マガジンのカバー画像

忘れ物市

15
電車内に忘れられた様々な物達が売られている「忘れ物市」に並んでいたウェディングドレスに想いを馳せた人間達の物語。 心の片隅に、忘れていた思いがありませんか。 -恋愛オムニバス小説…
運営しているクリエイター

#恋愛

明日香と信二3

明日香と信二3

 西日が当たるオフィスの午後は、毎日まどろむような眠気に襲われる。

 明日香は引っ付きそうな瞼を何度か大きく見開き睡魔を追い払った。

 信二が退職した後、ここでの明日香の仕事量は確実に目減りしていた。楽しくも辛くもない会社で時間を潰しに来るような毎日だったが、自分から辞める気など毛頭なかった。

 元々社内に友人と呼べるよう人間などいなかったが、信二が去ってからは明日香に話しかけてくる人間は殆

もっとみる
月子と太一10

月子と太一10

 母の訪問時で目が覚め、カーテンを開けると見事な日本晴れだった。

 早朝からフルパワーの月子の母は、すでに着物を着ており、のそのそと起き出す太一と月子に朝食を作っていた。

「ほら、月ちゃん、シャワー浴びてきて。太一さんは先にご飯たべて。」

 当の本人達よりもソワソワし、張り切り、アタフタと動き回る母を見て、今日は結婚式なんだと実感させられる。月子は言われるがまま浴室に向かい、太一もそれに合わ

もっとみる
月子と太一9

月子と太一9

 荒っぽいだけで全然良くないな。

 偽物の夜の中で、またも乾いた喉を潤すためにビールを一気飲みすると、月子はそんな風に思っていた。

 カズシとのセックスについての感想に自分を誇らしく思いながらも、こうしている自分にまるで現実感が湧かなかった。

 あれ以来、何度かカズシから非通知で電話があり、そのどの誘いも断らず、月子はカズシと逢瀬を重ねていた。その度に、なんでこいつと会ってんだっけ?と夢から

もっとみる
月子と太一7

月子と太一7

 意思薄弱ってこういう事かな。

乾いた喉を潤すためにビールを一気飲みすると、月子はそんな事を思いながら、いくら弁当をかき込むカズシを見下ろした。

「うまいね、コレ。」

月子と目が合うと、ニッと笑ってカズシは言った。

真昼間のラブホテルの、偽物の夜の中で、力無く月子も笑ってみせる。

 いったいどうやってこの男の誘いを断れるっていんだろう。

ここへ入る前に言い訳みたいに思った事を、月子はも

もっとみる