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料理家が放つものがビジネスを凌駕した 〜noteイベント『こうして私は料理家になった』を視聴して〜

3月25日(金)夜に行われたnoteイベント「人気料理家が語る『こうして私は料理家になった』」を視聴しました。
まだ見ていない方はぜひ。とくに料理を仕事にしたい人は必聴だと思います。
なぜかって、「料理本を出したい人向け」にたくさんのヒントとメッセージがあるから…であるのは事実なのですが、私が注目したのはちょっと別のところなんです。
少し説明させてくださいね。

出版がムーブメントになる

あらためて、イベントはこちら。現在、アーカイブ公開中なので、時間がない人でもYou Tubeで2倍速で視聴できます(充実の2時間以上のお話なのでオススメ)。

主役の料理家、今井真実さん。
2020年のコロナ自粛生活がきっかけでnoteデビュー、それまでのTwitter発信に加え、より今井さんの人柄が映し出されたnoteによって、みるみるうちに人気上昇。その後の展開は、イベント前半部分でしっかり語られています。

今井さんへの聞き役を務めたのは、スープ作家としてますます多方面で活躍されている有賀薫さん。
もともとライターをしていただけあって、インタビューはお手の物。今井さん、今井さんの本を担当された3人の編集者からどんどん話を聞き出しています。

3人の編集者のうち、いちばん最初に今井さんにオファーしたのがフリー編集者の林さやかさん。

他に、デビュー作『毎日のあたらしい料理』KADOKAWA編集者の杉浦麻子さん、2冊目の左右社編集者の筒井菜央さんも、出版に至った経緯を版元の立場から語ってくださっています。
ちなみに左右社の『いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん』(左右社)については、4月8日に今井さんのトークイベントを開催予定

どうやったら出版できる?のこたえ

実はこのお三方の登壇が、本イベントの真骨頂。
編集者というのは、著者の後ろにいて決して表に出ない裏方職です。最近でこそここnoteのおかげで発信する編集者が増えましたが、以前はTwitterでちょこっとプライベートをつぶやくぐらいで、SNSのアカウントは情報収集のために作るものでした(…って違う? 少なくとも私はそう)。
ですから、このようなイベントで出版の裏側を堂々と公開するようなことは少なく、コロナ自粛のオンライン化で一気に広まったように思います。

上記、林さんのnoteでも語られていますが、出版企画を通せるかどうかは、かなりの部分が人脈と実績にかかっていると私も思います。
要は「誰が」の部分。料理家自身と編集者の存在がどちらも重要で、どちらかの力が不足していては成り立ちません。
家庭料理の世界は日常すぎて忘れがちなのですが、料理本出版といえどもビジネス。版元にとっては、この料理家だから売れるレシピがある、ファンがいる、フォロワー何万人だから何%が買うだろうという予測があって、かつこの料理家を推す理由がみっちり書き込まれた企画書があって、優秀な編集者がいてやっとビジネスとして成立するかどうかを俎上に載せるような世界です。
「YouTuberで10万人を越えるフォロワーがいるから出版できたんだね」という単純な世界ではないんです。
版元編集者には当たり前の事情ですが、このイベントを通して、これまで行間で感じるしかなかった世界が明るみに出てたのは、本を出したい人にとっては大きなヒントを得たことになるはずです。

ビジネス思考を超えた存在だった?!

しかしですね、今井さんの場合は、彼女の存在自体が出版ビジネスの思考を超えてしまったんですね。3人の編集者がほぼ同時期に、「この人の本を世に出したい」と思ったわけです。
3人とも、今井さんのレシピに惚れ込み、日常的に作って実感し、noteの文章から溢れ出る人柄に魅了されていたんですね。
制作費が、企画会議が、販売が…といった出版ビジネスの枠組みを「ちょっと脇にどけて」おいて、三者三様に、本にするための行動を取ったわけです。

聞き役の有賀さんが切り込みます。「今井さんのどんな点が魅力だったんですか?」
こたえはアーカイブを見ていただくとして、3人の編集者の温度感がほぼ同じだったことがとにかく印象的です。
そして、ライブ感あふれるオンラインイベントのおかげで、今井さんのnoteと実際が違和感なく一致します。ちょっと関西訛りで話す今井さんの声音、言葉遣い、テンポ、やさしいでも堂々とした話しぶり。
ああだから私達は彼女に惹かれるのだ、という納得感がすごいのです。

それは聞き手の有賀さんからも感じることができます。
今いちばん勢いのある料理家の一人として自信に満ちた様子が伺えるのは当然としても、彼女の著作『こうして私は料理が得意になってしまった』(大和書房)で語られているように、家事のひとつにすぎない毎日の食事の支度を軽んじるのでもない、大義にするのでもない、淡々と積み上げてきた日常の強みを背筋として鍛え上げてきた強みとでもいいましょうか。
(このあたりは雑誌クロワッサンの書評で書きましたのでご覧いただければ)

企画書が、とか数字が、は後付け。
料理家が放つオーラが自然に出版へと導いていったのだと思いました。

出版からオンラインイベントというリアルへ

それにしても、オンラインイベントという形態が当たり前になった時代に生きててよかった。昔なら、会いたい人にたどり着くまでが大変でした。いえ、ほんの3年前までは。
それがこうしてオンラインで瞬時につながれる、芸能人でもない料理家、一仕事人でしかない編集者の肉声が聞けるのですから、思考はさらに深まり、広がります。
アーカイブを(倍速でw)再確認しながら、本筋とは違うところにも思考が飛びました。
「どうやったら本が出せるか…」などとウロウロと迷子になっている場合じゃないでしょう、とも。ちょっと視野を広げれば、道はいくつも見つかります。
「本が売れない」などと言う言葉に洗脳されきった昭和思考のままの人ではいけないと思いました。出せば売れた時代などとっくに終わっているのに、売るための努力を放棄してきた中の人たち。
本という紙メディアと動画メディア、オンラインライブという新空間で何をやるか何をしていくか。今をときめく料理家のほうがすでに先を歩いていますよね。
私も全力スタートを切ろう、そう思いました。


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