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『毎日のあたらしい料理』の編集者的あとがき &イベントお知らせ

「料理本」、実用書としての「料理本」というものについて、自分にとってどのようなものに位置づけているか。それを考えると、書籍編集者としての自分の仕事からは、あまり近くないもののように思っている。つまり、「仕事」でかかわる本というよりは、ただ読んで楽しむ本。

日常的に料理をする人間として、「料理本」は好きで、「たくさん持っている」と胸を張れないまでも、まあまあ家にはあるし、新刊をチェックするのも好きなほうだと思う。好きな料理家さんもたくさんいる。でも「料理本の企画」を考えたことはなかったし、専門性の高いそのジャンルに敬意こそあれ、そこに入り込む余地がないように思っていたかもしれない。

そんな私が、初めて「この人の料理の本を作りたい」と思ったのが、今井真実さんだ。

2022年2月に、今井真実さんの初めての著書となる『毎日のあたらしい料理 いつもの食材に「驚き」をひとさじ』を企画・編集させていただいた。私が担当できたのは、今井さんが何度か取材などでお話しくださっているように、私がお声をかけたのが「早かったから」だ。「早かったからにすぎない」と言ってもいいかもしれない。私がお声をかけてから今井さんのレシピはSNSを中心にぐんぐん人気を伸ばし、そのお仕事も幅を広げ、本ができたときにはすでに「えっ、初めての本だっけ?」という人も多かったのじゃないかな。

私が今井さんのことを知ったのだって、すでにSNSを中心にじわじわと「この人のレシピすごくないか……?」という声が広がりつつあった頃だと思う。実際、今井さんのレシピはすごかった。SNSやブログなどインターネット上で見かけたレシピを試してみることはこれまでにももちろんあったけれど、今井さんの料理は作るたびに驚いた。その工程に、こだわりとシンプルさに、そして何よりできあがった料理の美味しさに。そこにはいつも「驚き」があった。そしてもう一つ、毎日料理をする私の気持ちをふっと軽くしてくれる「言葉」や「工程」があった。

これは本当に他意なく、その時点で「きっともう(実用書としての)料理本は話が進んでいたり、声がかかっていたりするだろうな」と思っていた。だからかえって、「なら私は、その次に、少し違う本が作れるかもしれないな」という目論見のようなものがあった。そのイメージだったからこそ、「料理本編集者」ではない私が怯まずに声をかけることができたのかもしれない。

というのも、今井さんは当時、レシピの多くをご自身のnoteで発表されていて、その語りかけるような不思議なレシピは、しっかりと読み物でもあった。このまま本にできるものではないけれど(クオリティの話ではなくスタイルとして)、すでに「読み物」としての魅力が多分にあった。変な表現だけれど、この人のレシピなら、私も編集者としてできることがあるのでは、という気持ちもあった(なにせ、料理本を自分が作れるとは思っていないので)。

予想に反して、その時点でまだ具体的な書籍の企画はなく(ただ、その後どんどん舞い込んでくるのだけど!)、だったら、「料理家」としてのデビュー作らしく、ある程度はストレートな料理の本であったほうがいいだろうな、と思うようになった。

その後、今井さんと何度もお会いして、企画書を作り始める。「ある程度ストレートな料理本」。だけど、というべきか、私が伝えたかったのはとにかく今井さんのレシピの魅力で、それがあだとなり、どんなに作っても「企画書」としては中途半端だったと自分で思う。今井さんも取材などで話してくださっているように、実際企画はなかなか通らなかった。フリーランスで編集をしていると書籍の企画が通るかどうかは、「企画」というよりは「企画書」の力(と、編集者の人脈の広さ)によるところが大きい。それはもう圧倒的に私の力不足だった。

書店を見渡せば、料理の本はバラエティに富んでいる。何かもっと、「企画書」としてのひっかかりを持たせるようなこともできたかもしれない。今井さんのレシピの持つ魅力から、何か突出したものを引き出すことで、違う企画にする方法もあったかもしれない。なんだかわからないけど、たとえば「○○の今井さん」とその後呼ばれるような、なにかこう、キャッチフレーズになるような。でも私はそれをしたくなかった(できなかったわけだけど、したくなかったと言わせてほしい)。ただ単に、今井真実さんという料理家のレシピがなんかすごくてなんかいっつも驚くんだよ、それでできあがるとびっくりするくらい美味しいんだよ、というシンプルなことを、1冊の本にまとめるというのが、この時点での仕事だと思った。今井さんご自身もそれを受け入れてくださり、その方向でいろいろ声をかける日々が続いた。「このままうまくいかなかったらまず、ZINEを作ってみましょうか!?」なんていう話も出ていた(私もだけど、今井さんもZINEがお好き)。

結果的に、私と同じように、今井さんの料理本を作りたいと考えられたKADOKAWAの編集さんから今井さんに声がかかり、今井さんが「だったら、一緒に本をつくろうとしている編集者がいる」と私もその話に入れてくれたことで、一気に具体的に進むことになったのだった。こうまとめてみても改めて私が何かできたわけじゃなかったなーと思う流れなのだけど、刊行が決まらないうちは、「あー、声をかけたのが私だったばっかりに時間をかけてしまって……」という気持ちもあったので、ほっとしたというのも事実なわけです。

あー、書き始めたときは、もっと「料理本の作り方」みたいな話をしたかったのに、企画の話だけで長くなってしまいました。
ちょうどこのタイミングで、明日3月25日(金)、note主催のシリーズ番組「こうして私は料理家になった」の今井真実さんゲスト回で、私も担当編集者として少しお話しさせていただきます。

(無料のイベントですが、Peatixでの申込みが必要なようです!)
メインは今井さんのトーク、しかも聞き手が有賀薫さんですので「料理家になりたい人必見」とありますが、料理家というお仕事に興味のある方みなさん、面白くご覧になれるのではと思います。

どんなふうにこの本を作っていったか、については、トークでもまたお話するかもしれないので、改めてこのnoteも続編書くつもりです。(というか、ここで書いたことトークで話すべきことと大いにかぶる気もしますが……)


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