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ラーム氏の語る「コロナによるサッカーへの弊害、ドイツ代表やレーヴ監督への思い」

—— 以下、翻訳 (インタビュー記事全文)

元バイエルンのスター選手、フィリップ・ラーム氏は、コロナ禍や、自身の息子、現在最も喪失感を感じていることについて語ってくれた。そして、サッカー・ドイツ代表への大きな願いについても。

フィリップ・ラーム氏は、ドイツサッカーが誇る最も有名な人物の一人だ。FCバイエルンとドイツ代表チームの元キャプテンは、あらゆるタイトルを勝ち取ってきたのだ。FCバイエルンで8度のドイツチャンピオンになり、DFBカップは6回の優勝。さらに、チャンピオンズリーグ優勝者や、ワールドカップ王者を名乗ることもできる。そして、これらの成功にもかかわらず、彼は常に地に足のついた考え方を持っている。

その点は今も何も変わっていない。ラームは現在、起業家であり、DFB Euro社のトップを務め、DFBの執行委員会のメンバーでもある。今回、ドイツ『t-online』インタビューで、ラーム氏は、自身の新著や、プロスポーツの世界、そしてコロナ流行がアマチュアスポーツに与える影響について語る。

t-online:ラームさん、スポーツ界では特にアマチュアがコロナ規制に苦しんでおり、特に子供たちはそれが顕著です。あなた自身も父親です。現在の状況をどのように受け止めていますか?

フィリップ・ラーム:私たちのチームでプレーするアマチュアサッカーの選手たちは、とても苦しんでいるね。私には8歳になる息子がいるが、信じられないほど体を動かすのが好きなんだ。かつての私がそうだったようにね。スポーツで気晴らしすることが出来なくなってしまった。今回のパンデミックで、子どもたちは何かを失い、それが子どもたちの成長にどのような影響を及ぼすかは、まだわかっていない。

子供の頃のフィリップ・ラームさんなら、この状況をどう受け止めていたでしょうか。

友達ともほとんど会えず、運動もせず、サッカー場で新鮮な空気を吸うこともできない。ひどく寂しいだろうね。だからこそ、今の状況は非常に悲しいよ。

アマチュアスポーツに関して、最も危惧していることは何ですか?

ボランティアや子供たちが全員また戻ってきてくれるかどうか、それが心配だ。今、人々は様々な苦悩を抱えている。また、アマチュアスポーツはボランティアによって支えられているため、その構造やルーティンが崩れ、興味を失い、辞めてしまうことだってあるだろう。また、子どもたちは多くのスポーツをすることを好み、コミュニティや社会とのつながりを必要としていることも、私たちは知っている。こうした教育というのは、わずか数人のプロを育てることよりもはるかに重要なのだ。

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こうしたボランティアの人々は、例えば、どう重要なのでしょうか?

例えば、サッカーでは、冬場になると屋内での大会が多いことを考えてみてほしい。確かに、子供のチームの監督から、朝7時半にどこどこに集合なんて言われれば、母親や父親としては疲れるときもある。それは、私自身も経験済みだよ(笑)。しかし、そのあと会場のホールで、子供たちが楽しむ様子を見たときには、どんなに嬉しいことだろう。そして、スタンドでケーキやコーヒーを口にする。親は会場に来て座り、子供たちにはお弁当がある。これは、ボランティアが何週間も前から準備をして、子供と親のために素晴らしい一日を提供してくれるからなのだ。大会を開催するには、多くの人たちの尽力が必要なんだ。

プロ選手はシーズンが続く一方で、アマチュア選手は中断を余儀なくされています。その点については、どう思われますか?

どのアマチュア選手にとっても苦しいと思う。とはいえ、プロ選手がプレーできるというのは、やはり良いことだと思うよ。

それはなぜですか?

特に息子には、こうした混迷の時代において、少しでも普通の生活をさせてあげたい。ブンデスリーガは、土曜日の午後3時30分からの放送だ。昔からそうだったし、コロナ禍においてもそれは変わらない。ブンデスリーガは、人々に日常と少しの平穏を与えてくれるのさ。

あなたの一家は恵まれています。しかし、フィリップ・ラーム財団では、社会的に恵まれない子供たちを支援することを主眼に活動していますね。今、こうした子共たちは、特に苦しんでいると言えますか?

現在、多くの人が困難な状況に置かれている。それは、子どもたちだけではない。パンデミックの影響で、財団の活動も苦しくなっているのは事実だよ。思うような活動ができていない。2009年から29回にわたって開催してきた、栄養や、運動、自己啓発に焦点を当てたサマーキャンプは、2020年には中止せざるを得なかった。アフリカのヨハネスブルグとケープタウンの2つのプロジェクトは、さらに難しい状況だ。不安定な生活環境にある人々にとって、パンデミックは、より深刻な脅威となっている。

あなたは社会的に貢献していると同時に、「大金稼ぎ」というサッカー界のネガティブなイメージに別れを告げることを世間に訴えてきました。しかし、あなた自身がキャリアの中で、そういったイメージを持たれるような振る舞いをしたことはありませんか?

それは場合によるね。基本的に、私は倹約家であり、お金の無駄遣いはしない人なのだ。サッカー選手になってから、恵まれた生活を送ってきたことは承知している。FCバイエルンであれ代表チームであれ、一流のサッカー選手は成功の象徴だ。これは、立派な家や、車、時計、素敵な休日などのステータスシンボルとともに語られることが多く、多くの人にとって、なかなか手の届かない生活水準となっているね。

プロのサッカー選手の日常生活における課題は、あなたがプロキャリアを始めた頃と比べて、今では変化したと言えますか?

そうだね。プロ1年目は、2003/04シーズンにシュトゥットガルトで過ごした。あの時代から比べると、コミュニケーションにおいて、特にソーシャルメディアで多くの変化が起こってきたね。だからこそ、それをどう扱うのか、何かを発言する、しないを含め、慎重に考えなければならないんだ。

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最近出版された自身2冊目の著書『ゲーム。サッカーの世界とは』の中で、あなたは、プロサッカー選手とピアニストのラン・ランなどのアーティストを比較し、サッカー選手はこうした人物たちに比べて世間の印象が非常に悪いと、批判されています。その原因は何でしょうか?

サッカーで得られる金額は、きっと多くの人にとって夢のようなものだ。しかし、忘れてはならないのは、これはごく一部の限られたプロ選手にしか当てはまらない、ということだ。ここドイツでは、ブンデスリーガのトップクラブに所属する選手たちが素晴らしい収入を得ているという話になるが、そこでも大きな違いがある。2部リーグ、3部リーグになると、選手の収入はもっと少なくなる。サッカー選手として、この仕事ができるのは10年から15年くらいで、その後はほとんどの人が将来の不安を抱えているのだ。トップクラスの収入など、ごく一部の例外的な選手に限られるね。

常に世間の注目を浴び、このようなイメージを形成するのは、まさにこういった例外的な選手たちだということですね。

その通りだ。そして、その数字が世間に広まっていくわけだが、私自身も「これを理解できる人などいない」と思っている。誰もいないだろう。数ヶ月前に報じられたリオネル・メッシの給料の記事を読んで、思ったよ。それは妥当な金額なのか?とね。私は強く疑っているよ。

あなたは著書の中で、プロサッカー選手のキャリアにおける同性愛者の存在を取り上げたことで、多くの批判を受けたようですね。その後、ご自身の発言を考え直しましたか?

私は自分が言ったことを曲げるつもりはない。これは私の意見だが、こうしたテーマが公に議論されるようになったのは良いことだ。もちろん、そのような話をする必要がないことが理想であると思う。つまり、私たちの国では同性愛がまったく普通のこととして捉えられ、私たちの社会に人種差別が存在しないという世界だね。しかし、残念ながら、現実はそうではない。18歳から35歳という年齢のサッカー選手が同性愛をカミングアウトすることは、ある種のリスクも伴う。とはいえ、それはしっかりと議論されるべきことだ。

あなたは、ソーシャルメディアが今ほど日常生活に普及していない時代に育ちました。こうしたさまざまなネットワークサービスに、危険性も感じていますか?

機会と脅威、そのどちらにもなり得るね。すぐにネットワークを構築でき、いつでも自分の立場を表明でき、ファンに選手としてのキャリアをシェアしてもらうことができるのだ。精神的な、より強固な結びつきが生まれるのは、メリットだと言えるね。昔はそれができなかった。同時に、ソーシャルメディア上で自分をどのように表現したいか、どのような発言をするのか、そしてこうしたメディアの移り変わりの速さに関しても、注意しないといけないね。

あなたの著書の中では、ユルゲン・クロップやペップ・グアルディオラ、さらにはオットー・レーハーゲルといった有名監督たちに関しても、一つの章を割いていますね。ヨアヒム・レーヴの後任を自由に決められるとしたら、あなたは誰を監督を選びますか?

それは私の責任ではない。そしてこの話は、先ほどの、「何にコメントすべきか、そうでないのか」という話題に戻ってくる。私はEURO2024の大会ディレクターであるため、「次の代表監督は誰になるのか」というテーマで公にコメントすることはできない。

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ですが、ドイツ代表チームの話題に移りましょう。最近、ドイツ代表のイメージが悪くなっています。

代表チームにとって最も重要なことは、国民が熱狂的に支持し、テレビの前で観戦し、スタジアムに行きたくなる、ということだ。これは、共同体の意識にとって、非常に重要なことだ。すべての選手が、ドイツのためにプレーすることは特別なことだと意識しなければならない。特にメジャーな大会では、とても名誉なことだと思うよ。試合前に国歌を聞くと、祖国の人々を代表しているのだと思い、いつも特別な気持ちになっていたね。

あなた自身は、過去にそのプレッシャーにどのように対処しましたか?

例えば、私が覚えているのは、シュツットガルト時代にチャンピオンズリーグでプレーしていた若い頃も、試合の採点に関する記事はあまり読まなかったということだ。私は常に、自分のパフォーマンスを判断するには、チームメイトや監督、そして周囲の人たちが適しているという明確な考えを持っていたんだ。

レーヴ監督とあなたは、長い間、代表チームを共にしてきました。彼の在任期間を一言で表すと何でしょうか?

私は「最高にセンセーショナルだ」と言いたい。それはなぜか?2006年から2016年までの10年間、あらゆる主要大会で、チームを成功に導いてきたからさ。ドイツは、2006年ワールドカップで3位、2008年欧州選手権(オーストリア・スイス大会)で準優勝、2010年ワールドカップ(南アフリカ大会)で3位、2012年欧州選手権(ポーランド・ウクライナ大会)で準決勝進出、2014年ワールドカップのブラジル大会で優勝、2016年欧州選手権(フランス)で準決勝進出を果たしたのだ。

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近年の低迷により、レーヴ監督の偉大な功績に少し陰りが見えてきました。

ロシア大会での予選敗退という失敗を踏まえれば、これはごく当たり前のことだ。私たちプロのアスリートは、成功か失敗かで判断されるのさ。現在、ヨアヒム・レーヴ監督は、EURO2021を最後に退任することを発表し、チームに新たな強い刺激を与えている。彼にとって素敵なお別れになるよう、欧州選手権の成功を祈っているよ。

また、かつてのバイエルンのチームメイトであるシャビ・アロンソ氏がブンデスリーガに戻ってくる可能性も取り沙汰されていますが、嬉しいですか?

ああ、もちろんだよ。シャビ・アロンソは、成功する監督の条件をすべて備えている。選手としては、絶対的な戦略家であり、ゲームの理解者であり、冷静さと強さを合わせ持ち、中盤のセンターというポジションで影響力を発揮していたのだ。そのため、マックス・エベール(スポーツディレクター)がシャビ・アロンソをグラードバッハの監督として招聘できれば、素晴らしい功績となるだろう。

▼元記事
https://www.t-online.de/sport/fussball/bundesliga/id_89710212/wm-held-philipp-lahm-die-aktuelle-situation-macht-mich-traurig-.html


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