最近読んだ本たち(バタバタ、でもまったりな9月分)
なに、もう10月なの。やだこわい、なにそれ。
最近、そういうことばかり呟いている。だって、あと3ヶ月で今年が終わるなんて、どういうことなのか理解しがたい。理解したくない。
年始の抱負は立てない派の私でも、今年のお正月には「いい年にするぞ」なんて意気込んだ。
はたしていい年になっているのかどうか確信が持てないままに、10月。おそろしいことだと思う。月日って残酷だ。
『小津安二郎 老いの流儀』 米谷紳之介
今も国内外で評価の高い映画たちをつくった小津安二郎の名言と生きるスタイルに焦点を当てた本。
大学時代、小津安二郎好きの知人の影響で、小津映画をいくつか観た。原節子の凛とした美しさに息をのんだのを覚えている。内側から発光するような頬、理知的かつ意思を感じさせる眼差し、きりりとした濃い眉。そして、「あたし、年取らないことに決めてますから」の台詞。かかか、かっこよすぎるやろー、と痺れた。
小津ほど自分の流儀にこだわる人も少ないだろう。本来の「拘泥」というニュアンスをこめて。だからこそ素晴らしい映画をたくさんつくれたのだろうけれど、小津が上司だったら嫌かもしれないと思う。でも魅力的。偉人の姿はいつもそう。相反する二つのイメージが共存する。
この本のなかには「映画作家」という言葉が出てくる。小津は、映画監督というよりは映画作家と呼ぶに相応しい人なんだろうなあ、と思わず唸った。
読み終えたあと「よし、私も自分のスタイルを貫き、かっこよく『いい顔』で生きるぞ」と思える一冊。
『欲望する「ことば」 社会記号とマーケティング』 嶋浩一郎 松井剛
「女子力」「加齢臭」「草食男子」。かつては辞書に載っていなかった新語が市民権を得て、社会のなかで記号的な役割を果たすようになっていく。その仕組みについて書かれた一冊。
嶋氏による実務面からの分析と、松井氏による学術的考察が交互に繰り広げられる構成で、ストレスなく社会記号論に入っていけた。
「ことば」と企画について考えたかったので、今の時期に読めてよかった。
『色川武大・阿佐田哲也 ベスト・エッセイ』 色川武大・阿佐田哲也 編=大庭萱明
恥を忍んで白状すると、色川武大(阿佐田哲也)の作品は読んだことがなかった。なので、「なんかさぁ、アウトローなんでしょ?」という、壮大な先入観を抱いていた。
まずはエッセイから、とこの本を手に取ったら、すごくいい。にやり、ふうーん、じーん。電車の中で口角の動きが止まらなくなり、あやうく不審人物化するところだった。いや、もうすでに怪しさ満点だったか。
戦争も、戦後の混乱もさらっと切り捨てたかと思えば、「麻雀は戦争だ」と言ってのける。場数を踏んだ元・博徒ならではの軽妙な文章に惹きつけられた。
作家・有馬頼義氏との交流を記したエッセイには、胸の内がぐぐぐっと詰まる感覚があった。睡眠薬依存と創作のあいだで苦しむ有馬氏の姿と、それを見守った色川氏の熱くこまやかな情。読んでいてじわっと涙がこみあげた。
豪胆さと繊細さが同居する世界は、くらくらするくらい面白い。
『企画は、ひと言』 石田章洋
ヒット番組をたくさん生み出した放送作家が、いい企画づくりのコツを教えてくれるとなったら、読みますよね? ……と自分に尋ねながら、手に取った一冊。そのままレジへゴー。
企画の考え方から伝え方(ひと言で!)、ネタの発想法まで、企画立てにまつわる実践的な内容で、一気読みした。
長い説明文を添えがちな私には響く一冊だった。これを読んで以来、「で、ひと言にすると?」といつも考えている。
『アンリ・マティス作品集 諸芸術のレッスン』 米田尚輝
マティスのピンクと緑が好きで、画集が一冊欲しいと思っていた。ようやく手に入れ、仕事のあいまに、寝る前にと、ちょこちょこ眺めてはマティスワールドに浸った。
絵画に疎い私がすーっと色彩の世界へと入っていけたのは、読みごたえがありながらもわかりやすい解説のおかげだ。構図や色づかい、マティスが影響を受けたと思われるものについて、平易な言葉で、でも深く語られている。
これで3,740円だなんて、いいんでしょうか。
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今月は、あわただしかったものの、落ち着いて本を読める時間も少しあって、わりと公私のバランスよく過ごせたような気がする。ほんとうは小説も読みたかった。
みなさんのおすすめ小説についての記事を読んでいると、私もどうしても読みたくなり、ついポチッと購入する。今月もいろいろ買ったので、積読にしてしまわないように心がけたい。
10月はなにを読もうかな。
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