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「自動思考の幅を広げる〜認知行動療法」 臨床心理士への随録 心理学

臨床心理士には心理療法や隣接領域の情報に幅広く精通する義務が課せられているのですが、そうした技能や知識の中にも、自分のアイデンティティというかオリジナリティというか、専門分野を定める必要があります。軸があることで前後左右へのしなりが生まれるからです。

私自身はと言うと、システムアプローチの家族療法と右脳的な森田療法の習得を目指しつつ、心理療法の軸は、医療保険の対象にもなっている左脳的な認知行動療法に置こうと考えています。

認知行動療法とは、物事に対する認知を変えることで行動の変容を促す技法です。下記のようなモデルに基づいて個人の体験を理解し、認知と行動に焦点を当てて問題解決を目指します。

認知には階層があり、浅いレベルのものから深いレベルのものまで(全てをあわせてスキーマと呼びます)が、互いに関連し合いながら構造化されています。中核信念や思いこみは修正するのに時間と手間がかかるため、同時に自動思考の幅を広げバランス思考に切りかえるトレーニングを行なっていきます。

例えば「自分は無能なダメ人間だ」というスキーマを持っている場合、その人の中で物事に対してどのような情報処理がなされるかというと、

つまり、ポジティブな情報は弾き返されるか、ネガティブに変形されて信念に取り込まれるかの2択となり、結果、ネガティブな信念はどんどんと強化されていくのです。

認知行動療法で私がいいなと思うのは、スキーマを否定しないこと、上書き修正しようとしないところです。

ネガティブ思考で悩んでいる人に、ポジティブになりなさいと言ったところで無理なんです。常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションである、とアインシュタインは言いましたが、私は性格についても同じようなものだと考えていて、性格をまるで変えようとする事はその人の今までを全否定しているように映ります。自分のスキーマの在り方を理解し、条件反射のように浮かんでくる自動思考に対して、「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」「もしかしたら、こういう解釈もできるかもしれない」「自分としてはこう感じたけど、客観的に現実的にはどうだろう」と考えられる力をつけるのです。物事をいろんな角度から捉えることでネガティブ認知の力を弱め、気分・行動・身体の変容を狙います。

認知行動療法は、うつ病や不安障害、PTSDなどへの効果が報告されており、医療現場だけではなく、教育、産業、福祉、司法と、臨床心理の全域で扱われる心理療法です。厚生労働省のHPにも実施方法が掲示されているくらい療法自体の構造はシンプルでセルフケアに役立てられますが、自分の常識(スキーマ)ほどひとりで客観的に把握しにくいものはありません。心理的困難を抱え改善したいと思いご興味をもたれたならば、ぜひ心理相談室へお越しください。