インタビュー: だいじょうぶ、そのままで「はなまる」だよ ~ はなまる塾 河野理恵さん
◆ 一生懸命な先生になりたくて
―――学校の先生になりたいと思ったのはいつですか?
いちばん最初は、中学生のときでしょうか。吹奏楽部の顧問の先生が大好きで。
―――すてきな先生だったんですね。
はい。若い女性の先生で、けっこうヒステリックな人だったんですけど‥‥(笑)。
―――え、そうなんですか?
「いっぱいいっぱいだからこんなふうだけど、すごく真剣に思ってくれているんだな」と感じていたんです。私たちの代が最後のコンクールで県大会に行けなかったとき、いちばん泣いていたのも先生でした。「ごめんね」「私の力不足で」とずっと繰り返していて‥‥。
その姿を見て、こんなふうに一生懸命になれる先生になりたいと思ったのを覚えています。
―――とても興味深いお話。何かをしてもらったからというより、先生の一生懸命さに打たれたのが原点なんですね。理恵さんはどんな子どもだったんですか?
とても活発で、食い入るように授業を聞き、みんなの前で発表するのも大好きな子でした。ちょっと食いつきが良すぎる子だったかもしれません(笑)。
―――今思えば(笑)。
はい。指名されないとすねたり(笑)。
―――中学・高校では吹奏楽に打ち込んでいたんですね。
高校では新聞部も兼部して、文章を書くのにもハマっていましたね。高校では体育祭のブロック幹部、大学では学園祭の実行委員など、よく動いていました。人前に立って話したりするのも得意で、まわりにも「先生に向いてるよ」と言われたりして。
◆ あのころも今の幸せにつながっています
―――そのころについてうかがってもいいですか? もちろん、話せるところだけで。
はい。28歳ごろ、休職を経験しました。きっかけはプライベートなことです。うつ状態になり、部屋に引きこもって泣いて暮らしていました。
クラスの子たちは大好きだったし、「早く学校に戻らなきゃ」という思いがあり、2か月くらいで復帰したのかな。
―――2か月で調子は戻った?
いえ、戻っていなかったですね。学校に行けば忙しいからノンストップで動くんだけど、心と体がついていかない。ごまかしながら、だましだましやっている感じ。
そのとき、職場の同僚だったのが夫です。
―――あら!
彼は穏やかなスポンジのような人で、一緒にいると癒されるんです。私が疲れていても、仕事でうまくいかないことがあって泣いても、いつもどおりそばにいてくれる。それが私の支えになっています。
―――すてきなパートナーと出会えたんですね。
はい。消えてしまいたいくらいつらい時期も、夫との出会いにつながったと思えば、人生万事塞翁が馬ですね。ひとつの物事を、一概に良いとか悪いとか決めることはできないし、決める必要はないんだなと思います。
◆ 「わかった!」 子どもの輝きを引き出す はなまる塾
家庭の事情等もあり、2年前に小学校を退職しました。保護者の方たちがとても惜しんでくださって、有難かったですね。「先生、これからは友だちになりましょう」とLINEを交換したりして。お子さんのことで相談を受けたりと、今もやりとりがあります。学校の教え子で、はなまる塾に来ている子たちもいます。
―――「はなまる塾」は理恵さんが今年スタートした少人数制の教室ですね。何を教えているんですか?
レギュラーでやっているのは、学習とピアノ、二つのコースです。
それから、不定期で料理や実験、工作の単発レッスンもしています。
―――やっぱり、子どもに教える仕事が好きなんですね。
大好きです! 自分でいうのもなんですが、教えるのは世界一じょうずかも?(笑)
「勉強なんてつまらない」と思っている子は多いですよね。でも、はなまる塾では学習コースの子もみんな「楽しかった」と帰っていきます。子どもが楽しく学ぶ場を作ることができるのが私の強みです。
―――その秘訣はなんでしょう? ちょっと教えてくれませんか?
まずは、私自身がとても楽しく教えているから、それが子どもにも伝わるんだと思います。
もうひとつのポイントは、一人ひとりの「ちょうどいいハードル」。
勉強って、難しすぎても、簡単すぎてもおもしろくない。ちょっと頭をひねって考えて、「わかった!」という瞬間が一番うれしいんです。
そこをすかさずとらえて「すごい!」「じゃ、こっちはどう?」「これもやってみて!」というと、気分が乗ったままどんどん進んでいけるんですよ。
―――その子にとっての「ちょうどいいハードル」を見極めて、課題を示してあげることができる、それがプロの力ですね。
しかも、今は一人ひとりとしっかり向き合うことができます。教員時代は、限られた時間でクラス全員を見ていましたから‥‥。
はなまる塾に来た子たちが思う存分学びを追求して、笑顔で帰ってくれる姿を見ると、本当にうれしいです。
◆ それぞれの「好き」をみつけてほしい
―――学習のほかに、お料理やお菓子作り、工作や理科の実験など、いろいろな単発レッスンをされているのも特色ですね。
子どもたちがそれぞれの「好き」を見つけてくれるといいなと思って。気軽に参加してもらえるように、単発でいろんなことをやっています。
―――「習いごと」となると、始めるのに少しハードルがありますものね。
はい。だから単発なんです。ちょっとやってみることで子どもの世界は広がりますから、おうちではなかなかさせてあげられないことを、思いきり体験してほしいですね。
「あ、こういうの好きだな」「もっとやってみたいな」と感じたり、科学や料理、アートの世界に興味をもつ子がいるはずです。
―――ゲスト講師も登場予定だとか。
はい! 近々、魚をさばいてアジフライを作る料理教室や、本物のエンジンを搭載した小さなロケットを作って発射するロケット教室を予定しています。先生はそれぞれ、プロの料理人さん、福岡大学工学部の教授です。
プロのお話を間近に聞き、技術を見せてもらう貴重な機会ですよ。子どもたちがわくわく楽しんでくれるのが楽しみです。
―――すごい! 理恵さんにはコーディネーターの才能もありますね。
教員時代にもやりたかったけど、やっぱり現実的になかなか難しくて。
もともと、いろんな人に会って、おしゃべりして仲良くなるのが大好きなんです。
自分で裁量をもって「何かいっしょにやってみませんか?」とお誘いできるようになったのは、はなまる塾を始めてよかったことのひとつですね。
―――それぞれの専門分野をもったプロの方と、子どもたちの先生としてのプロである理恵さんとのコラボですね。いろんな可能性を秘めた、豊かなプロジェクトですね。
人と人がつながると化学反応が起きますよね。今後、やってみたいプランがたくさんあります。
◆ 葛藤もある。でも、今のわくわくを大切に
最近、「私ってほんとはどんな人間なんだろう?」とよく考えます。以前は、明るく元気で一生懸命、リーダー気質だと思っていました。人からもそう言われてきたから、「そうじゃなきゃいけない」と思っていた部分もあったかも。
―――そうではない自分がいる?
はい。考えてみれば、学生のころから「今日は学校に行くの面倒だな」という日がありました。授業に出ずに、ずっと部室で過ごしていたり。
繊細で傷つきやすい部分もあり、いいほうにも悪いほうにも感情が揺さぶられるタイプ。
―――感受性が豊かなんですね。
よくいえばそうですね(笑)。元気いっぱいな私とネガティブな私、どちらも私なんですよね。どっちが本当とかじゃなく‥‥。
思うのは、私はほんとはそんなに馬力があるタイプじゃなくて、肩の力を抜いてゆっくり過ごしながら、自由に行動するほうが向いているんじゃないかって。学校勤めをしていたころも、よく体調を崩していたんです。仕事そのものは大好きで、向いていると思うのに。
当時はわからなかったけど、がんばりすぎていたのかもしれません。
―――きつかったでしょう。本当に大変なお仕事だから‥‥。
そうですね。 正直、とてもきつかった。 そのころは、自分の心と身体をごまかして必死に働いていましたが‥‥。
でも、教員時代の教え子たちが未だに慕ってくれて、 飲みに行ったり遊びに来てくれたり、うちの塾生になってくれた子もいることを思うと、 あの頃の私に「がんばったね、よくやった」って言ってあげたいですし、 ついてきてくれた教え子たちには感謝しかありません。
―――教え子さんたちへの理恵さんの思いやお人柄が通じていたからこそだと思います!
そうですかね。
もうしばらくしたら、「よーし、またばりばり働くぞ!」と思うかもしれないけど(笑)。少なくとも今は、少しのんびりして、自由に時間を使えることがとても幸せだなと感じるんですよね。
自分の状態が良いと、子どもたちに学びの豊かさや楽しさをよりたくさん届けられることも実感しています。
でも同時に、今も葛藤しています。
公務員ってやっぱり守られている存在でもある。収入、育休、退職金‥‥。
―――社会的信用もありますよね。
はい。そういう枠組みから外れて、自由で幸せだと思う反面、「このままで大丈夫なのかな」と不安になったり。
だけど、未来の不安にとらわれて考え込んでも良いことがあるわけじゃないから、やっぱり今やりたいこと、わくわくすることをひとつずつやっているところです。
―――今、理恵さんを見ていると、いろんなことを楽しまれているなと感じます。
自分が良い状態であれば、何かしら、自分に合った良い流れがくると思うので、そんな未来を楽しみにしながら、今を大切に過ごしています。
◆ だいじょうぶ、あなたは「はなまる」だよ
―――「今のままでいいのかな」という葛藤や未来への不安は、きっといろんな人に共通する思いですよね。
自分の「隙間」を見て不安になっちゃうんですよね。収入とか、性格の難点とか、足りない部分が気になって‥‥。でも、隙間はほんの一部分で、誰でもたくさんもっているものがたくさんある。そちらを見て生きていきたいなと思います。
―――10年前の自分に手紙を出すとしたら、何と書きますか?
うーん。「だいじょうぶよ」と書くかな。「今はつらいだろうけど、10年後のあなたは幸せに暮らしてるから」って。
そう考えると、10年後の私も、今の私に対してそう言うんでしょうね。
「なんとか生きてるから、だいじょうぶだいじょうぶ!」と。
人生って、そんな感じで続くんですよね、きっと。
―――「だいじょうぶ」っていい言葉ですね。
学級通信のタイトルも「だいじょうぶ」にしていたくらい、この言葉が大好きです。
「何があってもだいじょうぶだよ」という思いを込めて。自分に対しては、まだちょっとそう信じきれないときもあるんですけど‥‥(笑)。
―――そんな正直な理恵さんが好きです。
あはは(笑)。でも、子どもには自信をもっていえます!
小学校に入ると、子どもも「自分ってだいじょうぶなのかな」と思うことがあるんですよね。
―――まわりと自分とを見比べる力がつくというか‥‥。
はい。それも成長のひとつではあるけど、そばにいる大人として「絶対だいじょうぶだよ!」と伝えてあげたい。
「何かが足りなくても、何かを失っても、先生もいるし、おうちの人もいるし、なんとかなるよ」
「生きてるだけでだいじょうぶ」
「みんな、そのままではなまるだよ」 って。
―――あ、だから「はなまる塾」?
はい! 苦手なことがあっても、どんな子でも「はなまる」です。
実は最近、不登校のお子さんについての相談も増えています。
私は小学校でも不登校の子の対応を担当していたので、おうちの方がとてもしんどい思いをされるのも見てきています。どうか抱え込まずに相談してほしいです。お話をじっくりうかがって、必要なサポートをお届けできます。
今週は、不登校のお子さんがふたり、塾の体験に来てくれました。
楽しそうに勉強したりお料理をして、うれしそうな顔で帰っていく姿を見て、本当にうれしかったです。
―――はなまる塾に来ると、みんな笑顔になるんですね。
どんな子にも「わたし大丈夫だな」 「このまんまで はなまるだな」と思ってほしいです。
私が心からそう思っているから、みんな楽しく学んでハッピーな気持ちでおうちに帰ってくれるんじゃないかと。
―――そして、子どもたちの笑顔で理恵さんもハッピーになるんですね。
そうですね。子どもも、私も、みんな「はなまる」!
そんなふうに、みなさんと一緒にごきげんな日々を過ごしていきたいです。
(おわり。)
◆編集後記
センシティブなことも正面から話してくださる理恵さんに胸打たれました。自分と向き合い、こうして言葉にできるまでに、どれくらいの時間がかかり、苦しみがあったのでしょうか? その過程があったからこそ、どんな子にも、その保護者の方にも「だいじょうぶ」「そのままで はなまるだよ」と確信をもって言えるようになったのだろうと想像します。
ただ明るいだけじゃない、涙も悔しさも、いろんなことを知っている人だからこそ信頼できます。
理恵さんと、ふわふわのソラちゃん、そして木の香りのおうちに包まれた、優しい時間でした。
(イノウエ エミ)
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