見出し画像

「彼は良くて、親切な人です」はなぜおかしいの?

先日、学生が「彼は良くて、親切な人です」と文作してきたと校内の講師から相談がありました。なるほど、ときどき見かけますね〜。今日は形容詞を「て」を使ってつなげるときのポイントを探ってみましょう。

1. 並列:「〜くて」「〜で」

<例1>
a.「大きくて黒いかばんです」○
b.「黒くて大きいかばんです」○

aもbもかばんの特徴を表しており、その関係は並列です。この場合「大きい」「黒い」の順番は前でも後ろでもかまいません。

<例2>
a.「彼は親切で、いい人です」○
b.「彼は良くて、親切な人です」×

「親切」と「いい」の関係はどうでしょうか。どちらも彼の特徴を表していますが、どうも2つの形容詞のバランスが悪いですね。

なぜbがおかしく感じるのかというと、この「いい」が総評的で何がいいのかよくわからないからです。もし、「いい」を先に使う場合は、狭義の形容詞にするために「性格がよくて、親切です」、「頭がよくて、親切です」などと、意味を狭めると2つの形容詞の意味のバランスがとれます。

2. 並列するときの順番

<例3>
a.「このりんごは赤くて大きくて、おいしいです」○
b.「このりんごはおいしくて、赤くて大きいです」×

「赤い」「大きい」はりんごの色や形状を表しています。「おいしい」は味についての判断・評価ですね。

この場合、aのように色や形状を表すものを先に話し手の判断・評価を表す表現は並列の最後にもってくると自然な日本語になります。「いい」の場合も、話し手の判断・評価なので例2- aのように後ろのほうがふさわしいと言えます。


3. 原因・理由:「〜くて」「〜で」

「彼は親切で、いい人です」に戻りましょう。この「て」は原因・理由のようなニュアンスがあります。「彼はいい人だ、なぜかというと、親切だから」といった感じです。

「新聞は漢字が多くて、難しい」「ここは駅から近くて、便利だ」などもそうですね。

英語の場合はどうなってるの??

この「彼は良くて、親切な人です」のような現象は、英語の”He is nice and 〇〇”を直訳しているから起こるのではないかと考えられます。

ちなみに、英語では、形容詞を「opinion」「size」「age」「shape」「color」「origin」「material」「purpose」の8つの種類に分けて、主観から客観の順番で並べていきます。たとえば、”Oh, he is such a cute little baby!”、 “a big white dog”、"a beautiful young lady"など。この語順が変わると違和感があります。

日本語は英語ほど厳密に形容詞の順番が決まっていませんが、ルールがないわけではありません。「〜て」で文をつなげる際、学習者によってはこのように母語の影響が出ることがあるということを知っておくと良いかもしれませんね。

並列の「い形容詞+くて」「な形容詞+で」は初級のはじめのほうにでてくる文型です。このような誤用が学習者からでてくる可能性があるので、導入や練習をするときには例文や語彙の出し方を気をつけたいですね。


【お知らせ】日本語教え方3days講座開講!
『日本語教え方3days講座』は、レッスン準備や教案作成について考えるワークショップ受講後、実際に教案作成&模擬授業を行う3日間の講座です。8月はオンライン、9月は対面での開講となります。「実践力・現場力をアップさせたい」「自信を持ってレッスンに臨みたい」という方におすすめのコースです。ぜひ、コトハジメのHPをご覧ください!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?