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衛星の勝手に映画ファンクラブ

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喫茶店もそうだけど、なくなってほしくない場所のひとつが映画館。 映画館に行く人がひとりでも増えたらいいなという願いで、映画館で観た映画の感想を勝手に書いています。 内容にはあまり…
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#衛星の勝手に映画ファンクラブ

●パターソン●

●パターソン●

日常の美しさが詩的に切り取られている。
スイートな部分もビターな部分も、プレーンなところも、日常というものはかくも美しいのかと気づかされる。

パターソン市に住むパターソンはバスの運転手。妻と愛犬とともに穏やかに暮らし、ひっそりと詩を描くことをライフワークとしている。
起床から一日の終わりまで、やさしくほほえましい日もあれば、ちょっとしたアクシデントに見舞われる日もある。いつも通りのリズムに乗って

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●ナイト・オン・ザ・プラネット●

●ナイト・オン・ザ・プラネット●

観たことがあったかなかったか、思い出せぬままに観た。
5つの国の同じ時間に、タクシーの中で繰り広げられる物語のオムニバス。観たことがなかったようだと、途中までそう思っていたのだけれど、パリのタクシーが記憶の中から浮かび上がってきた。そう思うとローマでのロベルト・ベニーニの一人語りやニューヨークのヨーヨーという名前も、なんとなく同じ記憶の沼に沈んでいたように思う。
思えば20年近く前の記憶の沼、忘れ

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●時々、私は考える●

●時々、私は考える●

人と関わることって、とっても怖い。
だって誰も本当の自分を理解してくれないだろうし、拒絶されたり変な奴だと思われたらもっと嫌だ。

この映画の主人公フランもそんなふうに考えている一人だ。
アメリカはオレゴン州の小さな港町アストリア。緑と海に挟まれた、どこか懐かしい雰囲気の静かな町。
職場とアパートを行き来する淡々とした毎日は、彼女にとって退屈でも幸福でもどちらでもないようだ。
ただ、人付き合いから

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●ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ●

●ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ●

「わかり合う」ということは人間ができる素晴らしい体験のひとつだ。
家族や友人や恋人でなくても、わかり合うことができる。それぞれが全く違う事情や悩みや孤独を抱えていても、わかり合うことができる。
それは心を癒し、目に映る景色を変え、明日の力になる。複雑で厄介で混沌とした思考を持つ人間にとって、とても素晴らしい体験と言わずなんと言うのだろう。

1970年の12月、ホリデーシーズン。誰もが待ち望む休暇

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●私と映画●

●私と映画●

90年代の終わり頃、わりとマイナーな映画が深夜のテレビで流れていた。NHKなんかでもアジア映画特集などをやっていた。
その頃の私は人生に絶望しており、答えを探すために映画を観ていた。生きることの意味や理由をずっとその中に探していた。
明確な答えは見つからなかったけれど、ヤン・シュヴァンクマイエルやアッバス・キアロスタミ、ウォン・カーウァイといった監督の作品に幸福にも出会うことができた。答えではない

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