また来るのを待ってるんだ。
あいつは旅に出たよ。今日の夕方。
-え? ずいぶん急だね。なんで、なんで?
伝言だ。「短い間だったけど、楽しかった。ずぶ濡れになったり、すり傷が絶えなかったけど、充実した毎日だった。ありがとう」。
-どこにいったの?
さあ、しらない。「あとはよろしく」って言われただけだよ。
-この一ヶ月くらいぐったり下ばかり向いてたから、心配してた。けど何も言わずにいなくなるなんて、どうなの、人として。
そりゃあ顔だけ見たらいつも笑顔でいるように見えたかもしれないけれど、誰もが「ボブ」みたいにいつも前向きなわけじゃない。ぎゅっとしぼられて、笑顔の裏で、そっと傷ついてることだって一度や二度じゃなかったはずからね。けど、それは出てったことと何の関係もない。タイミングだよ、ただの。「ずっと一緒」って、最高に君らしい無邪気な考え方だと思うけど、永遠なんてものは何ひとつないんだ。
-そりゃあそうだけど。やっぱりさみしいよ。
ああ。でも「僕にしかできない仕事だったな。みんなが頑張った次の日なんて、特にね。脂だらけになった白い壁面を見るたび、ああ、僕にはここにいる意味がちゃんとある、そんな風に思えたものだ。だからすごく感謝してるんだ」とも言ってた。それだけでいいじゃないか。
-そんなもんかな。それが本当なら、僕が毎日汗だくになって働いてたのも少しは報われる。ああ、長話してたら頭がぼうっとしてきたよ。
ボクからひとつだけ忠告だ。ばかでかい声で歌うのは、やめといたほうがいいぜ。ひどいもんだよ、実際。
-あははは。案外、それが一番の原因だったのかもしれないね。
部屋中に広がる湯気の向こう側で、今日も「彼」はじっと僕を見ている。いつもと変わらない笑顔で。
ダイソーのスポンジを買い変える時は、いつも少しさみしくなる。やっぱりデザインの力ってすごいよね。「顔」がデザインされただけで、ただのスポンジが、こんなにも愛おしくなるなんて。
*
「僕が帰ったあとって、いつも何してるの?」
「また来るのを待ってるんだ」
(Sponge Bob)
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