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100年建築の真ん中で、100年先を思ってみた

私はお散歩が好きで、京都のまちなかを、綿毛のようにフワフワ歩き回ります。

そんな私の定番コース鴨川のすぐそばに、
前から気になっていた、趣のある建物があります。

いつもは何気に通り過ぎてしまうのですが、
今日はふと寄り道をしてみました。


堂々とした風格

京都市上京区、丸太町通の橋を渡ってすぐ。
茶褐色の壁面に、真ん中には塔がそびえるこの建物は、
「旧京都中央電話局上分局」

・逓信省技師の吉田鉄郎氏が設計し、大正12年に建築。
・昭和34年、電話局の廃止後も活用しながら保存されてきた。
・設計者の吉田鉄郎氏は、東京と大阪の中央郵便局をはじめ優れた作品を残した近代モダニズム建築の先駆者で、このビルは彼の前半生を代表する作品。
・昭和56年、京都市登録有形文化に登録。

現地説明板から抜粋
1階はスーパー

1階は京都でお馴染みのスーパー「フレスコ」が入っています。

中は、ごくごく普通のスーパー

特徴的なのは屋根周り。
様々な形の瓦屋根が入り組んで見えて、西洋の塔を思わせたり、日本のお城を感じさせたり…結構、国籍不明です。

いろいろな屋根が重なり合う

それもそのはず、設計者の吉田氏は日本建築にも精通されていたのだとか。
日本の伝統をベースに、西洋の建築様式を積極的に取り入れて、新しい建築様式を生み出していった、当時の空気を感じます。

唐破風を思わせる屋根

窓も長方形の窓が規則正しく並びながらも、所々にアールも使われていて、ちょっとほっこりします。

急傾斜する屋根と、窓周りの丸い掘り込みにこだわりを見る
窓とバルコニー調の意匠が素敵

中京区三条烏丸にある「旧京都中央電話局(現・新風館)」も吉田氏によるもの。

また、この後に手がけ、今も残る東京と大阪の中央郵便局に感じるやや硬質な雰囲気とは、随分趣が異なりますね。

もちろんあちらも「傑作」です。

新風館

京都は100年建築の宝庫

京都には、取り壊しの危機も乗り越えて、今なお現役で使われている100年建築物がたくさんあります。

今回ご紹介した旧京都中央電話局上分局は外観だけですが、京都府庁旧本館、京都市役所本庁舎、京都市京セラ美術館、京都文化博物館など…

当時の息吹をそのままに、誰もが無料でその雰囲気を楽しめる施設が多いのも特徴です。

京都府庁旧本館
明治37(1904)年竣工
重要文化財
(写真:ジュンPさま)

明治から昭和初期にかけて建てられたこれらの建物の多くは、外観はもとより内装にも随所にこだわりや職人の手仕事が生きています。

これまでにない建物と空間を作ろうとした当時の人々の思いが伝わってきます。

京都市京セラ美術館
昭和8(1933)年竣工
京都市京セラ美術館の内部

京都のまちのシンボルとして、独特の魅力ある景観を作っているこうした建築物の、凝った意匠や装飾などは一見無駄にも思えます。

今ならお金の無駄遣いと非難されるのでしょう。
でも、果たしてそれは本当に無駄なんだろうか…

京都市役所本庁舎
昭和2(1927)年竣工

今、多くの公共空間が、“冷たいもの”に感じます。

時には話題になるような、ステキなデザインの建築物もありますが、なんだか違う。
いつ来ても心が温かくなる。
そんな、安らぎや愛着を感じにくいのです。

こうした建物が50年、100年先に残ることは無いでしょう。

大量の廃棄物が生み出され、そして資源が使われる。

この先の未来が不安です。

京都文化博物館別館(外観)
明治39(1906)年竣工
重要文化財
京都文化博物館別館(内部)

100年建築と今のものでは何が違うのか。
それは見た目の豪華さだけではないような気がします。

文化の軸と経済の軸。

このバランスが大切な気がします。

経済性を追求することが本当に、
人を幸せにしてきたのだろうか。

合理性だけを飲み込んで、
人は豊かに生きることができるのだろうか。


今再び、100年受け継がれてきた建築物のような、技巧を凝らしたものをつくることはできないでしょう。

でも、誰もが使える施設だからこそ、文化的であってほしい。

今の時代ならではの知恵と工夫で、長く使って後に残るものを、使う人々に思いを馳せた建築をしてほしい。

そして、みんなが誇りに思い、そして愛される、その街のシンボルであってほしい。

100年建築に宿り続ける文化や先人の情熱に触れるたび、
失ってはいけないものが何なのか、
私たちは見直す時期にいるように思えてなりません。

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