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「 岩波書店 『 新装版 大江健三郎同時代論集 』 カバー加工 」

こんにちは。現場の前田です。

今回ご紹介するのは、岩波書店さまからご依頼いただき 2023年8月25日 にいよいよ刊行開始となる 『 新装版 大江健三郎同時代論集 』 のパチカ製ブックカバーへの加熱型押し加工です!


◉ 指名! コスモテック!

はじめに岩波書店さまから製作・加工のお話をいただいた際、ブックデザイナーの鈴木成一さま( 鈴木成一デザイン室 )が 「 加工をコスモテックにお願いしたい 」 とご希望してくださっていると伺いました。今回、鈴木成一さま・岩波書店さまにご指名いただけたことに青木(コスモテック)と一緒に大興奮し、喜びました。

以前、ブックデザイナー 鈴木成一さまの自著である 『 鈴木成一デザイン室 』( 出版:イーストプレス )に 「 コスモテック、おすすめです! 」( P147 )のうれしいお言葉をいただいたり、さらには本の中で青木(コスモテック)のことが書かれていたこともありました。

そのような経緯もあったため、 『 新装版 大江健三郎同時代論集 』( 出版:岩波書店 )の加工にかける私 前田と青木の思いは大きく、やる気に満ち溢れておりました。

◉ 全巻 カバーにはパチカを使用!

全10巻にもなる 『 新装版 大江健三郎同時代論集 』 は、なんと全てのカバーにパチカを使用するデザインです( 8月に第1巻~第3巻、9月に第4巻〜第6巻、10月に第7巻・第8巻、11月に第9巻・第10巻を刊行予定 )

コスモテックの現場に搬入された第1巻~第3巻の特殊紙パチカのカバー
3巻分でこのボリューム これが10巻まであるのです!


パチカという特殊な紙は、紙に熱と圧力を加える加熱型押しという加工をすると、熱した金属版でぎゅっと押した図案部分が半透明化するという不思議で大変魅力的な特性を持つ紙として多くの方々に知られています。

コスモテックはパチカを使用した名刺作成キャンペーンを2012年から実施し、2023年の今もなお不定期ではありますが継続しており、今までパチカを使用した案件数は1000を超えます( キャンペーンの図案数含む )


こうして日々多くのお客さまと共に積み上げてきた経験と技術を生かして、鈴木成一さまがデザインされた 『 新装版 大江健三郎同時代論集 』 の全巻カバーをパチカでつくるのだと考えるだけで、私は胸が躍るような興奮と共に大きなプレッシャーを感じずにはいられませんでした。

カバーの中央にある装画は渡辺一夫さまによる作品で、全10巻まで共通の図案です。そして、『 新装版 大江健三郎同時代論集 』 は真っ白いパチカのカバー内の半透明に透けた装画から本の表紙の紙色がほのかに透けて見えるというデザインになっているのです。

黒い部分はオフセット印刷機によるスミの印刷
装画の部分を半透明化させ、本の表紙の紙色を透かして見せるデザイン


前述したように、加熱型押し加工で使用する装画の金属版は10巻すべて共通の金属版を使用しますが、巻によって本の厚み( 束厚 )が異なるため、巻ごとに加熱型押し加工を施す位置の調整が必要となります。

今回加工で使用した金属版は銅製を使用
製作部数の多さなども考慮に入れつつ、版の材質選びを熟考

◉ より良い半透明の透け具合を出すために

特殊紙パチカの加工で難しいポイントは、やはり半透明具合いを均一に表現することです。 何も考えずに加工したものを光にかざして確認すると、半透明具合のムラが顕著に見て取れてしまうので誤魔化しは通用しません。美しく均一に透けるように加工するには経験と技術が必要不可欠です。

写真は加工前の調整の段階 コスモテックの余り紙のパチカを用いて
加工のコンディションづくり ムラが気になる部分にボールペンでしるしを付ける


今回の加熱型押し加工も、そして通常の箔押し加工も同様ですが、均一な透け具合いを表現したり、きれいに箔を定着させるための細やかな調整方法は同じです。透け具合いが弱い部分や箔がかすれている部分の土台( パチカのカバーを加工時にセットする機械の台座 )に薄い紙を幾重にも重ねていき調整します( ※ )

※ ムラ取りと呼ばれる作業( ↓ ぜひ下の記事もご覧ください ↓ )

機械の銀色の台座部分に薄い紙を重ねていく
こうして、平らな地場をつくり出すことが必要不可欠
何層にも重なった薄い紙 ここに辿り着くまでに数時間経過
なかなか根気がいります しかし大切な準備であり、下ごしらえ


パチカを加工する際のムラ取りでは 非常に薄い紙たった1枚だけでも透け具合を左右し、その影響がしっかり現れるため、通常の箔押し加工の調整よりも もっと長い時間がかかります。土台に薄い紙を重ねては、いざパチカへ押してみて透け具合いを確かめ、

「 うーん、ここのムラをもうちょっと取る必要があるな。 」
「 ここのムラを取ったら、別の場所にムラが出現。もっと調整せねば。 」

光にかざして、半透明の具合を目視で確認
さらにはムラの取り具合も注意深く観察
もっともっとを突き詰めて
よりお客さまが求めている形に寄せていきます


そして、また薄い紙を重ねて押しては確かめ、押しては確かめ…
根気が必要な地道な作業を繰り返します。しかし加工前のこの準備段階でしっかりとした土台づくりをしておくことが、パチカへの美しく均一な加工のために本当に大切なことなのです。

こうして念入りな調整が完了したパチカへの加熱型押し部分は、光にかざすとしっかり均一に光が透けて見えます。パチカの紙が持つ特有のふかふかとした やわらかい質感と、加熱型押しによって つるっ・ぱりっ とした半透明の部分と、1枚の紙の中で感じられる2つの異なる質感に感動します。

押し具合、半透明の具合は量産の前に行った校正を基準に
よい半透明感をつくり出すことができました


そして、このカバーが本に掛けられた時 「 加熱型押し部分から透けて見える表紙の紙色はいったいどのように見えるのか!? 」 とても楽しみですね! ぜひ、実物をお手に取って、質感や透け感をご堪能くださいませ。

岩波書店さま、ブックデザイナーの鈴木成一さま、今回加工のお手伝いをさせていただきまして、ありがとうございました! 残り7巻( 第4巻~第10巻 )も引き続き 緊張感を持って、しっかり一枚一枚加工いたします!


『 新装版 大江健三郎同時代論集 』 全10巻
出版社     : 岩波書店
ブックデザイン : 鈴木成一デザイン室
装画      : 渡辺一夫
カバー加工   : コスモテック

写真は以前 青木(コスモテック)が
鈴木成一さまのトークイベントでいただいたサイン 青木の宝物とのこと


【 箔押し加工 】

有限会社コスモテック 現場リーダー 前田瑠璃
〒174-0041 東京都板橋区舟渡2-3-9
TEL:03-5916-8360 / FAX:03-5916-8362

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