どこにでもいる③

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一人百物語

22 寝かしつける話 電車に座って美術展に行った時のこと。乗り換えこそないがそこそこに遠い距離なので、帰るときにはへとへとで、電車の心地よい揺れも相まってつい眠くなってしまった。ふと、背中を一定のリズムで叩かれる感覚があった。当然だが自分の背中は座席の薄いクッションにつけられている。両隣に人はいない。 異常事態だ。 それでも眠気で判断能力が鈍っているのか、「それ」が嫌な感覚がしないからか、自分はそのまま眠りこけてしまった。 気がついたときには最寄りの駅に着いていた。あ

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      21 爆笑する話 派遣アルバイトの休憩室での話。派遣先でたまたま配属先が同じになった2つ上の先輩と昼休憩を取っていた時のこと。休憩室は机と椅子、派遣のアルバイターたちの荷物や制服、ロッカーが並べられている雑多な部屋で、交代制で休憩をしにいっていた。部屋のあちこちで仲の良いグループで昼飯をとっているため、ときたま話が盛り上がったのか笑い声が響き渡ることがあった。自分たちも自分たちでそんな時はあったので特に気にかけることもあったが、ことが起こったのは休憩終了直前、立ち上がったそ

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        20 塗りつぶす話 職場の友人から聞いた話。犬を飼っている友人は毎日決まった時間に散歩をするのだが、工事によって散歩ルートを一時的に変更していた時期があった。 そのルートは大きな空き地の前を通るのだが、そこは市の土地開発のために立ち入り禁止の看板と金網が設置されている。 ある日ふと看板に黒々とペンで何からくがきがされていることに気がついた。小学校が近くにあるので、近所の悪がきがやったのだろうと好奇心から近くに寄ってどれどれと覗きこんだ。 立入禁止と書かれた看板の「止」

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          18 バグる話 自分が使用しているのはMacBookだ。大学入学から今現在まで愛用している。ある時授業の合間にネットサーフィンでもしようといろいろな検索ワードをいれて遊んでいた。チャイティーの淹れ方、最寄駅周辺のおいしい中華屋、フリーゲームの新作チェックなど、ぼけーっと気の赴くまま検索しまくった後、授業の時間がきて私は画面を閉じた。 その日の夜、Illustratorを使う課題の続きをしようとパソコンを開き、作業のお供に動画でも見ようと検索エンジンを開いた時だった。検索

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          17  なんとなくの話 3日限定で派遣の日雇いのイベントスタッフのアルバイトをしていた時の話。そこで仲良くなったFさんの話。 FさんにはCさんという昔からの友人がいる。Cさんは霊感があるタイプだったらしく、なんとなく行きたくないと思っていた場所でぼや騒ぎが起こったり、付き合いたくないと思っていた人が万引きで捕まったりと嫌な予感が当たりやすかったそうだ。それがどんな感覚なのかFさんがCさんに一度聞いてみたのだという。 「なんだかね、自分がもう一人いて『やばい!』って話しか

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          16 通り過ぎる話 夜道を歩いていた時の話。少々疲れていたこともあり足早に歩を進めていたのだが、前から杖をついたおじいさんが歩いてくるのがわかったので端に避けて、通り過ぎるまでスマホを弄ることにした。というのもその道は自転車が停められているせいで人一人がギリギリ通ることができるほど狭い歩道だからだ。駐輪所ではないので違法シールがばんばん貼られているのだが、それもあまり効果はないようだ。不法駐輪者のほんの良心なのか、点字ブロックの部分こそ置かれてはいないが、それでもかなり狭く

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          15 揺れる話 友人から聞いた話だ。居酒屋バイトの彼女は深夜までシフトに入り、12時過ぎに帰宅した。 (あー疲れた) 風呂に入るのも億劫で、道中購入したコンビニのグラタンをレンジに放り込み、着替え始めたその時、ぐらりと足元が揺れたような気がした。 (え、地震?) 一瞬身構えたが、カーテンもテーブルに置いたペットボトルの中身も揺れておらず、その後ぐらぐらとする感覚も無かった。気のせいかと座って食事を取りその日はそれで終わった。 翌日、その日も深夜ラストの時間までシ

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          14 かぶる話 バイト先の先輩の小学校のころの話だ。仮にF子さんとする。彼女が習い事のバレエ教室帰りに体験した話である。 当時11歳だった彼女のために、親御さんは子供用のガラケーを渡していた。それを使って、流行りだった(少なくとも私や彼女の周りでは)某無料ゲームサイトの掲示板で漫画やアニメ、学校の愚痴を話すのが彼女の息抜きの時間だったそうだ。 というのもバレエ教室は最近楽しくないし、仲良しの子とはみんなクラスが分かれてしまったし、何より両親のいう事に何だかイライラする

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          13 歌う話 カラオケに行った帰りの話だ。中学生の頃、友人とカラオケに出かけた帰り道。 気に入った曲の鼻歌を歌いながら夜道を歩いていた自分の後ろから自分のうしろから何故か鼻歌が反響しているように感じた。 (…?) 大した音の大きさでもなかったものだから、道の作りによるのかしらと気にせずずんずん歩いて行ったのだが、そのうちおかしなことに気がついた。反響音なら一定のリズムで声が聞こえてくるはずだ。(いっこく堂さんのような)私の声は一定の感覚を保って反復されるはずだ。だが今

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          12 一緒に遊ぶ話 祖父から聞いた話だ。学校から帰る道でトンボをみつけた祖父は友人と一緒にトンボを捕まえようと夕暮れの道を歩いていた。 トンボを追いかけ普段とは全く別の道に入り込んでしまった祖父と友人はすっかり裏山に入り込んで迷子になってしまった。現代と違って街灯もほとんどなく、暗くなるのも早くなる季節だったこともあり、周囲はどんどん暗くなり、ますます道が分からなくなってしまった。小学生だった祖父と友人は半分パニックになりながらあちこち歩き回ってさらに奥に奥に入ってしまっ

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          11 チェックする話 小学校のころ、クラスで霊感チェックという遊びが流行った。目をつぶって自宅の窓を全て開ける。その後窓を閉める。この間に誰かに遭遇したならそれは霊感のある証だという。 ある日の2限と3限の中休み。本を読む私の隣で、男子たちが楽しそうに霊感チェックをやった後、俺は一人あっただの何もなかっただの話しているのを傍目に自分も試してみることにした。 一階、二階、三階。窓を開けて階段を登る。ぎしぎしとご丁寧にスリッパまで吐いた足音が響いているような気がして気味が

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          10 2階の部屋 元バイト先の先輩の彼女さんの話だ。当時社宅に暮らしていた彼女、-仮にIさんとする-は2階の角部屋に住んでいた。築年数は長いがそれなりに綺麗にリノベーションがされていたらしく、住むのにそこまで不便は感じていなかったが、一つ不可解な事があった。2つ隣の部屋がずっと空き部屋なのだ。というのも会社には社宅を利用する社員がほとんどで、特段大きな建物でも無いのだから空き部屋をずっと作っておく理由は無いはずなのだ。 そこで何気なく「そういえばあの部屋、どれくらい空き

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          9 ページが増える話 私は落書きが好きだ。スケッチブックいっぱいにイラストを描くのもページにちんまりと描くのも好きだ。時折それらを眺めて、そういえばこんなものを描いたなあと昔を思い出すのも楽しい時間である。 ある日のことである。いつものようにスケッチブックを広げてパラパラとめくって遊んでいたところ、見覚えのないページを見つけた。女の子のイラストが描いてあったのだが、どうにも自分の絵とはタッチが異なる気がする。とはいえタッチを変えて絵を描く遊びを一時期していたのできっとその

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          8 流れる音の話 母から聞いた話だ。母が以前パートをしていた会社では地下にトイレがあるのだが、2番目のトイレだけは誰も使用しないらしい。 というのも別にハナコさんがどうだとか、怪談的な問題だけでない。普段仕事をしているフロアにもきれいなトイレがあるため、単純に使用頻度が低いのである。使用するのは警備員の方や飲み物を買うために自販機のある地下に降りた時くらいであったらしい。母も「あそこあんまりいかなかったからなあ」とこの話をしてくれた時にぼやいていた。 とはいえ2番目の個

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          7 聞えない話 ワクチンの副作用で1日途切れてしまったが話を続けようと思う。さて、これの前の話でイヤホンを新調した話をチラッとさせて頂いたが、ある理由がある。 当時私が使用していたのはiPhone6。持っていたイヤホンは有線タイプのものだった。そのため変換アダプタが必要だったのだが、これが原因かイヤホンが使えなくなってしまった(パソコンに使ったところイヤホンは問題なく使用できた)。が、もともとかなり古い型のイヤホンだったので新しいものが欲しいなあと考えていたのである。

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          6 続く夢の話 続き物の夢を見たことはあるだろうか。 自分の場合、ごく普通の日常をどこか俯瞰して見ている自分と、次はどう行動しようと自分の感覚として見ている自分がいる。 夢の見始めは『あれ、ちょっとぼんやりしてたな』と思う程度でそのあと特に夢じゃないかと思うことはない。 その日見た夢も家族で昼食に冷凍のヤキソバを食べていた。そのあと運動をしようと散歩に出たのだが、いつもの散歩ルートにあるはずのガードレールはそこにはなかった。とはいえ夢の中の自分はそこに違和感を感じてい