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シロクマは北極で生きたい-compath一年目の句読点-

2020年4月22日にCompathを設立して一年が経ちました。
年度の狭間に句読点を打つために、2020年に印象的だったこと、起こったこと、そしていま考えていることについて、つらつらと。

蓋を開け続ける

北海道東川町はうっすらと雪が積り始めた11月、コロナの合間を縫ってフォルケのプログラムを奇跡的に開くことができた。
わたしは夜の食堂に流れる余韻の時間を眺めていた。

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外のひんやりとした景色が信じられないほど北海道の屋内はあたたかい。
皆がなんでもない談笑をしているのもあたたかい。

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その居心地の良い空間に参加したくなって、席についた10分後、
私はあたたかさそっちのけで、酔っ払いの喧嘩をしていた。

喧嘩相手は起業当初から応援してくれている友人。今回はCompathのことをより応援したいと遠路遥々参加してくれた。お酒が進むにつれ、話に熱が籠り始め、話題はcompathの未来について。応援している前提であえて言うけどさ、と

「この先は綺麗な事ばかりじゃない。見たくないものを見たり、闘う必要も、わかりあえないときはシカトして進む必要もある。それをやるには、君たちはいい子ちゃんすぎない?」

いい子ちゃんというキーワードを地雷に、自分でもぴくりとするのがわかった。1.2.3秒…と心で数えないうちに「いやいやそんなことないですから見ててくださいよ」と、ぐいと身を乗り出して大人気ない酔っ払いの喧嘩をはじめてしまった。

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(火がついちゃったんです)

翌朝、起床と同時にやってしまった後味に頭を抱えた。記憶を辿ると、ふたりで固く握手をして終わったことは鮮明に覚えてる。ダメだ喧嘩して最後に握手とか酔っ払いの典型じゃないか。早く謝ろう、と食堂に向かったところ、声が聞こえてきた。

「いやさ、昨日の記憶がぜんぜんなくってさ!」

えーおぼえてないんですかー!ショックー!と笑って食堂に入った。大人気ない自分の姿がメモリから消去されていてホッとしたと同時に、昨晩の自分を覚えている人がわたしだけになったことへの寂しさも感じた。

悔しいけど、昨晩はどきっとした。

「どれくらいの強さで社会を変えたいと願っているのか」と問われた気がした。動揺したのはまだまだ自信がない証拠。絞り出すように言い訳がましいこともたくさん言った。何が図星で痛かったのか、伝えたかったのか。根っこを辿ると、声が聞こえてきた。

綺麗なものだけ見て、見たくないものに蓋をした結果、
キレイゴトのまま終わるのだけは、心からイヤだ。

いまでも迷った時は、あの時の胸の奥からせりあがる熱さを思い出すようにしている。蓋があるならば、開け続けたい。

わたしはフォルケホイスコーレを日本に作りたいし、
日本が、その選択が当たり前になる寛容な社会にしたい。

コロナ禍での起業という意味

大学のオンライン講義に登壇したときに大学生の子から
「コロナ禍での起業って大変じゃなかったですか?」って聞かれることがあったので考えてみた。

2020年4月22日、コロナと共に起業した私たちは、損害を守るべき資産も、オンライン化すべき既存サービスも、まだ手の中になかった。継続すべき事業もまだ持っていない私たちに、荒波は優しい方だった。

それでも、とても変化の大きい1年間だった。
2019年年末「フォルケを日本に作るために起業します」と宣言したときと比べると、とにかく世の中が大きく変わってしまった。

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(2019年末デンマークへ視察した時のメモ「ガツンとした変化が起こらない日本だから」って当然のように書いてある)

ガツンとした変化に伴い、開催予定だったショートコースが2回直前で中止になるし、思い描いていたパワフルで勢いのある起業1年目は、アクセルと同時にブレーキをかけ続ける不思議なスタートダッシュだった。

コロナ禍の情勢下で、失った機会は多かっただろうが、それよりも、得たものの多さに感謝している。

明らかに、この事業に対する共感者が増えた。

コロナ禍で立ち止まる時間を人類全員が想定外に味わったこと、地方の暮らしの豊かさが注目され始めていること、見ないようにしてきた世の中の分断を目の前にして、既存のシステムに問いが立ったこと。

北海道東川町といういわゆる地方の人口8000名の町で、フォルケホイスコーレのような、人生の岐路で立ち止まる余白の学び舎を作る私たち。
2020年末に東洋経済オンラインで取り上げていただいたのも、そんな背景があってこそだったと感じている。

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はじまりの1年、2020年

起業してからの1年を振り返ってみる。

4月 株式会社Compath設立
4/22、ふたりから始まって2×2...と、どんどん仲間を増えますようにって願いを込めた。4月22日はアースデイらしい。

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5月 設立1発目のツアー開催が中止になる
かっこよくいえば起業して突然の余白。平たくいうと暇。
なんとも私たちらしいスタートかもね、と今の衝動に耳を傾ける時間をとった。なんとなくで語ってしまっている言葉の輪郭を掴むため、たくさん本を読むことにした。今では私たちの礎になっている、大事な言葉たちができた期間。

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6月 Compath設立記念パーティ
「時間できたし、設立パーティでもやらない?」
起業前から応援してくれた大切な人たちを招いてオンラインパーティ
いろんな人たちと手を繋ぎながらの道のりになりますようにと願いを込めて開催した企画そのものが、たくさんの方々の手を借りながらの開催でした。

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ゆりち

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(速攻お蔵入りになったラップ風キャッチコピー)

7月 東川町に移住
とにかく景色が信じられないほど綺麗。大体の悩みはこの景色を見ればチャラ。東川町でのシェアハウス生活のはじまり。

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8月 ショートコース開校に向けて、東川を知る
ファームレラ新田さんと一緒に森づくりを知る機会、山岳ガイド鳥羽さんと初旭岳トレッキング、craft tannoの丹野さんの工房で何度もおしゃべり、白樺プロジェクト鳥羽山さんのかごづくりワークショップ、playfoolや友人に東川にきてもらいながら授業づくり。

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9月 School for life Compath「7日間の秋のショートコース」
余白に投資をしてくれる人がいるか、投資に値するプログラムを作れるか。日本人の休みへの最初のハードルを「7日間の壁」と置いて、開校して集まった14名。彼らが私たちをcompathにしてくれた。

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10月 第一次暮らしブーム到来
北の住まい設計社でのfarmers' gardenの"You can change tomorrow, today."というコンセプトを目にして、社会の変化って遠いものではなく、近くの暮らしや一つ一つの選択から変えていけるのでは、と毎日のように議論。社会の手触り感と小さな経済圏というふたつのキーワードが飛び交う。

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11月 ワーケーション型プログラム「週末フォルケ」
「心から行きたいけど7日間は休めない」と一人の声から始まったプログラム。休むのは週末だけでOKのワーケーション型にするなんて、デンマークのひとたちに怒られるんじゃないかとひやひやしながら開催。でも、やってみて心からよかった。日本でチューニングしながら作るってこんなかんじかも、と確信を持てた。自信を持たせてくれて、ありがとう。

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建築とフォルケと民主主義、のキーワードに興味が出てきたのもこのころ。
我々のシェアハウスも、場づくりの実験台に。

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12月 越冬の厳しさ 暮らすだけで大変だからこそ楽しみを
町民の先輩から脅されながら-20℃の世界で越冬を経験。ほっぺたが痛くて起きる朝も、雪かきももちろん大変。だからこその楽しみ上手な東川町民のひとたちとの思い出が詰まっている時期。友人と餃子パーティ、花屋さんのリースづくり、旭山動物園でしろくまを永遠に見つめる。

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1月 2月のショートコース中断を決意
カメラマンのえりさんと大塚さんとのワークショップ、ジェネレーターの市川力さんとのワークショップ、菊地さんと岩出さんとのsense of wonder探検隊、畠田さんとの写真ワークショップ。やりたかったなあ・・・いつかまたやろうね。

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2月 文通からはじまる共同体「LETTERS」開始
北海道東川町に来られなくても受けられるプログラムの開発。オンラインは早すぎてなんか違うなあ、というもやもやを相談したところ、playfool sakiちゃんの名案から始まり、compathの卒業生と相談しながら作った「文通」のプログラム。

れたーず

3月 校舎構想チーム発足
いつか自分たちの校舎を、を夢見て、建築家の友人たちと東川町を舞台にフィールドワーク。なぜ場を持ちたいのか、を考え詰めた先に、compathのschool conceptがうまれました。デンマークのフォルケホイスコーレが大事にしていること、compathが大事にしたいこと、プログラムをやってみて大事だなと思うこと。

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4月 compath同窓会を開催
Compathのコミュニティを作ろうと、期横断のcompathの同窓会が開かれました。2020年は人に囲まれて始まり、人に囲まれて綴じました。

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今日の積み重ねの先の未来

2020年度、実は一番気を揉んだのは、
「遠い未来に作りたい世界と、今日のあり方は一致していますか?」
ということかもしれない。

余白が大事とこれだけ言いながらも、3月末は予定をつめすぎて息が詰まりそうになっていた。でこぼこで補完しあえる関係性ってふたりだけでも難しくって、自分の中の"個性を尊重しあう"のはりぼて感に気付いた。シェアハウス生活はシステムをアップデートする学びの良い機会だって思いながら、何度となくめんどくさい!って逃げたくなった(たまに逃げた)。

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デンマーク社会の価値観と、私たちに滲みついた日本の価値観が大いに違うことを日常生活からまざまざと感じた。頭では実現したいことがこんなにも明確にあるのに、それを体が応じてくれない。目指したいビジョンに対して、こんな小さなことに気を揉んでいる自分に悲しくなった。

そんなときに自分の置きどころを整えてくれたのは、東川町の人たちの言葉や生き様だった。

北の住まい設計社のfarmers' gardenに到着したら、緑の庭いっぱいの出店にはためく、オフホワイトのクロスに刻印された"You can change tomorrow, today" の文字たちに視界が滲んだ。

ファームレラの新田さんとみゆきさんは、日常で自然養鶏で地球にも人間にも優しい卵を作りながら、地球の100年先の未来を考えるための勉強と対話を止めない。

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ひとつずつ、ちょっとずつ、一歩ずつ。
今すぐは変わらないかもしれないけど、今の積み重ねほど大きいものはない。その積み重ねがいつか大きなうねりに。

2020年は、止まったり、急ぎそうになったり、澱んだり、惑ったりの一年だった。わたしたちが誇れることは、小さな違和感を小さいからと言って無下にせずに、逃げずに対話し続けたことかもしれない。

いまのところ、
遠い未来に作りたい世界と、今日のあり方は一致している自信がある。

ロングコース開校に寄せる思い

2021年3月末、新しい年度方針を決める前に、1週間の余白期間をとった。
お互い考え事をしてみたり、読みたかった本を読んだり。
余白期間があけた後、2021年度に関してひとつ方針転換をした。

「ちょっと早めに、ロングコースに挑戦してみようか」

今年の8-9月に1ヶ月のミドルコース、来年の1-3月に3ヶ月のロングコースのふたつ開校することにした。もともとは3ヶ年計画で段階を踏みながら、ロングコースの理想形をつくりに行こうと考えていた。

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そういう気持ちになった背景として、小咄を紹介したい。ユラン半島にあるトゥヴィンスクールというフォルケホイスコーレのエピソード。

「トゥヴィンスクールと手作りの風車」
1972年第一次オイルショック時、スウェーデンのようにデンマークも原子力発電の建設を始めようとした。しかし、地球環境を破壊し続け、子孫に3万年近く放射性廃棄物の恐怖を押し付ける原発は許せないと、デンマーク国内で激しい反対の動きがあった。その動きのなかで、トゥヴィンスクールの生徒と教師たちは、自分たちで地域自立のエネルギー供給を可能にできないか、と手作りで巨大風車を作り上げた。デンマーク工科大学の専門家の協力は得ながらもほとんど素人が手作り、週500人の手伝い、のべ10万人が関わった。結果、当時世界最大の50メートルの大風車が何十分の1のコストで建設できた。デンマークではこれ以降各地で同様の風車づくりが進み、原子力発電の可否が議論されるようになった。1985年に公共エネルギー計画が採択され、デンマークは国として原子力発電に依存しないことを決断。
奇しくも翌1986年、チェルノブイリ原発事故が起こります。

はじめてこのエピソードを読んだ時、「すごいな」って声が漏れた。

世の中への問いを持つこと
自分たちが小さくできることはないか考えること
対話しながら、手作りで作ってみること

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どれもフォルケホイスコーレの学びにおいて大事にされていること。
シンプルを重ねて追求すると、これだけの大きなうねりになるんだ。
人の持つ力って、すごいな。

当時のデンマークの問いは原子力、では現在の日本の問いは?
コロナ禍で既存のシステムへは問いだらけ。
いまだからこそ、やってみたいと思った。

立ち止まり見渡す景色を共に

過去compathのプログラムに参加してきてくれる人たちは、とてもパワフルだ。葛藤・世の中への疑問・自分への問い。生きている、って感じがする。

こと日本社会においては、立ち止まるということの方が、ものすごくエネルギーがいることだからなのかもしれない。エネルギーが集まったその場では、生きた言葉で語る人につられて、生きた言葉が重なっていく。

日本社会は、空港にある動く歩道みたいだ(そして、大体の人が動く歩道を早足で歩いている)。立ち止まって降りてみた、ということは、何かに対する問いが立ったということ。走っているときは走っているときなりの景色があり、止まっているときはまた違う景色が見えてくる。

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ちょっと止まってみるには結構良いところだよね、と言われるようになりたい。

最後に大好きな小説の一節を。

サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮の花は空中では咲かない。
シロクマがハワイより北極で生きる方を選んだからといって、
だれがシロクマを責めますか。
(『西の魔女が死んだ』梨木香歩)

シロクマがシロクマの生きたい場所で生きられる社会になりますように。
2021年度もマイペースに頑張りますので、よろしくお願いします。

---2021.06.06 Compath Dialogue Dayを開催します

いま、Compathが持っている3つの問いを中心に据えて、Compathが一番対話をしてみたいゲストをお呼びして3つのDialogueをお届けします。

1)Dialogue1 “Compath -2020 to 2021-”
2)Dialogue2 “フォルケホイスコーレと市民の社会参画のデザイン”
3)Dialogue3 “豊かさが再定義される時代の学びと余白の価値とは”

・開催日時:6月6日(日)10:30-17:00
・開催場所:オンライン(Zoom)

いつも近くで応援してくださっている方にも、初めてフォルケホイスコーレやcompathについて触れる方にも、お楽しみいただけるよう、いろんなお話をお届けできればと思っております。

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