山のポーズ
ヨガの中で一番好きなポーズは「山のポーズ」です。
感情が高ぶりそうな時、過去の記憶に圧倒されそうな時、気持ちをリセットしたい時、もしくは何もない時にでさえ、マットの上で山のポーズを取ります。まるで儀式のように。
胸の前で合掌し瞳を閉じると、まぶたと眼球の間に潤いが溜まり、なぜかそれが溢れそうになります。悲しくてそうなるのか、満たされてそうなるのか区別は付きません。
足をしっかり大地に根付かせて、マットと足の裏の感覚を何度も確かめます。そうすると、今私はここに存在していること、過去や未来に奪われそうな心の大波にさらわれないよう、あの世からこの世へと私の感情を身体ごと引き戻せるような気がするのです。
ヨガは動く瞑想だと言われています。山のポーズは動いていないと思われるかも知れませんが、足の指1つ1つがマットと繋がり、足の裏から伸びた根が大地を這う感覚を味わう時、それは動く瞑想だと言えます。もちろん座った山のポーズでさえ、それは動く瞑想なのです。
「トラウマをヨーガで克服する」という本があります。
もしトラウマサバイバーが、その引き金をひかれないよう医師に相談をしたならば、彼らは「薬」を処方するだろう。心理士の所へ行けば「心理療法」で対処するだろう。それと同じようにヨガの講師は「ヨガの技術」を提供するだろう、と書かれてあります。
日本ではヨガとPTSDの治療が結びつくと想像する人はそれほど多くないと思いますが、アメリカではトラウマセンターのなかにヨガ部門があるそうです。
心と身体は繋がっています。しかし本当の意味で繋がっている人は、世界ににどれ位いるでしょう。
心の問題を薬だけ、または心理療法だけなど、心だけで解決しようとしてもそれには無理があります。そして多くの人はそれ以外に何も対処方が思いつかないかも知れません。
ヨガは万能薬ではありません。しかし薬や心理療法だけが万能だとも言い難いです。ヨガを通して困っている方々を医療と共に支えることができたら。
フラッシュバックは突然現れます。日常生活の中にはありとあらゆる所に「引き金」が転がっているからです。どんなに気をつけながら暮らしていても、突然目の前に現れるのだから避けきれません。
でも自分がいつでも元の安全な自分の居場所に戻って来られると確信出来たら。
私は山のポーズが好きです。
足裏の感覚を味わってみよう。自分はいつだって「今、ここ」に帰って来られることを確かめるように。
そして胸の前で手を合わせて合掌。指の腹一本一本を丁寧に合わせながら、その合わせた手の真ん中には、自分が大事にしている何かがあるかのように、優しく包んであげましょう。それは人であったり、動物だったり、物であってもいい。
目を閉じて呼吸を感じてみましょう。深くゆっくりなんて意識しないで、自分の気持ち良いペースで、空気が鼻先を行ったり来たりするのを感じてみよう。
瞼と眼球の隙間はどうなっているだろう。目を閉じるのが怖かったら1mくらい先の床をぼんやり見ているのもいい。
身体の感覚をはどうだろう、少し揺れているのを感じるかも知れない。そんな時は少し足幅を開いてあげてもいい。
手のひらの温かさや、呼吸と共にお腹の膨らみを感じるかも知れない。
顔の筋肉に力みを感じたら緩めてみましょう。肩の力も抜けたら尚良いです。
心の感覚も確かめてみよう。今自分はどんな気持ちなのか。何かの感情に気付くかもしれない。怒りや恐れかも知れないし、喜びや感謝の気持ちかも知れない。
辛くなったらポーズは変えてもいいです。やめてしまってもいいんです。大切なのは自分には選択肢があることを知る、ということ。トラウマを抱えている人は自分には選択肢がないと感じている人が多いと思います。
山のポーズじゃなくてもいい。座った山のポーズでも寝た山のポーズだっていい。1時間やってもいいし、1分でもいい。
今日出来る所と出来ない所を探すのもヨガのレッスンです。今日はここまでがちょうど良いみたいだ、と知ることが出来たらそれは今日の収穫です。
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