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数日前の雨を残したような、静寂に活字が沈み込んだような、あのなじみ深いにおい。
2021/7/13 読者記録no.43「さがしもの」角田光代
この本は、角田さんファンの友人がオススメしてくれたものです。
私は、友人に勧められるまで、
角田さんの本をちゃんと読んだことがなかったので、
ほぼほぼ初めて読む、という感覚に近いものでした。
短編集なので、読みやすかったです。
今日は、こちらの本について書いていきたいと思います。
あらすじ
「その本を見つけてくれなけりゃ、死ぬに死ねないよ」、病床のおばあちゃんに頼まれた一冊を求め奔走した少女の日を描く「さがしもの」。初めて売った古本と思わぬ再会を果たす「旅する本」。持ち主不明の詩集に挟まれた別れの言葉「手紙」など九つの本の物語。無限に広がる書物の宇宙で偶然出会ったことばの魔法はあなたの人生も動かし始める。『この本が、世界に存在することに』改題。
目次
旅する本
だれか
手紙
彼と私の本棚
不幸の種
引き出しの奥
ミツザワ書店
さがしもの
初バレンタイン
あとがきエッセイ 交際履歴
解説――人間は本を読むために生まれてきた動物 岡崎武志
印象的な言葉
〈旅する本〉
p12「価値があるかどうかなんてのは、人に訊くことじゃないよ。自分で決めることだろう。」
p15「古本屋というのは、どこの国でも何か似ているものなのだろうかと私は思った。ひっそりと音を吸い込む本。古びた紙の匂い。本を通過していった無数の人の、ひそやかな息づかい。数日前の雨を残したような、静寂に活字が沈み込んだような、あのなじみ深いにおい。」
p23「変わっているのは本ではなくて、私自身なのだと。私の中身が少しずつ増えたり減ったりカタチを変えたりするたびに、向き合うこの本はがらりと意味を変えるのである。」
〈だれか〉
p30「本を開き、私は物語を読んでいるのではなくて、文字を見ていた。見知った言葉で描かれる見知った場所で起こる出来事をつづる、50音の文字。その文字がくっついたり、離れたりする様を。意味を形成しようとする様を。」
〈彼と私の本棚〉
p82「誰かを好きになって、好きになって別れるって、こういうことなんだなと初めて知る。本棚を共有するようなこと。たがいの本を交換し、隅々まで読んでおんなじ光景を記憶すること。記憶も本もごちゃ混ぜになって一体化しているのに、それを無理やり引き離すようなこと。自信を失うとか、立ち直るとか、そういうことじゃない。すでに自分の一部になったものを、ひっぺがし、永遠に失うようなこと。」
〈不幸の種〉
p111「私の思う不幸って、なんにもないことだな。笑うことも、泣くことも、舞い上がることも、落ち込むこともない。淡々とした毎日の繰り返しのこと。」
p113「この古びた難解な、だれのものだか分からない本は歳を経るごとに意味が変わる。かなしいことをひとつ経験すれば意味は変わるし、新しい恋をすればまた意味は変わるし、未来への不安を抱けばまた意味は変わっていく。文字を目で追いながら涙ぐむこともある。声を出して笑うこともある。一年前には分からなかったことが理解できる。自分が、今もゆっくり成長を続けていると知ることができる。」
〈引き出しの奥〉
p120「好青年も、嫌なやつも、遊び人も、真面目な人も、みんなそれぞれの子供時代を経てここにいる。似たようなものに熱中し、似たようなものに恋焦がれ、似たような時間を過ごしてきたとしても、それらに対する受け取り方はみんな違う。様々な記憶を、様々な引き出しにしまって、大人になっている。人って、記憶で構成されている。」
p135「うまくは言えないんたけど、それって世界の切れっ端なんだけど、そのとき、その人にとってはその切れっ端が匂いも、色合いも、全部完ぺきだってこと。なんか、つまんないなあとか思って暮らしている人の中に一個はその完ぺきなものが残っている。」
〈さがしもの〉
p185「いつだって出来事より、考えの方が怖い。本当にそうなような気がした。出来事は起こってしまえば、それはただの出来事なのだ。」
p191「相変わらず、いろんなことがある。悲しいことも、嬉しいことも。もうだめだ、と思うような辛いことも。そんな時は決まって、この言葉を思い出す。「出来事より、考えの方が怖い」それで出来るだけ考えないようにする。目先のことをひとつひとつ片付けていくようにする。そうすると、いつの間にか出来事は終わり、去って、記憶の底に沈澱していく。」
本を閉じて
言葉の繋ぎ方が、とても美しいです。
私は、特に古本屋の表現が好きでした。
ひっそりと音を吸い込む本。古びた紙の匂い。本を通過していった無数の人の、ひそやかな息づかい。数日前の雨を残したような、静寂に活字が沈み込んだような、あのなじみ深いにおい。
古本屋に行くと感じる、あの複雑な空間。
その空間を見事に言語化した、素晴らしい表現だと思います。
私が頭の中で思っていたことが、
そのまま文字になっていて、腑に落ちましたね。
小説を書く人って、
それぞれ「書くリズム」という波長みたいなものがあると思っていて、
だから、小説が好き、と言っても、
その方が書かれているリズムが自分に合うかっていうのは、また別の話で。
私もこれまで沢山の本を読んできましたが、
実際、合う人と合わない人はちゃんといましたね。
読んでいて、息継ぎがうまくできなくて苦しくなる人もいました。
その中でも、
ちゃんと「自分に合う」作家さんを見つけることはできました。
そして、今回友人が紹介してくれた「角田光代さん」
この方のリズムも、私の波長に合っていて、
読んでいてとても心地よかったです。
もっと他の作品も、読んでみたいなって思います。
おりょう☺︎
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