一人百物語
20 塗りつぶす話
職場の友人から聞いた話。犬を飼っている友人は毎日決まった時間に散歩をするのだが、工事によって散歩ルートを一時的に変更していた時期があった。
そのルートは大きな空き地の前を通るのだが、そこは市の土地開発のために立ち入り禁止の看板と金網が設置されている。
ある日ふと看板に黒々とペンで何からくがきがされていることに気がついた。小学校が近くにあるので、近所の悪がきがやったのだろうと好奇心から近くに寄ってどれどれと覗きこんだ。
立入禁止と書かれた看板の「止」の部分だけが黒々と塗りつぶされていた。
(うわー…)
これでもかと止の部分の字が塗りつぶされていてやや引いてしまった。
草の匂いを嗅いでいた愛犬のリードを引いて立ち去ろうとして、ふと向かい側にある空き地の看板にも何か描かれていることに気がついた。この区画はちいさな空き地が区切られて点々と続いている。
(…通り道だし)
なんとなく気になって全ての看板を調べてみた。
全て「止」が塗りつぶされていた。看板は10箇所はある。それら全てがもはや執念すら感じる勢いで「止」の字だけが塗りつぶされていた。
あれがなんだったのかはいまだにわかっていない。
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