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好奇心と情熱のあいだ。
久しぶりにホンダの「シティ」を見た。黒のボディで、しかも憧れの「カブリオレ」だ。あらゆるパーツが直線だけで構成されたような無骨なデザインで、「ブロロロン!」と大きな音を立てて倉庫街を走り抜けるその姿は、やっぱりクールだった。運転していたのはグレーのジャケットに細めのネクタイ、銀縁の眼鏡で仕上げた森本レオみたいなエンスー風。所属、壮年の部。うんうん、上々の組み合わせ。コーディネートはばっちりだった。僕は好きなクルマを発見すると、必ず運転席をチェックすることにしている。だって「バットマン」に軽トラは似合わないし「バカボンパパ」とアメ車だって似合わない。アントラーズにはアルシンドだし、ジャイアンツにはクロマティ、ゴダイゴにはやっぱりタケカワユキヒデなのだ。
1981年に誕生したコンパクトカー・シティは僕らみんなの憧れだった。デザインコンセプトは「トールボーイ」。コンセプトがすでにかっこいい。車高は低ければ低いほど人気だった時代に、背が高くて不安定なチョロQみたいなデザインはびっくりするほど画期的だった。確か、カーステレオも標準装備だったっけ。けれど、僕が一番夢中になったのは、ラゲッジスペースに「モト・コンポ」を搭載できること。シティのトランクにぴったり収まるトランクみたいなその小さな箱は、ハンドルとシートがボディに格納される、驚きの「折りたたみ式バイク」なのだった。おしゃれで軽快なコンパクトカーでどこまでも遠くに。クルマが入れないような「その先の道」を見つけたら、バイクに乗り換えてずんずんと突き進もう。まるで、スタンドバイミーみたいな冒険だ。きっとその頃は、日本中のあちこちに誰も知らない「その先の道」があったのだ。
なにより「クルマにバイクを載せてみよう」って心意気が最高だ。「無理無理、絶対。オレにはわかる」。きっと偉い人たちに、そんな感じで死ぬほど反対されまくったことだろう。このクルマを設計したのは、20代の若者たちのプロジェクトチームだったらしい。それでも、どうしてもやりたかったんだ、多分ね。2輪も4輪も作り続けてきたホンダにしかできない最高の提案を。「6輪生活、シティ×モトコンポ」、そのコンセプトはきっと、若き開発者たちにとってまだ見ぬ「その先の道」だったんだと思う。
マッドネスのスカのリズムとムカデダンス。あのCMが斬新だったのは、クリエイターたちの好奇心を刺激する、最高のプロダクトがあったからこそ。ものづくりはいつだって、好奇心と情熱。それがすべてなんだ。
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