7人の女侍 10話 ”中2病エロ女の憂い”
私が職場で一緒に働く女性事務員7名。
百花繚乱、ならよかったのですが、これがなかなかの個性派揃い。
各々が牽制しあいながらなんとかバランスが取れているようで、横から覗きこんでみると、崩れる直前のジェンガのように隙間だらけです。
前回までの記事で4人を紹介しました。
今回はまたもう1名紹介しますが、セクシャル表現を含むため、苦手な方は迂回ください。
前回までの記事に書いた、私語が大迷惑の美魔女・マカナの席の後ろには、その迷惑に加担するおしゃべり女性がいらっしゃいます。
(マカナ編はこちら:)
今回の主人公となるその女性はもうアラフィフですが、見た目は年齢よりずっと若く見えます。
しかし1番の魅力を挙げるのなら、間違いなくその声です。
基本は、女優の伊藤沙莉のようなハスキーボイス。
酒好きなので、その声は酒やけか?と思えてきますが、ハスキーなだけでなく、艶っぽい声。
早い話が、アノときの声が最も想像しやすく、いけない気分にさせられてしまう声なのです。
会社で、年増の女性相手になんて妄想をしているのだお前は、と真面目な淑女諸君は思われたでしょうか。
しかし彼女はなんでもあけすけに話をするオープンな性格で、
「旦那に毎晩求めらる」
「生でするから生理こないとビビる」
なんて話を自分からするものだから、自称「真面目にエロい」、"マジエロ"な私が、そんな想像をしてしまうのは自然の摂理、ということにしてください。
さて、これまで紹介してきた女性たちには強引にニックネームを付けてきました。
彼女を何に例えようか迷いますが、これといった顔の特徴がありません。
このあと説明するような、彼女のあっけらかんとしたキャラクターともあいまって、仮面でセクシーな、ヤッターマンのドロンジョ様を連想しました。
ドロンジョと呼んではあまりにそのままだし、タツノコプロから取って「タツコ」としましょう。
タツコはいいお歳ですが、一言で言えば「中二病」のような人です。
彼女は周囲に対して、自分が「いい加減」で、「仕事に不真面目」であり、「てきとーに生きている」ということを、殊更にアピールします。
「会社には遊びに来てるの」
彼女はそう言います。
なにせ中2なので、不真面目がカッコいいと思っているのでしょう。
たいていの人は、そんなふうに斜に構えた恥ずかしい時期は乗り越えているはずなのですが、彼女は思春期真っ只中のようです。
確かに言う通り、仕事中も堂々とスマホをいじったり、ブログを見たりして遊んでばかりです。
それに飽きたら、後ろのマカナと談笑をはじめます。
何を話しているのかと耳を傾けると、愛犬と娘の話題が多めです。
ハッピーだかラッキーだかいう愛犬を娘が溺愛していて、娘が愛犬と一緒にああしたこうしたなどといった話です。
ああ、なんでしょう、菅総理が昔スポーツ万能だった話と同じくらい、まったく興味が湧きません。
何が面白いのか、ヒャハハハッという下品な笑い声が響き渡ります。
マカナと同様、真面目に仕事する女性たちは、タツコのこういった勤務態度が面白いはずがありません。
「会社に遊びに来ているなんて、社会人として信じられない」と私に愚痴る人もいます。至極まっとうな意見です。
それでも彼女が罰を受けずに会社で大きな顔ができるのは、実は7人の女性事務員の中で、仕事の能力がダントツに高いためです。
しかも、ゼネコンの現場管理者など、オラオラ系の怖いオッサンを相手にする特殊な部門に属していますが、このような相手とうまくやれる性格は天性のものです。
タツコは「こんな仕事どうでもいーし」なんて言いながらも、実際は正確丁寧に仕事をこなし、例えミスがあっても、持ち前のセクスィーヴォイスで相手を丸め込むことができます。
つまり我が社には、タツコに代われる者がいないのです。
彼女がそんな態度となった背景を説明しましょう。
タツコはこの地方唯一の大企業で勤務していました。
収入も高く、仕事内容も今よりずっと高度だったことでしょう。
しかし企業の業績低迷で人員整理の憂き目に遭い、この会社に来たのです。
そうしたら、給料は半分、社員教育制度もなく女性社員は自分より能力が劣る人ばかりで、でも評価は一緒。
かといって、旦那は以前の会社の社員であるため変わらず高給取りで、がんばってまで稼がなければいけないほど生活に困っていない。
それで、今の勤務態度になってしまったと考えられます。
彼女を「中二病」と表現しました。
家で勉強しているくせに「勉強なんかやる気ないし~」などと言う感じ。
タツコの仕事に対しての態度そのものです。
また、「ミスチルなんてダサいわ。やっぱブリティッシュロックでしょ」などと通ぶる感じ。
自分はわかってる感を出し、会社の何にでも「まずは批判」です。
かといって特に代案もないので、欠点を指摘するだけのイタい人になっています。
しかし、表面では強がることができても、社会人として、母として生きる限り、現実から逃げることはできません。
そんなタツコがたまに見せる、現実と理想のせめぎ合いがもたらす悲しげな表情に、私は気付いています。
彼女は料理が苦手で、子どもや家族が手料理を食べてくれない、と明るく語ります。
「誰も食べないから私だけ3日連続カレーよ。それでも余るから、捨てたわ」
しかしその彼女の声には、いつもと違う憂いの周波数が混じります。
また、子どもが素行不良で勉強をしないから、入れる高校ならどこでもいーや、などと笑い飛ばしています。
しかし、同僚の子どもは塾に通ってまで皆進学校に入学していて、「高校ならどこでも良い」なんて意見には誰も頷いてくれないことに気づいています。
こういった、プライドを保つための無理な強がりが、言葉の端々からにじみ出まくっていることがあります。
仕事中の私語は迷惑であり、それが熟成物質のエチレンガスのように他の社員も腐らせては困るので、いつかなんとかしなければいけません。
しかし、私はなぜかタツコのことが憎めないのです。
人生があまり思い通りに行っていない。自己肯定感がほしい。
でもそれがうまく表現できない。
そんな感じを受けるのです。
そう考えると、「旦那に毎晩」などという秘め事をいちいち周りに言うのも、自己承認欲求からでしょう。
私は、タツコの能力を活用し、仕事にやりがいをもたせて、適正な報酬を与え、正しく社会人として彼女が承認されるように仕向けたい。
そう思うのです。
それを目指し、タツコに少し高度な仕事をお願いすると、彼女はこう言います。
「なんだかんだで、頼まれたら、ちゃんとやるんだけどね」
タツコのこの言葉、本当の自分をちゃんと誰かにわかってほしい、認めてほしい、そう言っているかのように感じるのです。
タツコ編〜完
続けてショウコ編:
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