見出し画像

パプリカを見る「目」

パプリカが旬だ。

前回の桃に続き、またもや食べ物の話ですみません。食いしん坊ゆえどうしても。

料理をするとき、重宝する食材のひとつがパプリカ。色鮮やかで、料理の見ばえをよくしてくれる。華やかな食卓はやはり嬉しい。もちろん、味も好きだ。優しい甘みに、舌だけでなく、心も喜ぶ。食感も楽しい。

何度か書いているのだけれど、私が料理をするようになってから、それほど長い年月は経っていない。本格的に包丁を使うようになったのは、娘たちを産んでからだ。娘たちは今夏で5歳。私の料理歴もやっと5年。

料理を始めたばかりの頃、パプリカと豚肉の炒めものをつくろうとした。レシピによると、オイスターソースを効かせた、しっかりめの味。夫の好みだろうと考えた。

スーパーで赤と黄のパプリカを買ってきて、いざ調理。

しかし、包丁を構えた私はそのまま固まってしまった。あれ? 「パプリカの細切り」って、どう切ればいいの?

半分にしてから種を取り、まな板に置いたパプリカ。ななめに切る? 縦にまっすぐ切るとものすごく長くなるけど? 横方向に切る?

大好きなカフェのランチについてくるサラダには、いつも薄切りのパプリカが入っていたじゃないか。あれはどういう具合に切ってあった?!

…思い出せない。融通の利かない性格なので、困り果てた。

結局、レシピサイトの動画に助けを求めた。そこには、鮮やかな包丁さばきでパプリカをななめに切る様子が映っていた。おお、ななめね!

こうして、パプリカと豚肉の炒めものを完成させた。オイスターソースの風味が、パプリカと豚肉の甘みを引き立てていた。少しだけ入れた玉ねぎのおかげで、味わいも豊かだ。うん、美味しい。

動画を見るまで、私の頭のなかには正解が用意されていなかった。「パプリカはどう切るべきか?」の解が。切り方はいくつもあるだろうし、どんな切り方でもいいよ、とも言われそうだけれど、初心者はだいたい、些細なことでつまずくものだと思う。

それまでの私は、自分が調理することを前提にして、食材を見ていなかった。料理全般をあきらめていた頃、私はつねに「食べる人」。つくられた料理を味わうことに専念する立場だった。

「このお料理、美味しいな」と感激したことはたくさんあった。けれど、自分でつくってみたいとは、思ったことがなかった。お気に入りのカフェのサラダだって「ああ、おいし」とパクつくのみ。パプリカの切り方になんて目もくれなかった。

お客の目と、料理する人の目は違うのだ、と思った。それまでの私にあったのは、味わうのが専門の「お客の目」だけ。

私たちは、視界に入るたくさんの情報を無意識のうちに取捨選択しているそうだ。一人ひとりが「見たい」と思うものを見ている。パプリカの切り方は、意識して見ていないと頭に取り込まれない。

自分で包丁を握ってみて初めて、私は「料理する人の目」を経験できた。なんでも一度はやってみるものだな、と思う。実践してみないとわからないことは多い。

今でも、パプリカを手に取ると、途方に暮れたあの瞬間を思い出す。「そっちの目」でも見てみなきゃね、と思うのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?