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「行列のできる箔押し印刷工房」

コスモテックの青木です。

今回のタイトルは 「 行列のできる箔押し印刷工房 」 についてです。
これは、箔押し印刷会社 コスモテックのブログタイトルでもあります。僕がコスモテックに勤め始めてから、気づけば約20年の歳月が経とうとしております。

ブログの開設は2005年。つい最近( 2022年 )、ふとブログの記事数を見ると2000を超えていて驚きました。開設から17年をかけて、おかげさまで地道に今日まで続けることができております。これはひとえにコスモテックにお任せくださるお客さま、ブログの愛読者さま、そして身近でコスモテックを支えてくださっている仲間たちや協力会社の皆さまのおかげです。

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2005年に開設したコスモテックのブログ トップページ


皆さま、本当にありがとうございます。
「 まさかこんなにも長く続けることができるとは! 」 と僕自身が一番驚いています。 「 継続は力なり 」 を身にしみて感じます。


精神的な支柱になっている

2022年になり、何人かの方から 「 箔押しブログが、青木さんの精神的な支えになっている 」 という言葉をいただきました。

精神的な支え? 僕が今まで考えたこともなかった視点で、 「 外からはそんな風に見えているのか!? 」 という新しい発見と、そこに違うもう一人の自分を見つけたような感覚になり、今回改めて 「 行列のできる箔押し印刷工房 」 について考えてみようというきっかけになりました。

僕が 「 精神的な支え 」 という言葉から連想したのは 『 続けること。 悩みながらも前進して、軌道修正を繰り返し、答えを見つける。 それが自信につながる。 』 ということでした。 

うまくいかないことの方が多いもんだ

2005年、僕はコスモテックのブログを開設し、 「 ようこそ! 行列のできる 『 箔押し印刷工房 』 へ  」 と名づけました。製造業者が発信するブログがまだほとんど存在しない時期でした。

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その当時のコスモテックは、大手印刷会社の下請け仕事がメインで、毎日早朝から夜遅くまでパッケージの金箔押しばかりをやっていました。

現在のコスモテックをご存知の方は、コスモテックは様々な箔色を使いこなす、特殊な難易度の高い仕事を受ける、加工の最後の砦というイメージなどをお持ちかと思います。 しかし、その当時は単純な金箔押しを主とした箔押し屋さんでした。

しかも、毎日大量の仕事を一生懸命こなしているのに、ほとんど利益を出すことができない状況。作業も単調で、まるで時間がループしているような錯覚に陥るくらい毎日同じことを繰り返しているように感じました。

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今は亡き 箔押しの匠 佐藤勇
箔押し加工は一枚一枚の紙に手作業で行なう


そんなある日、箔押しの匠 佐藤勇がぽろっとこぼした言葉が 「 会社、つぶれるかもしれんなぁ… 」 という衝撃的な一言です。

入社したばかりの右も左も分からない僕にはこの言葉が胸に突き刺さりました。今のままの受け仕事( 受注 )だけをしていたら、すぐにでも潰れるかもしれない。 今 自分にできることを何か始めなくちゃ! と めちゃくちゃに焦ったこの時の気持ちは今でもはっきりと覚えています。

資金もない、人員も足りない、もちろん僕の経験値や知識もない。
そんな何もない真っ暗闇の中。 コスモテックには何があるんだ? と考えに考え抜いた時、技術力があって、何よりも熱意がある。 コスモテックには、箔押しの匠 佐藤勇がいるじゃないか! と気づき、一筋の光が見えた気がしたのです。

2005年当時はブログ全盛期のちょっと前。ブロガーという言葉がやっと世間で認知され始めた頃でした。無料のブログサービスが乱立し、お金をかけることもなく誰でも簡単に始めることができる発信ツールということもあり、個人も企業もこぞってブログを始め出していました。僕は藁をも掴む思いでその流行りに乗っかってみようと思いました。安易な考えかもしれないけれど、僕にできることはこのくらいしかないのだからと腹をくくりました。

ただし、やるなら徹底的に、必ず更新し続ける。

そして、いつの日かコスモテックという箔押し印刷会社に行列ができますように、商売繁栄しますようにとの願掛けも込めて、僕は ブログに「 行列のできる箔押し印刷工房 」 という、今思えば大それた看板を真剣な思いで掲げたのでした。

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ブログで積み上げるべきは記事ではない

「 行列のできる箔押し印刷工房 」 という看板がコスモテックにとって諸刃の剣にもなり得るということを、ブログ開設時には考えたこともあります。

要は、看板に反して行列ができない可能性の方が極めて高いのではないかという不安が頭をよぎったのです。 「 行列ができる 」 と掲げておきながら、実際には行列ができない。有り得ることです。そんなことにでもなったら 「 僕は、なんてかっこ悪いんだ! 」 と尻込みしてブログを続ける意欲を失ってしまうかもしれない。臆病な自分が 「 失敗したくない。今ならやめられるぞ 」 とささやきました。

しかし、何か新しいことを始めなければ会社がなくなってしまうという恐怖の方が勝り、 「 やれるだけやってみよう。挑戦あるのみだ 」 「 笑いたければ笑ってくれ! 」 と、自分を奮い立たせました。

箔押し印刷会社の営業マンとして経験の浅かった当時の僕にとって、武器と呼べるものは皆無に等しい状況でした。そして、弱いからこそ世間体や周囲の目が気になって仕方なかったのです。


しかし、一度腹をくくって始めてしまえば、ブログの記事を書く・更新することは苦痛とは感じませんでした。ただ、記事になるネタを探す・見つけることが非常に難しく、苦戦しました。記事を書くことが苦痛と感じなかったのはきっと目の前に、毎日一万回近くの印刷物を手作業で、地道にこつこつと箔押し加工をする箔押しの匠 佐藤勇の姿があったからでしょう。

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箔押しの匠 佐藤勇が当時愛用していた名刺
肩書と氏名のみ 会社情報などは含まれていない


① よく分からないキラキラしたものを扱う仕事をしている会社のようだ → おもしろそうだな
② 風変わりなお爺ちゃん( 箔押しの匠 佐藤勇 )がいる会社のようだ → 会ってみたいな


この2点が求人情報を見た時にコスモテックに興味を持った僕の正直な志望動機です。今思えば、箔押し加工が何なのかすらよく分からない状態でコスモテックの門を叩いてしまったわけです。今振り返ると、若い自分の無謀さを感じ、懐かしいというよりも恥ずかしさの方を大きく感じます。

志望動機でもある、 「 風変わりなお爺ちゃん 」 こと箔押しの匠 佐藤勇は、実際はそれはもう本当に働き者の職人でした。 僕には佐藤の働き方を100%真似することはできません。佐藤本人が一仕事人としての在り方を僕に語るようなこともありませんでしたが、佐藤が仕事と向き合う背中は本当に恰好良くて、そこに近づきたいと僕も努力してきました。

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僕には毎日一万回の箔押し加工をすることはできません。
最初にブログ開設からの記事数が2000と挙げましたが、まだまだ一万には遠く及びません。何をするにしても一万という数の大きさは壁のようです。


さて、「 積み上げるべきは記事ではない 」 と書きましたが、それでは何を積み上げるのでしょうか。その答えは 「 信頼 」 だと僕は思っています。 お客様からの信頼は何よりも大切です。そして僕の中でもう一つ大事なものは現場の職人からの信頼です。

僕が引き受けた仕事で、僕にはできないことを毎日やっていただいているのです。だから僕も真剣にブログの記事を書き綴り、更新し、継続していきます。そうして小さな信頼をこつこつ積み上げることで 「 青木はやはり最初から一貫して本気だったのだ。 」 と思ってほしい、現場からの信頼を得たいと考えていました。

初志貫徹することは本当に難しいことだと、実体験があるからこそ自信を持って語れます。継続することで得られるものは知識や技術はもちろん、他者からの信頼もそこに含まれていると感じます。そして、これらをすべてひっくるめて、ブログは僕の精神的な支えとなったのかもしれない、と思い巡らせたのでした。

形あるもの、形のないもの

僕にとって 「 行列のできる箔押し印刷工房 」 という言葉には二つの顔があります。形あるブログという在り方、そして、形なき信頼や精神的支えという在り方です。この二面性について 「 箔押しブログが、青木さんの精神的な支えになっている 」 という言葉がきっかけとなり気づくことができました。

形として残っているブログを読み返してこれまでの歩みを振り返れば、何もなかった僕に知識や、デザインへの興味、見つけることの大切さ・難しさ、信頼を得る喜びなどを教えてくださったのは、お客さまや現場の職人たち・協力会社の仲間たちです。

ごく日常の普通のやり取りの積み重ねの中に信頼が生まれ、僕を支えてくれています。それが僕にとって目には見えない、形なき 「 行列のできる箔押し印刷工房 」 の正体なのかもしれません。

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吉岡秀典さん( セプテンバーカウボーイ )による加工立ち会い
吉岡さんの要望を組みとる箔押しの匠 佐藤


そして、ブログタイトルだけでなく、コスモテックを 「 行列のできる箔押し印刷工房 」 と呼んでいただく機会も大変ありがたいことに多くなりました。 「 行列のできる 」 がうわさとなり、2018年にはWBS( ワールドビジネスサテライト )の 「 The行列 」 に出演する機会にも恵まれました。


僕が2005年に開設し、掲げた大看板 「 行列のできる箔押し印刷工房 」 は、たくさんの出会いを呼び込み、コスモテックを頼ってくださるお客さまによって、本当に 「 行列のできる 」 姿へと変化していくことができました。

「 行列のできる箔押し印刷工房 」 というブログをとおして出会ったさまざまなお客さまの世界観に触れ、そしてご要望にお応えすることを繰り返すことで、目には見えない信頼の 「 行列のできる箔押し印刷工房 」 をつくりあげてきたのです。


行列をつくってくださるお客さまが求める箔押し加工を実現すべく、僕らコスモテックがご提供できる技術とサービスに磨きをかけて今後も精進して参ります。

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余談ですが、コスモテックに入社後、ずっと 「 僕は箔押し加工が好きなのだろうか? 」 という疑問を抱えて、20年近く経過しました。

「 お客様の求める形をつくり、喜んでいただくことは嬉しい。けれども僕自身は箔押し加工が本当に好きなのだろうか?  」 と思っていたのです。

2022年になり 『 デザインのひきだし46 』 の箔押し表紙1000パターンの加工を、現在のコスモテックの現場リーダー 前田瑠璃とともに完結させた瞬間のことです。

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箔押し加工を無事終えて、積み上げられた1000パターンの箔押し表紙


はじめて 「 ああ、僕って、箔押しが好き( なのかもしれない ) 」
そんな実感と手ごたえを20年目にして心の底から感じることができたのは大きな収穫でした。 箔押しの匠 佐藤勇がいた頃は僕は未熟で、必死過ぎて、この気持ちに気づかなかったのかもしれません。

なんだか不思議な思いです。
この感覚は一生忘れないでしょう。

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