【Web小説】『霊が視える仕組みはスマホゲームと似てる?』第2話
Web小説「霊が視える仕組みはスマホゲームと似てる?」
※音あり(音声「VOICEVOX:ずんだもん」)
電車は日本各地で見かけるけど、一般道の上を走る路面電車はなかなか見ない。
そんな珍しいものが東京で走っていると知り、出かけたついでに乗ってみた。
いつも使っている電車と違って路面電車から見る景色は面白い。
乗用車やバスと同じように一般道を走るからスピードはあまり出てなくて、のんびり都市風景を見ることができる。
また車内も興味深い。
電車は一車両のサイズが小さく、せまい車内の両側に座席があって吊り革が下がっている。まるで公共のバスのような造りで、最新設備がなさげなところはノスタルジックで雰囲気がいい。
たまたまなのか、もともとなのか乗客は少ない。
いつも利用する電車は人が多くてざわざわしており、せわしく行き交っているから正反対だ。
駅に到着するたびに乗客は降りていく。
どんどん人が減っていくので人の目を気にする必要がなくなり、遠慮なく車両内を見回したり車窓からの街並みを眺めることができて楽しい。このまま最終駅まで乗車した。
終点に着くと車両内にいた乗客は全員降りていった。
乗客がいなくなったのを確認して車両から降り、人がいなくなったホームでスマートフォンを取りだした。
初めて路面電車に乗った思い出に、車両の写真を撮っておこうと、スマートフォンのカメラを起動した。
構えて画面に車両を映すと、車両内に人の姿が映っていた。
車両の向こう席に、青い半袖のTシャツと青いハーフパンツ姿の少し太った人がいて、電車が発車するのを待っているかのようにシートに座っている。
無断で撮影するわけにはいかないので、車両の写真を撮るのは諦めて、スマートフォンをしまい、車両に背を向けてホームの出口へと向かった。
少しして気づいた。
あれ? 車両から降りるとき、中に誰もいないのを確認したよな。
自分が降りたあとも、ホームには誰もいなかったよな。
ホームを歩きながら矛盾に気づいて困惑したけど、わざわざ戻って車両内を確認するまではないかと思い、振り返ることなくホームを出た――。
✿
「ねっ? まさにARっぽい妖でしょ。
誰もいないことを確認したあと、スマートフォンのカメラで視たときに出現したんだよ」
体験を語り終えたコオロギが俺のほうを向いた。
「…………」
「どうしたの、紫桃。なんでだまっているの?
今回のは怖くないでしょ?」
「……怖いよ」
「ほん? どこが~?」
「スマホで写真が撮れなくなるじゃないかっ」
コオロギはぶはっとふき出して楽しそうに笑い始めたけど、俺には笑えない出来事だ。
俺はカメラを趣味としていて一眼レフでよく写真を撮る。でも大きな一眼レフは荷物になるから平日はスマホを使っている。
スマホで街中の写真を撮ろうとしたときに、妖が画面に映りこんでいたりなんかしたら……。
いやすぎる! 怖すぎるわ!!
想像してぞくぞくしていると、のんきな調子でコオロギは言ってきた。
「ヒトだと思ったから写真は撮らなかったけど、撮っていたら面白かったかも」
「よせよ、幽霊を撮るなんて気持ちが悪いじゃないか!」
「幽霊? えぇ~? あれは猫じゃないの?」
「なんで猫なんだよっ!」
「動物が人を化かすって言うでしょ?
東京では狐は見たことがないから、身近にいる猫が化けたんじゃない?」
「そんなわけあるかぁっ!!」
「ほ―――ん。
じゃあ、ハクビシンか狸かな?」
「えっ!? なんでハクビシンが出てくるんだ?」
「都内でハクビシンが目撃されていて、自分も見たことがある」
「そうじゃなくて!
狐や狸が人を化かす昔話は聞いたことがあるけど、ハクビシンも化けるのか!?」
「猫に狐、狸が化けるんなら、ハクビシンも化けていいんじゃない?」
「…………いや、待て。そもそもおかしい。
コオロギには幽霊という選択肢はないのか?」
俺は趣味でホラー系の小説を書いている。
小説はコオロギの体験談をもとにしてて、リアリティーをもたせるために聞いた話は大きく変えないよう心がけている。
コオロギの体験してきたことは、俺だとまぎれもなく恐怖体験となる。
それなのに……
コオロギだとなんでコメディーになるんだよおぉぉ――っ!
いい体験談を手に入れたというのに、またしてもホラーが書けない――!
■『霊が視える仕組みはスマホゲームと似てる?』了■
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
【小説】『霊が視える仕組みはスマホゲームと似てる?』
(全2話)
第1話(1901字)
https://note.com/coinxcastle/n/n27a3b0979d0b
第2話(1772字)
https://note.com/coinxcastle/n/nf8938f74a953
※カクヨムに投稿していた物語を推敲し掲載しています
カクヨム『ホラーが書けない』
https://kakuyomu.jp/works/16816452220402346436
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