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”安楽死”という選択は、間違いで正しいのかもしれない【ドクターデスの遺産×Beast】

※解禁前キャスト含め全ネタバレしておりますのでご注意ください

“死を希望した人を痛みなく殺して差し上げる”

実在の医師をもとにしたミステリー小説が原作、公開初日に3年半ぶりに映画館で映画を見てきた。

情報解禁時点で綾野剛と[Alexandros]という推しと推しのコラボ、そして好きな女優の1人である北川景子、ジャンルは好みのサスペンス/ミステリー、これだけでも盛り沢山だ。

この記事ではあらすじとストーリー、主題歌の考察と重要性、最後に私がこの映画の感想と、映画を見て考えた正解のない安楽死について書こうと思う。

ドクターデスの遺産 ーあらすじー

“父が医者に殺された“という子どもからの通報を受けて、「ドクターデス」の事件は発覚する。

犬養(綾野剛)は案外間抜けだった。
こどもを追いかけて走って転ぶし、ムカついたらキレる。「MIU404」の伊吹で瞬足キャラだったから嘘だろ...!?と思ってしまったが、これは伊吹でなく犬養だった。そんな犬養には腎臓病を患っている11歳の娘・沙耶香がいる。現在ドナーの提供者を探していて病院に預けられている。母親はすでに亡くなってしまったため、仕事の合間を縫って沙耶香が入院している病院に会いに来ている。

タッグを組んでいる高千穂(北川景子)はパンツスーツを着こなすキャリアウーマン。運転はいつも高千穂、大きなバイクも乗りこなし、サバサバしていて男っぽい性格だ。

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警察に通報したのはこどもの名は馬籠大地君、父の葬式時に母と大地くんに接触、母のいないところで主治医ではない医師がいたと大地君が犬養に話す。そのまま大地の母に事情聴取をすると、ヤブ医者の名前を「ドクターデス」と明かした。

捜査を進めるとドクターデスの正体は医師と看護師の二人組で、ネットの裏掲示板で安楽死を希望する人を募集、高濃度の薬物を投入し心不全を起こさせ、眠るように息を引き取らせるという手法で何人も殺してきたという。

ネットで安楽死を依頼した人を片っ端から突き止め、上司の指示により犯人の似顔絵を作成するが、依頼人はドクターデスを庇っていたのか、出来上がった似顔絵は全員違う顔。
だが昔似顔絵を担当していた高千穂の動きにより署内で似顔絵を再作成すると、ある依頼人がこの顔がドクターデスに間違いないと認め、確実な証拠を掴む。

ドクターデスだと出てきたのは田中一郎(柄本明/シークレットキャスト)と名乗るホームレスおじいちゃんヤブ医者。声だけでその医者役は柄本明さんだと分かった。

同時に捜査を進める犬養はとある依頼人に話を聞いてる際、安楽死する直前の被害者(安楽死者)の生前の映像見ていると、動画を撮影していた人物をガラス越しで発見、その人物はドクターデスの看護師だった。

看護師の名は町田市在住の雛森めぐみ(木村佳乃/シークレットキャスト)という38歳の女性だった。ボサボサの髪でオーラはなく、服もお粗末、全体的に水簿らしい格好だった。この落ちぶれた容姿ではあの木村佳乃だなんて全く分からなかった。

犬養と高千穂は雛森を事情聴取、その際腎臓病を患っている娘がいることを打ち明ける。犬養は雛森に同情を得ようとしたが犬養は雛森が本気で正義だと思い込んでいた”安楽死”を真っ向から否定、これが雛森の引き金になってしまった。

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直後雛森を釈放するが、その事態は悪い方向へと向かう。

センター分けのボブ、ハッキリとしたメイク、近寄り難い強めのオーラ、抜群のスタイルで白衣を着こなす「石川」と名乗った女性のカウンセラーが沙耶香が入院している病院に乗り込み接触する。その話の内容がこどもが聞くには辛辣なものであっだ。

「あなたはドナーを待っている、ということは誰かの死を望んでいる」
「父にとって病気であるあなたがお荷物」
「あなたがいなくなれば、父は楽になる」

沙耶香はパパが大好きだ。”自分が死んでしまえば大好きなパパは楽になる…”

石川の言葉を真に受けてしまった沙耶香は、ドクターデスの掲示板に書き込んでしまった。

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事件は一気に加速。

沙耶香はドクターデスとの約束の日、待ち合わせの駐車場にくると、直前になって泣きながら犬養に電話をかけた。

「ごめんなさい、私がいなくなればパパが楽になると思ってドクターデスに頼んじゃった。だけど、やっぱり生きたい」

だが石川は娘の言い分を聞かず拉致監禁を敢行、石川が沙耶香のスマホで犬養に電話をかける。犬養も最愛の娘からの電話を取る。

「お久しぶりです、雛森です」

カウンセラーの「石川」の正体は“雛森めぐみ”、同時に「ドクターデス」の真の正体も“雛森めぐみ”だった。

自分の正義であった”安楽死”を真っ向から否定した犬養を絶望させようと、犬養の娘である沙耶香を安楽死どころか殺害しようとしたのだ。

雛森は「家族の思い出の場所で最期を迎えたい」というヒントを最後に電話を切った。

犬養は勝手に高千穂の車で1人、犬養の家族の思い出の場所に向かった。

場所は河口湖のコテージ、その中にいたのはベッドで眠りにつく沙耶香と、白衣をきたドクターデスこと雛森めぐみ。

美人医師に変貌した雛森はこういった。「私は救世主」だと。

犬養は娘を助けようとしたが背後から雛森に薬を注入される。続けて雛森に麻薬を注入されそうになったところ自ら阻止し乱闘するが犬養の意識が次第に朦朧とし、バイクで飛ばしてきた高千穂が危機一髪のところで到着し、雛森の現行犯逮捕、全員一命を取り留めた。

最後は無事犬養も沙耶香も意識が戻り、雛森は拉致監禁の疑いで逮捕された。

主題歌は「Beast」こそ正解だった

エンドロールで「Beast」のイントロのリフが流れた瞬間、ロックバンドならではの粗いサウンドが映画館の音響に似合っていた上に、流れるタイミングがあまりにも完璧で、事前に聴き込んでいたにも関わらず、全身が奮い立たせられるようにバッキバキに痺れた。

楽曲の話をすると「Beast」はファン待望のロックナンバーで、ギターやベースはドロップDチューニングといい通常設定している音(レギュラーチューニングと呼ぶ)よりも重めに設定している。


「ドクターデスの遺産」における「Beast」

「Beast」は日本語で獣(けもの)。

1人の獣、犬養。

スーツはオールブラックで髭を生やした渋いルックス、暇さえあればタバコを蒸すワイルドな風貌の犬養にはぴったりだ。


もう1人の獣、雛森めぐみ。

”化の皮剥がせばお互い獣”という歌詞、「ドクターデスの遺産」においてお互いの相手はいないが、雛森こそ真の獣だった。
初回の事情聴取は「アルバイトに応募し田中(柄本明)に頼まれてやっていただけでラベリングもされておらずどんな薬なのかは知らなかった」と供述し被害者面をしていたが、その後犬養の言動をきっかけに堂々とドクターデスに変貌。
犬養を薬殺しそうになったた表情と興奮はサイコパスそのもの、高千穂に拳銃を向けられても、”今度彼氏と結婚するの”と同じようなテンションで、殺人の興奮が収まらず、奇妙な笑みを高千穂に向けていた。


そしてストーリーと曲構成の点でもリンクしている。

シークレットキャストが柄本明さんと木村佳乃さんという実力人気共に申し分ない大物俳優、雛森がドクターデスでありカウンセラー石川であったという一気に加速した物語の起承転結と、「Beast」最大の特徴であるアウトロが2段階構成という曲構成が「ドクターデス」と重なる。


もしも主題歌がロックではなくバラードだったら

今回[Alexandros]が主題歌を担当するにあたり、ロックとバラードの2パターン用意したそうだ。

今回の安楽死は薬物を注射し死に至らせるものである。
なので銃撃戦や刺殺で血塗れになるグロテスクなシーンがほとんどない。あるとすれば注射の血ぐらいであろうか。

そう言ったシーンが皆無だからこそ、注射一本で殺人が可能だという”血を見せずにして死なすことができる”というリアリティが強くなるのだ。

もしシックなバラード調が選ばれていたら、ただただ安楽死を強く考えさせられる重たい映画になってしまったと思う。

今回のような疾走感のあるロックナンバーにしたからこそ、実在したというリアリティが楽曲のソリッドさで昇華され”カッコよかった、面白かった”とライトな余韻が残ったのだと思う。

さすがは映画好きの川上洋平である。


主題歌は[Alexandros]こそ正解だった

カムバック!Ayanosandros

解禁当初から大きな話題となったdocomoのCM以来4年ぶりにタッグを組んだ綾野剛と[Alexandros]。
以前綾野剛がインスタで“またドロスと共演したい“と言っていたが、映画の制作のタイミングから見て割と早く再共演が実現した形となった。

劇中、雛森は町田市に住んでいた。[Alexandros]の地元は相模原、ちなみに初めて[Champagne](改名前のバンド名)がライブを行ったのは名ライブハウス「町田act」だ。

劇中の舞台と主題歌アーティストの地元が一緒。狙ったのか、たまたまなのかは定かではないが、これは想定外の非常に興味深い共通項である。


[Alexnadros]はどの曲でも”生きろ”と言っている

[Alexandros]の歌には”生きること”に焦点が置かれている歌詞が多い。

RunAway「生きているそのうちは 死んでたまるか」
city「自らの言葉と身体で生きていけ」
starrrrrrr「その続きを今 生き抜いていけ」
?(クエスチョンマーク)「それを知るために死ぬまで続けたいんです」
Kick&Spin「粋も甘いも全部飲んで 生きていく」

今回は日本詞をピックアップしたが、はっきり生きることを歌っていなくても前向きな歌詞がとても多い。そういえばピックアップしたのはどれも代表曲でライブでも欠かせない曲ばっかりだ。

コアなファンだから深読みしているせいもあるが、[Alexandros]を主題歌に抜擢したことは遠回しに「安楽死なんて選ばず最後まで生きろ」と言われているような気もする。


ドクターデスは”正義の救世主”なのか”ただの快楽殺人犯”なのか

犯人をシークレットキャストとして伏せた、これは完全にやられた。

悪役が隠されていただけでこんなにも面白くなるなんてドラマ「MIU404」で知ったはずなのに、映画でもされるなんて思ってもいなかった。

唯一俳優で好きな綾野剛でも、どの角度からでもメロメロになってしまう北川景子の美貌でも、それ以上に木村佳乃さんの怪演っぷりに脱帽した。

いくら芝居だとしても人って何にでもなろうと思えばなれるのだと思ってしまった。生きることをあきらめれば覇気はなくなる、綺麗になろうと思えばなれる、あの大女優・木村佳乃だとしても。

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映画の感想としてはキャストの演技も主題歌も良かったが、ドクターデスである雛森を逮捕して終了してしまったため、犬養は引き続き”安楽死”と雛森を許させないのか、被害者がいないドクターデスの事件を追っていくうちに”安楽死”は正義なのか悪なのか考えていた高千穂も、逮捕された雛森は”安楽死”を反省しているのかそれとも続けようと思っているのか、雛森を逮捕し終えた後の彼らのはっきりとした意見も答えが出ずに終わってしまい、”ドクターデスを追い終えて出た安楽死に対する答え”という核心的なところがぽっかり抜けていて、ただの”安楽死殺人犯を逮捕した”だけの映画になってしまっていたことは否めない。犬養であれ高千穂であれ、その答えは原作を読めば分かるかもしれないが、映画に盛り込んで欲しかったことの方が強い。


安楽死は賛成派

最大のテーマであった"安楽死"に対して答えの出なかった劇中だが、最後に私が「ドクターデスの遺産」を見て考えた”安楽死”について述べて終わろうと思う。

私は”安楽死”に関して賛成派である。

雛森(木村佳乃)は”生きる権利があるなら死ぬ権利もある”というようなことを言っていた。

私もそう思うが、例え今後生きるのが苦しくて痛くなっても、仮にドクターデスが現存していたら絶対にドクターデスには頼まない。

私が所望する”安楽死”とは、自分が生き切った死だ。

私の最期を見ず知らずの人間に奪われるなら、何年かかっても自分の生命力が限界を突破するまで生きる。

だが、これは一個人の答えだ。

結局ドクターデスは正義のヒーローだったのか、救世主の女神だったのか、需要と供給を上手く利用したただの快楽殺人犯だったのか、依頼人や安楽死を希望する本人、警察、親戚、友人、恋人、親、子、どの立場から見たって、何度も考えたって、“何回人生試したって 何が正解かわからない”。


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