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香りや音が目の前で聞こえてくるようなお料理のシーンは、格別でした。

2021/10/19 読書記録no.57「神様の定食屋」中村颯希

Kindleで先日読んだ本です。

この本の魅力は、なんといっても料理シーンだと思います。リズム良く具材を切っていく工程や、煮込むところ、香りや音がそのまま聞こえてくるような表現に、思わずお腹が空きましたね。

目の前でその光景を見ているかのように、言葉で情景を表現してくれているので、温かいご飯が食べたくなる。
実家に帰りたいなぁ、と尚更思いました。

今日は、こちらの本について書いていきます。


作品について

2017年に発売された、こちらの本。

あらすじ

両親を事故で失った高坂哲史は、妹とともに定食屋「てしをや」を継ぐことに。ところが料理ができない哲史は、妹に罵られてばかり。ふと立ち寄った神社で、「いっそ誰かに体を乗っ取ってもらって、料理を教えてほしい」と愚痴をこぼしたところ、なんと神様が現れて、魂を憑依させられてしまった。料理には誰かの想いがこもっていることを実感する、読んで心が温まる一冊。


刺さった言葉

なるべく、出来立てのものを、熱々のうちに。満足できるようにタルタルソースはたっぷりかけて、でも、口直しは忘れずに。酔っていたら水を飲ませて、辛そうだったらあったかいもんを食わせて、胃の底からあっためて。口幅ったいことを言えば、料理というのは想いなんだ。付け合わせ一つ取ったって、それが何かしらの意図や思いやりに溢れているのだということを、俺はようやく理解したのだった。
裏メニュー、大切な人のためだけに。メニューにない、特別な一品を。
冬の寒さを漂わせた空は真っ青、差し込む陽光は穏やか。味噌の柔らかな香りが漂う店内で、俺は機嫌よく、開店準備に取り掛かった。
本当は伝えたいことや聞きたいことがたくさんあって、謝りたいことなんかもあって、叫び出したいくらいなのに、もう伝わらないと思っているから、グッと歯を食いしばって黙っている。そんな顔。彼らは本当は吐き出してしまいたいんだ。腹の底で、ひんやりと重く凝っている、水の塊のような想いを。
単に相手を喜ばせたいから、頑張っているだけで。その全てに、毎回リアクションが返ってくるわけではないけれど、それでも、ささやかな反応を返してくれる人は必ずいる。そして、それを嬉しいと感じられる自分もいて。だったら、それでいいじゃないか
食べてくれてありがとう。信じてくれてありがとう。この店を支えてくれて、守ってくれて、本当にありがとうございます。定食屋というのは、なんて幸せな仕事なのだろう。
きっと裏で糸を引いているであろう神様には、感謝の気持ちを告げに行かねばなるまい。そう、何か美味しいお酒でも携えて。


読み終わって

冒頭にも簡単に書きましたが、この本の舞台は定食屋さんです。その定食屋さんで繰り広げられる人間ドラマ、その全てが心温まるストーリーで、お腹空くのに、涙出てくるという、側から見てるともう何が何だか分からない状況になると思います。

外で読むと涙出てきそうなので、電車の中でも頑張ってマスクで隠しました。笑

この本には、小洒落たイタリアンとかは全く出てきません。

母が息子のために腕を振るったチキン南蛮や、天ぷらの職人が弟子のためだけに作った卵かけご飯、愛する妻のために何度も練習したオムライス、姑さんが若いお嫁さんに対して作った具沢山の豚汁と冷や飯、など。

このお料理は、どれも愛に溢れていて、相手を大切に思う気持ちが込められています。先に逝ってしまった方も、残された方も、お互いが想いを伝えられぬまま、どこに気持ちを持っていけばいいのか分からない状態の中、「料理」が繋げてくれます。

普段は素直になれなくても、料理で伝わるものがある。気持ちを伝えることで、これまで引っかかって抜けなかった塊が、スポっていとも簡単に抜けちゃう。

想いが込められたお料理って、本当温かいです。

私も、料理好きの母に育てられました。料理好きの母は、料理上手な祖母に育てられました。そうやって、温かいご飯で大切に育ててもらったから、尚更この本のストーリーは刺さるものがありました。

年末には、実家に帰りたい。帰って、同じコタツにみんなで脚を入れてぬくぬくして、母と祖母の美味しいご飯を口いっぱいに頬張って、「美味しいね!」って言いたい。

料理の温かさを知っているからこそ、この本の魅力は十分に伝わってきました。

でも何と言っても、料理のシーンは本当格別です。ヨダレが出てくるし、最高にお腹が鳴りそうになります。なんなら、鳴ってます。笑

どれも美味しそうだったけど、私が食べたいなぁと思ったのはチキン南蛮に添えられたキャベツの千切りですね。え?って思う方もいるかもしれませんが、このキャベツにも物語があるんです。

気になる方は、ぜひ読んでみてください。


おりょう☺︎

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