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メンタルケア=夜半を“走る”

──聖歌隊のコーラスのような音が一定のリズムで続いていて、走っている時の鼓動のように聞こえるのも印象的でした。一方でリリックはおっしゃった通り、赤裸々に心情や生活での実感を歌っています。そこに共感を覚えるんですが、ご自身は共感してほしいという考えもあったりするのでしょうか?

それは全くないですね。ただ僕すごくお酒を飲むんですけど、お酒を飲むと、シンプルに体調が悪くなるし、昼まで寝ちゃったりして病んじゃう時もあり(笑)。リリックでも《連日のアルコールで ボロボロのBody》と歌ってるんですけど、そういうことってきっと誰にでもあるじゃないですか。痛みを誤魔化すためにヤケ酒して、自滅するみたいな。あまりかっこつける必要もないと思ってるので、そんなところが共感してもらえる要素なのかもしれないですね。

──“Midnight Run”はセルフプロデュースの楽曲なんでしょうか?

2020年にリリースしたEP『PINEAL GLAND』の頃から共同で作業しているTyaPaTii(野村帽子)と一緒に作りました。いつもはTyaPaTiiがラフなビートを作って送ってくれるんですが、今回はフリートラックで書いた曲が元々あったので、それを差し替える段階から手伝ってもらいました。

──TyaPaTiiさんと作る機会が多くなったきっかけはあるんですか?

SoulflexのクルーでもあるFunkyが彼と一緒にレゲエのバンドをやっていて。僕もTyaPaTiiを知ってはいたけど、当初は知り合い程度の関係性でした。“The sign”が初めて一緒に作った曲なんですが、ある時突然「ZINに合うと思うから」って彼ら自らデモを作ってきてくれたのが始まりなんですよ(笑)。そのデモを聴いてみたら、めちゃくちゃ良くて。そこから意気投合して、どんどん一緒に作っていった感じですね。『PINEAL GLAND』は全楽曲、2人にプロデューサーとして協力してもらいました。2人には1から100まで説明しなくてもすぐに理解してくれるし、意思疎通もスムーズで。音の構成に関して、彼らと感じてるところが一緒だなと思う機会が多いんですよ。

──近年リリースされている作品は、人間の身体性や知覚に焦点を当てたフレーズやアートワークが多いですよね。『PINEAL GLAND』は人間の脳の器官である“松果体“という意味ですし、『GINGER』のアートワークでは人同士が絡まり合っている様子が描かれていたり。身体の動きや、身体の感覚を作品で表現することを意識されているのでしょうか?

以前コンテンポラリーダンサーの方々の舞台(柿崎麻莉子演出作『WINGY』)に、シンガーとして出演させていただく機会があり。コンテンポラリーダンサーの方々って新体操やバレエが基礎にあったりするから、身体の動きがすごく柔らかい。一緒に公演している時にも、身体や肉体に意識を集中している感じが特に伝わってきました。肉体や筋肉や皮膚って、アスリート的な一面もあるけど、アートや芸術性に関わってくる部分なのかなとも思います。僕が鍛えたりする理由もそこにあるかもしれない。肉体も込みで見られたい、魅せたいという意識は働いている気がします。マッチョになりすぎると、僕が着てる衣装は似合わなくなるけど、逆に筋肉がなさすぎると、ステージングに迫力がないようにも思えてしまう。意識はしていなくても、身体性を表現の一部として認識しているのかもしれないですね。

──そんな一面がある一方で、作品を重ねるごとに内省的なリリックも増えてきているようにも思います。特にそうした変化があったのは『PINEAL GLAND』以降だと思うのですが…。

それ、他の人にもすごく言われるんですよ(笑)。あのEP以降めっちゃ変わったなって。

──ZINさん自身はその変化を実感しているんですか?

『PINEAL GLAND』を制作していた2020年の初頭は新しい出会いもあれば別れもあって、ちょうど人間関係が目まぐるしく変わった時期でした。それもあって、ある意味吹っ切れてやりたいことだけをやろうという気持ちがすごく強くなった。先行シングルの“The sign”を一緒に作った仲間とも話していたんですけど、受け入れられやすいような曲を作るとか、売れ線の曲を作るということは一切考えずに、本当にかっこいいと思えることだけをやるということを徹底したんです。それが意外と反応が良くて、これでいいんだと思えたというか。それ以降楽曲制作に向き合う上で細かい配慮はあっても、とにかくやりたいことをやると切り替えた瞬間でもありました。

改めて振り返ると、『PINEAL GLAND』以前の作品も自分を表現したものと言えるし、妥協したつもりは全くないけど、中途半端だったのかもしれないなとも思います。自分の中で方向性を探っていたというか。あの作品でこういう表現がしたいというものが見えた気もしますね。

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