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【基礎編:乾燥/潤い】肌の保湿の仕組みから考えるワンランク上の保湿ケア選び Part1

先日、友人から「いろいろ試してみたけど肌がどうしても乾燥する…どうしたらいい?スキンケアじゃもう無理?」という相談を受けました。

これまで何を試してみたの?と聞くと、
「セラミド化粧品をたっぷり塗るのがいいって聞いたから使ってみた」
「水分を逃がさないオイル美容が大事ってどこかで見たからやってみた」
「ワセリンも試したけど、べたつきが気になっちゃってやめちゃった」
などなど…。

私は、友人の「いろいろ試してみた」には少し偏りがありそうだな…と感じました。みなさんはどう感じましたか?
「え、私もそんな感じで保湿ケア試してたけど…」という方、実は多いのではないでしょうか?

口コミやインフルエンサーさんの感想を確認することもスキンケアを選ぶヒントになりますが、肌の構造や機能を知っていることも大切です。肌の保湿の仕組みを理解していると、これまでとは異なる保湿ケアが選べるかもしれません。

本記事では、私の友人を含め乾燥に悩む方に向けて、肌の保湿の仕組み~保湿ケアの種類などをまとめていきたいと思います!
保湿ケアを「いろいろ試してみた」けど乾燥に悩んでいる!という方は是非、最後まで読んでいただければと思います。


肌が乾燥する原因は?

肌の乾燥は、
・肌のターンオーバーの乱れ
・空気の乾燥
・紫外線によるダメージ
・肌への負担が大きいスキンケア方法
・加齢
・生活習慣
など、さまざまな原因があると考えられています。

また、乾燥自体が更なる肌の乾燥を引き起こす可能性があることも報告されています。
肌の乾燥は炎症の発生や角層のケラチン線維※の変性(カルボニル化)を誘導すると言われていて¹⁾、角層のケラチン線維※が変性すると抱えられる水分量が低下する²⁾ことから、肌はさらに乾燥するということが考えられます。
※ケラチン線維:角層細胞内の物質。本記事の中間部にて詳しく解説。

乾燥によって引き起こされる肌トラブル

肌が乾燥すると、キメは浅く一定の方向に流れ、肌の透明感や肌触りに影響を与えます。さらに状態が悪化すると、肌荒れや落屑(白く粉を拭いた状態)が発生します。
また、角層の柔軟性が失われて表皮性のシワが生じたり³⁾、軽度の炎症状態を引き起こすことも知られています⁴⁾。さらに、炎症によって活性酸素種という刺激物質が発生し、コラーゲンの分解が進み、深いシワやたるみに繋がるとも言われています⁵⁾。

様々な肌トラブルに繋がると思うと、やはり肌の乾燥はなんとかしたいですよね。そのためにも、肌の保湿の仕組みを深く知っておきましょう。

肌の保湿の仕組み

まずは、肌の構造から解説します。

肌の構造

✓皮膚とは
皮膚は人体の一番外側にある臓器で、外部刺激から人体を守ったり、体内からの水分蒸散を防ぐ役割を担っています。
下記図のように、表皮、真皮、皮下組織と3つの層で構成されています。

図1 皮膚の構造

✓表皮とは
厚さ0.1~0.2㎜程度の、角層、顆粒層、有棘層、基底層の4層から構成された膜です。
基底層において生まれた表皮角化細胞が、形や機能を変えながら有棘層・顆粒層を経て角層にたどり着き、角層細胞となります。さらに角層の最外層まで代謝され、最後は垢となって肌から剥がれ落ちます。これらの流れを角化(ターンオーバー)と言います。
このターンオーバーが進む過程で、保湿機能をもつ物質や構造が作られていきます。

図2 表皮と角層の構造

肌の保湿機能

ターンオーバーが進む過程でつくられる、保湿機能を持つ物質や構造/仕組みを、角層細胞・角層細胞外・皮膚表面の各場所ごとにいくつか紹介します。

✓角層細胞内
核や細胞膜を持たないにもかかわらず強固な細胞構造を持ち、角層内でレンガのように整列し、外部刺激から人体を守る役割を担っています。

■ケラチン線維
角層細胞をメインで構成している不溶性のタンパク質。
表皮の角層によって多様な種類のものが存在するが、角層細胞内ではフィラグリンという物質によって特徴的な配列を成し、強固な細胞構造づくりに寄与している⁶⁾。
ケラチン線維が変性(カルボニル化)した場合、水分保持機能が低い角層が作られることが確認されていて²⁾⁷⁾、保湿という面でも重要な物質だということがわかっている。

図3 ケラチン線維とフィラグリン

■天然保湿因子(NMF)
下記のような水溶性の低分子の物質で構成されていて、それらの物質が皮膚内部の水と結びつき、角層の水分保持の働きを担っている。
アミノ酸は、フィラグリンという角層細胞の構造維持に関わる物質がターンオーバーが進む過程で分解され、産生される。また、その一部はさらに代謝され、より保湿性の高いピロリドンカルボン酸という物質に変換される。

老人性乾皮症やアトピー性乾皮症では、角層中のアミノ酸の顕著な低下が確認されていることから⁸⁾、角層中のアミノ酸の量/質は、乾燥肌の主な原因の1つだと考えられている。

図4 天然保湿因子(NMF)の組成⁹⁾

■フィラグリン
表皮の顆粒層で産生されるたんぱく質のひとつ。ケラチン線維とともに角層の強固な構造をつくる。
また、ターンオーバーが進む過程で分解され、アミノ酸などのNMFとなり、角層の水分保持の機能を担う。


✓角層細胞外
レンガのように整列した角層細胞だけでは、体内からの水分蒸散を防ぐことはできません。水分蒸散を防ぐ、角層細胞の隙間を埋めるモルタルのような物質もターンオーバーが進む過程でつくられていきます。

■コーニファイドセルエンベローブ(CE)
角層細胞の最外層にある膜。基底層から顆粒層までは細胞膜が存在するが、ターンオーバーの過程で角層に至るまでに消失し、それに代わってCEが形成される。
角層細胞内の複数のタンパク質が複合したもので、安定な膜を形成し、ケラチン線維とともに角層細胞の強度を担っている。
また、次に述べる細胞間脂質の土台にもなっている。

図5 コーニファイドセルエンベローブ(CE)

■細胞間脂質
角層細胞同士の隙間を埋める物質。
主にセラミド、コレステロール、遊離脂肪酸などの脂質で構成され、これらの脂質が水を挟み込むことで水分保持の機能を担っている。
角層細胞の隙間に疎水層と親水層を繰り返すラメラ液晶構造を形成することで、バリア機能を発揮すると考えられている。このバリア機能は、皮膚内の過剰な水分蒸散の抑制および一定の水分保持、外部刺激から皮膚を防除するといった重要な役割を担っている。

図6 細胞間脂質の組成¹⁰⁾
図7 細胞間脂質のラメラ液晶構造

✓皮膚表面
上記2つは肌内部の物質や機能/仕組みですが、肌外部にも保湿機能を担う物質がつくられます。

■汗・皮脂膜
汗由来の乳酸・Kイオンが、角層水分量・角層の硬さと関係していることが確認されていて¹¹⁾、保湿における重要な要素だと言われいている。
また、皮脂線から分泌された皮脂からつくられるグリセリンも保湿機能に関与しているという報告がある。

肌の保湿機能は、さまざまな物質・構造によって機能していることが分かります。

この後、保湿ケアの種類をご紹介しますが、それぞれがどの肌内部の物質を補填するものなのか、どの機能をサポートするものなのか、などに注目していただければと思います。

保湿ケアの種類

様々な保湿ケアがあると思いますが、今回は大きく3つに分けて紹介します。

保湿成分によるケア

化粧品に配合されている保湿成分は様々なものがありますが、大きく「ヒューメクタント」「エモリエント」の2つに分類されます。

ヒューメクタント
水そのものと結びつく性質を持ち、水分を保持する働きを持つ成分です。
どれも同じような効果を持つわけではなく、水分を抱え込める量が多い、角層浸透量が多い、保湿効果の維持力が高いなど、さまざまな特徴の違いがあります。

図8 ヒューメクタント⁹⁾

✓エモリエント
閉塞性が高いバリアを形成する性質を持ち、水の蒸散を防ぐ働きを持つ成分です。こちらもどれも同じような効果を持つわけではなく、それぞれの物性(粘度など)とバリア(膜)の状態によって特徴に違いがあります。

図9 エモリエント⁹⁾

その他の皮膚コンディショニング成分によるケア

肌の保湿機能を維持・向上させるため、さまざまな作用を持った成分が開発・研究されています。

例えば、

  • 肌内部で行われているセラミドの合成を促進させるもの

  • 発生した炎症を鎮静化させ、炎症から引き起こる乾燥を防ぐもの

  • 肌の生まれ変わりであるターンオーバーを促進し、バリア機能を回復させるもの

などがあります。

スキンケア以外の乾燥対策

肌の乾燥を防ぐためには、上記のケアをしつつ、乾燥を引き起こすそもそもの原因を取り除くことも大切です。

  • 部屋の湿度を調整する

  • 紫外線からを肌を守るために日傘・日焼け止めなどを使用する

  • 肌を強く擦るようなスキンケアや過度な洗顔をやめる

など心がけてみましょう。

保湿ケア、もう一度見直してみましょう!

上記の保湿ケアを確認してみると、冒頭の私の友人の「いろいろ試した」は、保湿ケアのひとつ「エモリエント」の保湿成分に偏っていることが分かります。

みなさんが試してきた保湿ケアは、どうだったでしょうか?
是非、これまで使っていたスキンケアは、乾燥に対してどんなアプローチをしていたか整理してみてください。そして、今までとは違うアプローチ方法のケアに挑戦してみていただければと思います。
【基礎編:乾燥/潤い】のPart2の記事では、保湿成分やスキンケアでのアプローチ方法について、下記視点でもう少し詳しくお話していく予定です。

  • よく聞く化粧品に配合されている保湿成分(ヒアルロン酸・セラミド等)の働き

  • 各メーカー商品の、アプローチの違い(グループ分けしてみる予定)


是非、そちらもお楽しみください!

本記事も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

執筆:小笠

<参考文献>
1)Increased carbonyl protein levels in the stratum corneum of the face during winter, Kobayashi Y. et al., Int. J. Cosmet. Sci., 30, 35-40, (2008)
2)Protein carbonyls damage the water-holding capacity of the stratum corneum, Iwai I. et al, Skin Pharmacol Physiol, 21(5), 269-73, (2008)
3)表皮,特に角質層が関与する小じわの発生要因とその予防, 芋川玄爾他, フレグランスジャーナル, 20(11), 29-42, (1992)
4)Improvement of mild inflammatory changes of the facial skin induced by winter environment with daily applications of a moisturizing cream. A half-side test of biophysical skin parameters, cytokine expression pattern and the formation of cornified envelope, Kikuchi K. et al., Dermatology, 207(3), 269-275, (2003)
5)乾燥により促進されるシワ形成メカニズムとその抑制アプローチ, フレグランスジャーナル, 42(2), 12-17, (2014)
6)皮膚の保湿メカニズム, 平尾哲二, 日本香粧品学会誌, 37(2), 95-100, (2013)
7)角層タンパク質のカルボニル化による肌透明感の低下, 岩井一郎, J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn., 42, 16-21, (2008)
8)Stratum corneum hydration and amino acid content in xerotic skin, Horii I. et al., Br J Dermatol., 121(5), 587-592, (1989)
9)皮膚をみる人たちにための化粧品知識 第1版, 日本香粧品学会誌, 53-64, (2022)
10) 皮膚角質細胞間脂質の構造と機能, 芋川玄爾, 油化学, 44(10), 751-766, (1995)
11)Relationship between NMF (lactate and potassium) content and the physical properties of the stratum corneum in healthy subjects, Nakagawa N. et al., J Invest Dermatol., 122(3), 755-63, (2004)