ショートショート59 「❇︎ (アスタリスク) 第10話」
※これは2018年の筆者いぼ痔治療実体験を掌編小説に再編したものです。品性に欠ける表現 / 痛々しい描写もございますので、苦手な方はご遠慮ください。
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痔の治療は日にち薬。
先生のお言葉通り、術後は”一生このままなんじゃないだろうか”と不安に駆られた傷も、少しずつよくなってきている実感がある。
これなら大丈夫か、ということで思い切って私は職場に復帰した。
椅子に座っても特に痛みはない。これなら大丈夫だ。
イケる、その心の声に従い私は業務に打ち込んだ。
……はずだった。
30分ほど経った頃だろうか、自分の集中力がゼロになっていることに気が付く。自分では普通にしているつもり、なのにまったく仕事の内容が頭に入ってこない。
ミーティングをしていても、内容を聞き逃し「ん? なんだっけ。」と問い返す始末。
「ま、Azumiさんはア●ル切り裂かれてるから、しゃーないですねー ゲラゲラゲラ」
と笑うたくましい部下に恵まれた自分の幸運を神に感謝しつつ、(いつか殺してやる)という想いを込めて笑みをこぼす。
仕事とは、通常のデスクワークでもこんなに消耗するものだったのだなぁ。
デスクから立ち上がるたびに「っはぁ…。」とため息が出る。
とりあえず落ち着こうと思い、深呼吸をしに喫煙所へ出かけた。
喫煙所にいたのは、営業部長のTさんだ。
「おぉ、最近どうなの?」
と気さくに声をかけてくれる。
「いや、あかんですわ。色々とあかんですわ。」
「あら、どうした?」
私は、Tさんとの距離を詰め、声を潜めて言う。
「Tさん、僕 今 オムツ履いてます。」
「ンフッ…。」
「ガッツリ、オムツ履いてます。」
「そりゃ、あれだね。ダメだね。」
「でしょ?」
「どうしたの?」
私は、Tさんにこれまでの闘病生活を語った。
「なるほどねー、痔ね。そりゃ大変だ。でも、オムツはく機会なんてそうそうないし、いいことだよ。」
という金言を頂戴する。
そうか、オムツを履くのは、イイコト。オムツ履いてる、私はラッキー。
セカイイチシアワセ・・・・。
あぁ、ダメだ。
やっぱり気力が続かない。
ポジティブシンキングは、ポジティブな体調に宿るのだ。
…その日は、さっさと帰ることにした。
〜つづく〜
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