実はこの少し前に石渡と軽く揉めた件があり、ある程度見せかけの武力も必要だなと感じていた打算もあって可愛がっていた。
さて、9月上旬のまだまだクソ暑い中、男が6人も集まって横浜アリーナを目指す理由。それは俺たちの夏の恒例行事、WIREに参加するためだった。
WIRE(ワイアー)とは、電気グルーヴの石野卓球が主催するテクノのレイヴイベント。
普段クラブなんか行かないし、車の中はラジオ派で音楽自体ほとんど聴かない俺だったが、このイベントだけは2004年から何回か、毎年こいつらと参加していた。
店長の山口さんもこの日だけは一斉に休みとるのを許してくれた。社員旅行のない俺たちの社員旅行みたいなものだった(社員は誰も参加してなかったけど)。
どのアーティストが好きとかテクノが好きとか言うわけでもなく、ただ普段のしがらみを忘れてこいつらと馬鹿騒ぎするのが楽しかった。
地元の方にも回しに来ていたから、俺でも日本人のケン・イシイくらいは知っていたが、外タレがどうとかは一切わからんかった。
一番騒いでいたのは自分でもDJやってた太一。俺らのチケットなんかも、毎回太一が張り切って手配してくれていた。
こいつがあまりにうるさいので今でも記憶に残ってる外人DJが1人いる。「リッチー・ホゥティン」。顔見てもわからんが、とにかく名前だけ頭に残っている。
「しんのすけくん、リッチーはマジでヤバイっす。」
知らんがな。
ちなみに確かこの時、アホの笹沼がチャリンコの入った財布を落とし、後日奇跡的に警察へ届いたそれをアホ面でとりに行き、そのまま捕まると言う珍事件が起きた笑。笹沼のその手の下手打ちはなんと言うか定番だった。
けど、俺の誕生日にくれたTenderloinのキャップは今も手元にとってある。アホだけど、カラオケ屋の身内の中で一番表裏のない男だった。元気にやっていて欲しいな。
つづく
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