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「 箔押し3色+エンボス1回のブックカバー製作 」

こんにちは、現場の前田です。
インパクトのある少年のイラストが目に飛び込んでくる本のカバー。
今回加工をお手伝いさせていただいたのは FUKUDA DESIGN の福田和雄さまのデザインによる 『 遠別少年 』 のカバーです。

こちらの本は、装丁家・坂川栄治氏( 1952〜2020 )の自伝的小説 『 遠別少年 』 をリメイクし、そのカバーを10人のブックデザイナーが作り、展示販売されるというものです。 「 遠別少年 」 装丁展は、ギャラリー 装丁夜話 で 2022年2月 に開催予定です。

10人のブックデザイナーのお一人である福田和雄さまからお声がけいただき、今回は加工に立ち会っていただきながら、押し具合いを調整したり、箔色を選んでいただきました。

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上から1工程目( 黒箔 ) ➡ 2工程目( 白箔 ) ➡ 3工程目( グレー箔 )
図版が重なり合っていくことでイラストに色が付いていく


背の部分にタイトル・著者名など、表紙には平井利和さまによるイラストが大きく描かれたカバーは、トーンF CG3 160kg の紙に箔押し3工程+エンボス加工1工程のシビアな見当合わせ( 位置合わせ )が待ち受ける、ボリューム満点の加工内容になっています。

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銅版・マグネシウム版・亜鉛版・樹脂版など…
図案、加工内容に合わせて版の材質をセレクト


また、今回の加工では版の材質も工程ごとにその内容に合わせて材質を変えているというのもこだわりのポイントです!( 版の材質によって製版会社さま数社にご依頼し、版製作を行っています )


立ち会い1日目、福田さまにお時間をいただき1工程目の黒箔、2工程目の白箔の箔押し加工を見ていただきました。


■ 1工程目 : 黒ツヤ箔

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1工程目の黒箔押しには亜鉛版を使用しています。
細かな文字とイラストのベタ面で、どちらにも均等に箔をのせつつ、バリ( デザインや箔と紙の相性などによって箔押しした部分からはみ出してしまった箔のこと )が出ないように調整します。

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1工程目は亜鉛版を使用
ベタ部分と繊細な文字部分が混在した難しい図版


加工立ち会いでは、黒箔はツヤ有りの箔だけでなくマット調の黒箔の組み合わせも見ていただきました。押してみるとそれぞれ印象が異なり、どちらにも良さがありますが、福田さまは黒ツヤ箔をお選びになりました。

■ 2工程目 : 白ツヤ箔

2工程目の白ツヤ箔には雪を表現している部分があり、福田さまから 「 その部分だけ雪らしさを表現したい 」 というご要望をいただきました。

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白ツヤ箔で表現した雪の部分をよく見てみると繊細なテクスチャーが!


そこでご提案させていただいたのが、今年のコスモテックの年賀状でも使用した 「 彩光腐食版 」 です。

版自体に柄が入っているという特殊な版なのですが、彩光腐食版のパターン見本帳からパターン番号を選んでいただき、版自体に柄を腐食させて製作します。

雪の表現部分に使用したパターンの番号は 「 SP-074 」 です。
彩光腐食版の材質は銅版です。

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雪の部分のみに繊細な模様が腐食されており
それ以外の部分はツルッとフラットな状態になっている


箔色は白ツヤ箔の他にも銀ツヤ箔や銀のマット箔などを試し、比べてみました。そして、最終的に当初の予定通りの白ツヤ箔に決まりました。

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カバーの白ツヤ箔部分を間近に眺めると彩光腐食のパターンによる繊細な凹凸の表現が見て取れ、積もった雪の柔らかな表情を感じられます。

2工程目に白ツヤ箔を押すことによって、白ツヤ箔部分が圧力によって凹み、反対に1工程目の黒ツヤ箔の部分がグッと盛り上がって立体的に見えるという効果も見逃せないポイントの一つです。イラストに奥行き感が出ています!


加工立ち会い2日目には、3工程目のグレー箔、4工程目のエンボス加工を福田さまに見ていただきました。

■ 3工程目 : グレーの箔? それとも 紫色の箔?

3工程目はマグネシウム版を使用し、箔は当初 IRO-DARUMA ぎんねずを予定していましたが、急遽 福田さまからロイヤルパープルやシルキーバイオレット箔バージョンという想定外の箔色のご提案がありました!

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当初はグレー箔で加工するプランだったものを
方向性を変えて、現場にある数種の紫系の箔でも押してみることに
これぞ、加工立ち会いの醍醐味!


「 はたして一体どう見えるのか!? 」
とドキドキしながら押してみると、 「 紫色、イイ! 」

更に、他に紫系の箔色はないかと探し、紫色の顔料箔 PKM-251 で押してみたところ、箔の紫色が1工程目で押している黒箔の色の影響を受けて、なんとも渋みのある紫色となり、これもまたいい…

この紫色の顔料箔 PKM-251 はすでに廃盤になっているため、現場にもわずかにしか残っていない とてもレアな箔…。
コスモテックの現場の箔棚を探してみた際に偶然出てきた箔で、私も見慣れない箔色。箔材のラベルを見るとかなり昔のもののようで、おそらくは箔押しの匠 佐藤がご注文したもののようでした。

「 IRO-DARUMA ぎんねず も PKM-251 も、どちらも捨て難い! 」 ということで、最終的に両方の箔で製作することになりました。

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こちらは当初の予定通りのグレー箔で押したバージョン

■ 4工程目 : エンボス加工

最後の4工程目は黒ツヤ箔の位置に合わせてエンボス加工で盛り上げます。

あまり盛り上げを高くし過ぎると紙が破れてしまったため、破れない程度でどこまで盛り上げるのがベストか、福田さまに確認していただきながら調整を行いました。

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4工程のエンボス加工までを終えて完成したグレー箔バージョン


少し丸みのあるエンボスがイラストや文字に立体感を与え、物質感を感じることができます。

エンボスに、このちょっとの丸みを出すか・出さないかも、加工のひと工夫で調整できるのですが、この小さな違いも加工立ち会いで福田さまに実際に目で見て、感じて、決定していただきました。

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4工程のエンボス加工までを終えて完成した顔料箔 紫バージョン

- 仕様 -
1工程目 : P7-黒つや箔
2工程目 : P7-白箔
3工程目 : IRO-DARUMA ぎんねず | PKM-251
4工程目 : エンボス( 浮き出し )加工

どの工程も見当合わせ( 位置合わせ )がシビアなため、慎重に加工に当たりましたが、1工程ずつ重ねていくごとに完成へと近づく様子にワクワクしました。そして加工立ち会いという その時・その場でしか得られない加工の効果や箔色にも出会うことができました。

無題


- Credit -

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更に、福田さまデザインの 『 遠別少年 』 のカバーには光栄なことにコスモテックのクレジットも載せていただいております! 福田さまのデザインによる、加工満載の 『 遠別少年 』 のカバー、皆さまにも是非ともお手に取っていただければうれしいです。

福田さま、この度はお声がけいただきましたこと、また加工立ち会いに足を運んでいただきまして、ありがとうございました!

コスモテック 青木より

4工程の押し技を重ね合わせた、福田和雄さま( FUKUDA DESIGN )デザインのブックカバーが素敵な 『 遠別少年 』 は、 「 遠別少年 」 装丁展で会期中( 2022年2月予定 )にてご購入いただけます。

カバー前面にタイトルがなく( 背にはあり )、少年のイラストがドン!と配置されており、潔く、シンプル。福田さまが加工立ち会い時、カバー前面にタイトルを配置しなかった件について、

「 この遠別少年のイラストで物語っているでしょう 」
「 タイトルをもってきちゃうと、少し邪魔になっちゃう感があるような 」
「 書店ではできないような見せ方、表現ってあるよね 」
静かに落ち着いて語る福田さんの言葉の中に、装丁への情熱を感じました。

コスモテックで箔押し・浮き出しと、合計4つの加工をしているのにも関わらず、 「 箔押ししました! 」 のキラキラ感や 「 加工をこれだけ盛りに盛ってます! 」 のゴテゴテ感を良い意味で感じさせない、全てが一体になり、一つのモノになっている雰囲気が印象深く、特徴的です。

書棚に置いて、オブジェのような佇まいになります。

普段の仕事ではなかなか有り得ない数の工程を1枚のブックカバーの中に表現した、福田和雄さま( FUKUDA DESIGN )のデザインによる 『 遠別少年 』 、ぜひ会期中に実物をお手に取っていただければ嬉しいです。

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作品・製品の魅力を最大限発揮させるべく、図版に合わせた数種の金属版選びを展開するなど、見えない部分にもコダワリ満載の逸品です!

【 箔押し加工 】
有限会社コスモテック 現場リーダー 前田瑠璃
〒174-0041 東京都板橋区舟渡2-3-9
TEL:03-5916-8360 / FAX:03-5916-8362

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