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2.夕方になると家の中が苦しい

 マンションに住んでいると、夕方になれば近所からトントントンと包丁できざむ音や、練習するピアノの音が聞こえてきたりします。相撲中継やニュースを流し見しながら夕食のしたくをするひとときは、私にとって、慌ただしくもほっとする時間でした。

 ところが、2年前の秋。夕方になると家の中で不調を感じるようになりました。
 さあ、そろそろ夕食のしたくを始めようかな。そう思って台所に立つのですが、頭がなんだか重くてはかどりません。風邪でもひいたみたいに熱っぽく、料理をしていても手が止まってしまいます。
 早く治そうと風邪薬や頭痛薬を飲んだこともありました。しかしまた次の日、マンションのあちらこちらの部屋に明かりが灯り、台所やお風呂がフル稼働し、エアコンや暖房器具が動き出す夕方の時間になると、頭痛がして胸が息苦しくなるのです。リビングで、台所で、家の中で。
 買い物で外出していたときは元気だったのに。不思議です。台所の天井の長い蛍光灯が妙にまぶしかったり、耳に響くジーンという機械音が大きく感じられたり。皮膚にビリビリするような刺激や圧迫感を感じたりする日もありました。そのうち、家事をしていてもすぐ腰掛けて休むようになり、夜もあまり眠れなくなっていったのです。

 このときの私は、12年ぶりの大阪暮らしが始まったところでした。築16年のマンションの部屋にあふれていた引っ越し荷物の片付けもほぼ終わり、ほっとしていたのですが、疲れがたまっていたのでしょう。
 そんな不定愁訴のような状態をだらだらと繰り返していたある日、冷蔵庫のそばでグラッと床が揺れるような大きなめまいがして、あやうく倒れそうになりました。カウンターで体を支え、よかった、コンロの鍋の上に倒れなくて・・・と思っていましたが、これらのことは予兆にすぎませんでした。
 ほどなくして私は、我が身に起こる明らかな異変におそれおののくことになるのです。それは、深夜になると始まります。どこからともなく謎の低い音が聞こえてくるようになったのです。

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