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『青天を衝け』吉沢亮が演じる血洗島の百姓、渋沢栄一の説得力

大河ドラマ『青天を衝け』、ここへきてかなりおもしろい。黒船来航からの開国、それによるハイパーインフレ、大地震、老若男女を問わず一日でコロリと死んでしまう疫病(コレラ)の流行‥‥世情不安になる中、江戸城内は政争に揺れ、抵抗勢力は粛清される。すると下界では怪しい宗教が流行り、外国人と官僚への憎悪が高まり、「神風」が叫ばれ、暗殺や襲撃といった実力行使が‥‥。

いやがおうにも現代と重ねて見てしまう描写ですよね。

そんな中、百姓仕事は嫌いでなくても、代官の命令に甘んじるしかない生き方に鬱屈とし、上から下へのピラミッドになっている社会構造を見抜く栄一の思考の流れに説得力がある。今現在のたったひととき重要ポストについている役人を暗殺しても何ともならないことを彼は知っている。

「世の中のしくみを変えるにはどうしたらいいんだ」
もちろん、答えはそう簡単には出てこない。

ただ、頭も口も人一倍まわる栄一の身に、蚕を飼い、泥まみれで藍を作って売り、臨時の税も労役も言われるがままに差し出す村の生活がしみこんでいるからこそ迸るように出てくる疑問なのだ。
村を丸ごと作ったという血洗島でのロケの積み重ねと、吉沢亮の鮮やかな口跡が奏功している。

吉沢亮、「キングダム」では政治的なセリフを気品と気迫あふれる語り口でこなす姿が若き王そのもので驚いたが、この渋沢栄一役では武蔵国の饒舌な百姓になりきっている。なかなか堂々たる大河の主演ぶりではないでしょうか。

理も熱もある、でも基本、芋くさい栄一。それがいい。
本を読むのが好き、異国や江戸の話が好き、自分でも行ってみたい。
でも浮世離れしているのではなく、土仕事をし、人間相手に商売をする身体感覚をもった人物像。

「そんならどうして日の本の神様は神風を起こしてくんねえんだい?」
とスピリチュアルガチ勢を素で斬る栄一まじウケたww

たとえ藁人形相手の稽古でもうまく斬れないのは、彼が人の中で生きるのを良しとする人間だからだ。人を斬るというのは、やはり人間性を手放したうえでの行為なのだと思わされる。

栄一は実によくしゃべる一方、何かにつけ「頭の中がモヤモヤする」「ごちゃごちゃする」「ぐるぐるする」とも言う。ブレイクスルーはいつもモヤモヤから生まれる(懐かしい旭化成のCM(笑))。
決められたことに納得して収まっているだけでは、新しいものは何も生まれないし、激動の時代には、気が付けば茹でガエルになっているだろう。

本作の場合、「決められた仕組みを遵守する」壁が、父親である市郎右衛門なのがまたおもしろい。

彼は決して凡愚ではなく、それどころか声望高い村長である。米作に向かない村で質量にこだわった藍を作りうまく売りさばく才もある人物。長年にわたって粉骨砕身働き、家族や村への情愛も深い。

彼が「百姓の本分を守れ」「世の中の仕組みに棹さすな」と言うのは、思考停止や卑屈ではなく、長年の経験による生活実感なのだ。せこい保身や立ち回りなどではない、自分が守るべきものに責任をもってきた者の処世術。小林薫の程よく重い(重すぎないのがイイ)芝居も相まって、この父親を見ていると「これが本来の保守というものなのだな」としみじみ思わされる。

真の保守はその土地に根差した生活と身体を伴っているから、大きく、尊い。しかし、若者から革新が出てくる。渋沢が成功したのは、机上の空論からお題目を唱えるのでなく、土や人と共に生きてきた身体感覚をもっていたからだろう
(‥‥というふうに、本作では描かれるのだろう)。

栄一が父をどうやって越えていくのか楽しみだ。


以下、箇条書きで。

●血洗島の助演陣も達者。白洲次郎の少年時代役のように、まるで絵のように美しく剃刀のように尖った役柄が多かった高良健吾が、今作で人の良さが取り柄で頭のほうは単純という、いつもニコニコした喜作を演じているのは今昔の感がある。
 あんなにお千代お千代と言うてたのに、あっというまに成海璃子ちゃんとくっついてたのも納得できる頭の弱さw あまりにかわいいので絶対に不幸になってほしくない!(ネタバレ不要ですw)

●橋本愛が、出てくるだけで痺れるくらい美しい。彼女が出てくると映画になって時が止まるよう。しゃべらなくても絵になるたたずまい。もちろんしゃべってもイイ。そういえば彼女も「いだてん」とは全然違う役だな。あの役もすばらしかった。

●橋本愛のすばらしさを見るにつけ、のんこと能年玲奈の奪われた年月を思い、事務所をやめると干しに干しまくる芸能界の悪習に対してふつふつと怒りがわいてくる。今やってる映画「私をくいとめて」めちゃくちゃイイらしいね! 

●「いだてん」で天狗倶楽部のリーダーとして異様な(笑)印象を残した満島真之介がまったく違う役柄。凄惨な表情がいい。剣の腕が優れていたからこそ江戸で志士として育ってしまう悲劇。襲撃、暗殺、弾圧‥‥歴史が大きく動くとき、多くの血と激情、人生の転回があったのだなあとあらためて。

●小池徹平はもはや何でもできる役者だな。橋本左内も良かったけど大河でもっとがっつり見たい。そして上白石萌音の貫禄はどういうことでしょう。登場シーンはあんなに少ないのに。前世で天璋院だったのかな?というレベル。渡辺大知の家定、磯村勇斗の家茂も役の雰囲気が良く出てる。

●凡庸で小心な名家の当主が、はからずも時の将軍にロックオンされ出世した結果暴走してしまうという井伊直弼の解釈も斬新だし、最近では奇人か青二才として描かれがちな慶喜の青年時代の苦悩がクローズアップされるのもおもしろい。慶喜と平岡の別れは両者達者な芝居で、地味だが良いシーンだった。

●しかしなぜ、水戸のご老公は妻にキスをして死んだのだ?w いや、愛妻家ぶりをアピールしたんだろうけどw 慶喜と美賀子の今後の夫婦関係も気になります。川栄李奈ちゃん何やってもいいな。

●江戸と別のどこか(薩摩とか土佐とか会津、今回は血洗島)の二元中継というのは大河の幕末物の定番なんだけど、今回すごく洗練されてる印象。家定、家茂、斉昭、徳信院などは定番のキャライメージに合わせたキャスティングでわかりやすく、井伊や慶喜には独自の味付け。とにかく手際が良い
   ‥‥というのはオタクの感覚で、歴史に詳しくない方はどんなふうに見てるのかな?

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