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入学しちゃったあの子たち

うかうかしているあいだに、双子の娘たちが小学一年生になってしまった。春休みで仕事が進めにくいとわたしがこぼしていたのもつかの間だった。気づけば入学式もつつがなく終えてしまった。

初登校日の朝、ランドセルを背負った彼女たちと通学路を歩いていると、近所の方が声をかけてくれた。おばあちゃまとお呼びしたい、チャーミングな女性である。

「あらまあ、もう小学校なん。ついこの前までベビーカーに乗ってたのにねえ」

わたしもそう思う。彼女たちを産んだのが昨日のように感じることがある。ちなみに我が家の双子ベビーカーは、おばあちゃまの隣家に住むご家族へともらわれていった。

なにもかも大人にとっては「いつの間にか」だ。娘たちを育ててきた約7年はあっという間だったし、今だって瞬く間に毎日が過ぎていく。よその子の成長なんて、もっと早く感じられるだろう。

通学路の途中に一つだけ、横断歩道がある。わたしが送るのはそこまでだ。入学してしばらくは横断歩道の向こう側に、先生たちが待っていてくれる。手前の歩道には、常に自治会の方とPTA役員が立っていてくれる。

娘たちが「ママ、ばいばーい」と言って、横断歩道を渡りはじめた。しかし、なぜかやや斜めに進んでいくのが気になった。

「まっすぐよ! まっすぐ行ってね!」

思わずわたしが声をかけたら、娘たちはこっちを振り向いて横断歩道の真ん中で止まってしまった。

PTA役員の方に「はい、行って行って!」と促されてあわてて渡り終えた彼女たち。今度こそ「ママ、行ってきまーす!」と声を張り上げながら去っていった。ああ、行っちゃった。

自治会役員と思われる、年配の男性が笑いながらわたしに話しかける。

「横断歩道を渡ってる途中で話しかけられたから、びっくりしたんやな。でも、だいじょうぶ。わしらも見てるし、子どもも案外しっかりしてるもんやし」

そうか、「だいじょうぶ」かあ。わたしが今まで担ってきた役目を、少しずつ手ばなす時期に来ているのだろうと思った。

ほんのりとしたさびしさに包まれて帰り道を歩いていると、我が家の双子ベビーカーをもらってくれたお宅に差しかかった。うちの娘たちがそれに乗っていた頃を思い出しながら、通り過ぎた。

あの子たち、入学しちゃった。ふうふう言いながら育児にてんてこまいしていた日々がどんどん遠ざかっていく。

これからはこれからでまた別の大変さがあるのだろうけれど、ひとまずあの苦しくも輝かしい時代とはさよならだ。

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