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登山リュックにさよなら

子どもの成長は早い。私が老いるのも、たぶん同じように早い。だからこそ、子育てを楽しみたいと思った話。

娘たちを連れて、水族館に行った。大阪で水族館といえば「海遊館」。南港の再開発地域にオープンしてから30年あまり。世界最大級の規模を誇る水族館だ。

入館するとまずエスカレーターで8階へ。そこから巨大水槽に囲まれた通路を歩いて下りる仕組みになっている。海のなかをゆったりと散歩しているような気分になれる、癒しの空間である。

特に、ジンベエザメのいるエリアが大人気だ。ちょうど餌やりの時間にあたった私たち一家は、その様子をまぢかで見ることができた。

飼育員さんが餌をあたりにまく。ジンベエザメは、海くんか遊ちゃんという名前だと思われる。彼または彼女は、大きな口を開け、餌をズババババーッと周囲の海水もろとも吸い込んだ。

なんともダイナミックで、圧巻。娘たちも大喜びだった。

娘たちの歩みに合わせ、順路をくるりくるりと下っていきながら、私は肩にかけたバッグを意識していた。こんな小さな、おしゃれさ重視のバッグでお出かけできる日が来ようとは!

もうすぐ5歳になる我が家の娘たち。双子ということもあり、彼女たちが赤ちゃんの頃、私はいつも大きなリュックとともに外出しなければならなかった。「登山でもするの?」と聞きたくなるような、大容量のもの。

オムツや哺乳瓶、ミルクはもちろん、ウエットティッシュや除菌シート、マルチに使える敷きものなども入れていた。万が一にそなえて、着替えも2セット。小柄な私がそんなリュックを背負っていたものだから、友人に心配されたこともある。

ふたりが歩けるようになり、オムツを卒業してからも、リュック生活は続いた。両手が空いていないと、いざというときに困るからだ。

それがどうだろう。

気がつけば華奢なストラップの、小型のショルダーバッグを肩に引っかけるだけで外出できるようになっている。念のため、車のなかには荷物をたくさん準備しているのだけれど、私の背中はガラ空きだ。

片手をふさいでしまうハンドバッグはまだ持てない。でも、そんなエレガントなものをふたたび使えるようになる日も遠くないのだろう。手をつながなくても、娘たちは私のそばをしっかり歩いてくれる。

その後、海遊館のなかのカフェで休憩。娘たちは、ソフトクリームとパンケーキを食べた。「ママにちょっとあげるね」と言ったり、お互いのお皿の中身を分けあったりと、存分にスイーツタイムを楽しんでいたふたり。

これもまた成長だ。赤ちゃんの頃は、彼女たちがベビーカーのなかで眠っている隙を狙ってカフェに入り、アイスコーヒーやカフェオレを一気飲みしていたのに! あ、ホットドリンクはダメなのです。娘たちが起きて泣いてしまったとき、すぐに飲み終えられないので。

とにかく感慨深く、私はずっとふたりの顔を眺めていた。むちむちだった頬が少し細くなり、顔つきがほんのり大人びている。

きっと彼女たちはあっという間に大人になる。あっという間に私の手から離れていく。

登山リュックみたいなバッグとのお別れは、育児の時間がひとつ短くなったことを示している。私と娘たちのあいだに「育児」という言葉が横たわるのも、思っているよりわずかな期間なのだろう。

「子育て、楽しまないとね。『いのち短し、恋せよ乙女』みたいなね」

帰りの車中、私がそう言うと、夫は「乙女って! ずいぶん図々しいですね」と笑った。けれど、感慨にひたるアラフォーは、そんなことでは怒らない。

娘たちの可愛らしさも、自分に降りかかる苦しさもイライラもひっくるめて、育児の「今」をめいっぱい味わおう。

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