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黄泉の国

『その家でけっして食べ物を口にしてはいけないよ。

美味しそうな匂いや見た目をしていても、それはもう人間の食べ物ではなくなっているからね。

うっかり口にしてしまったら、敏感な者は身体が拒絶をする。だが口にし続けると身体は次第に慣れていく。いつの間にか見えぬモノに侵され、お前の身体は人間に似て非なるモノになってしまう。

気をつけなさい。本当はその家だけじゃない。

今この世には気づかないうちに身体や精神をもコントロールする食べ物で溢れている。

気をつけなさい。

自分の身を守るのです。』


なんか黄泉の国の食べ物を口にしたイザナミみたいだなぁと頭によぎる。

誰かが私に話しかけてるけど誰かわかんない。まぁいいか。


車で、さっき貰ったお菓子やパンを貪るように食べている。

(たしかに…今まさに黄泉の国の食べ物を口にしてるわ私。自分の意識とは思えないくらい焦って食べ物を口に運んでるもんな。ぜんぜん美味しく感じないし、とりあえず詰め込んでるやつだコレ。)

脳はクスリでキマってるみたいに、朦朧としてる部分で食べ物を口に運び、妙に冷静な部分で今の自分を観察している。

(やっぱり、あの家はヤバいなぁ。)

自覚はしてたけど、今日ので確信した。その家で食べ物を口にすると、その後は【もっと食べたい。もっと食べたい。】てなるのだ。


あ、また。今度は誰だ。

『ねぇ、まるで何かに取り憑かれたようになるでしょ?

たぶん少しは自覚してることもあるんじゃない?

あまりに日常的に起こってるから気づかないふり?

…すっかり鈍感になっちゃってまぁ。』


うっせーわ。

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