「うつ病〜気が滅入るレベルで病院に行こう」 臨床心理士への随録 心理学
基本的な知識として、うつ病には単極生と双極性があり、気分の低下を示す抑うつエピソードと、気分の高揚を示す躁病エピソードのあらわれ方で区別をする。抑うつだけなら単極性、抑うつ期と躁期があるなら双極性となり、持続的な気分の変調によって困難が生じる点では同じである。うつ病の罹患率は10%程度といわれており、希少な病気ではない。ちなみに男女比は1:2で女性の方が多い。単極性は40〜50代に多く、双極性は20代に多い。
抑うつエピソードは、精神的にはうつうつしい気分、興味関心の減退、知的活動能力の低下、自責感。身体的には睡眠障害、食欲の変化、疲労感などが挙げられる。
私も患った経験がある。その時はストレッサーから物理的に距離をとることで早期回復できたが、睡眠障害(途中覚醒や早朝覚醒)、朝の嘔吐、知的活動の停滞などの症状があらわれた。特に知的活動の停滞には我が事ながらビビった。数を数えられなくなったのである。具体的にはBB弾のような球200〜300の在庫数確認ができなくなった。数えながら他のことに気をとられたり、ボーッとしたりしてしまって、途中から訳がわからなくなる。10個単位で分けたりなど工夫が思いつかない。当時は寝不足のせいだと思っていたけど、今思えば原因はそれだけではなかった、うつ病だ。あの時の頭の働かなさ具合は本当にヤバかった。
躁病エピソードは、精神的には過活動、観念奔走(次々にアイディアが浮かびまとまりがなくなる)、誇大妄想、易刺激性(些細なことで怒ったり興奮する)、身体的には睡眠障害(眠らなくても大丈夫など)、食欲や性欲の増加、多動多弁、金銭感覚のマヒなどがある。
過去に仕事をご一緒した方々の中に、数名いらっしゃった。実際に病気だったのかどうかは聞いていないが、状態だけ見ればおそらく双極性障害だ。個人的な経験的観測でも、うつ病の罹患率10%というのは妥当な数値だと思う。
「うつ病はこころの風邪」と言った人がいるが、風邪ではない(誰でもかかるという意味では当たっている)。「うつ病はこころの骨折だ」と言った人もいるが、骨折でもない(重症だということ、添え木して時間をかければ治るという意味ではそうかもしれない)。「病は気から」はある程度正しいと思っているが、うつ病の難しさは初期症状が気分的なことなので、「気のせいだろう」と気を張っていれば抑え込めるところにある。咳や激痛が出ないため、日常レベルから病気への境目がわかりにくく、自己判別が難しい。
そんな時に重要になるのが、他者からの指摘である。「なんか最近調子悪そう」「なんか困り事とかあったりするの」と声をかけてもらえるような付き合いをしていきたい。そして、素直に受け止める姿勢も持ち合わせたい。逆に声をかけれる存在でもありたい。自分が自分にできること、自分が他者にできることを実践しよう。周囲の存在や活用がとても大切だ。
うつ病はこころの病気であり怪我である。インフルエンザにかかったり骨折をしたらほとんどの人は病院に行くと思う。同じだ。うつ病の疑いがあればすぐに病院へ行こう。ひとりで抱え込んでも良いことはない。病院の敷居が高いのなら、カウンセリングルームでもよい。早期発見、早期治療、専門者による支援がスムーズな回復への要点なのである。