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僕の好きな店、TACUBO

とうとう憧れのお店、TACUBOにやってきた。

僕はなんだかんだ言いながらミーハーだ(笑)
硬派を気取るのが嫌いだから必然的にミーハーになる。
そんなことを言いながら、こんな凄いお店で食事をするのなら美女は不可欠である。

というわけで小説家の美女ヤーコとそのマネージャー氏と3人で伺うことになった。

恵比寿に降りた僕は、しばらく迷いながらTACUBOさんへの距離を縮めつつあった。
月が綺麗だよ、とは漱石の戯言だが、憧れていたお店に掛ける言葉として、
「綺麗だよ」というのも変だ(笑)「期待してます」というのも何様だとお叱りを受けそうだ。
ならば、僕なら「支払いはカードで❤」が一番いいところかもしれない。
そんなことを考えながら、上着を着るとお店に入る。

お店に入ってすぐ右手に8席のカウンター。
初老とおぼしき上品なご夫婦がお座りになられている。
ワインのコースを頼まれているようで「お次のワインは…」などと説明を受けられている。
カシャッとシャッター音がする。食べログならではの光景(笑)
こういうのは許されているのだろうけど一応訊いてみないとな。

僕はもってきたボールペンをゴロワーズに見立て深く息を吐いてみるけど
「お客様、お煙草(の真似)はご遠慮くださいませ」とたしなめられそうだ(笑)

勝手が違うだけで緊張、(スーツを)この日のために新調 夜のとばりが明けるよ緞帳(どんちょう)…


いかんいかん(笑)
落ち着かなくなるといきなり脳内ラップが始める癖は40を過ぎてもなおらない(笑)

そうするうちに
首輪のようなネックレスをして、髪をアップにした小説家ヤーコが
マネージャー氏を連れてやってくる。

ヤーコはクリエイティブな人間によくある思いついた言葉をとりあえず言ってみるという非常に男気あふれるところがある。同時に自分のフィールドに相手を引っ張り込むという側面も持ち合わせているから、非常に面白い。

そろったところを見計らって飲み物を促される。
僕とマネ氏はビール、ヤーコ先生はソフトドリンク。

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「オリーブの塩漬け」

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オリーブの苦いところが美味しい。苦味さえも、僕のモノだ。
これから始まる料理の演目(?)が気になるところ。


「カツオの刺身 チーズとサマートリュフをのせて」

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これはすごい! カツオの血の匂いにのせてくるチーズソース。
そのうえにサマートリュフがのってくる。
僕の右側に座ったヤーコが僕の右腕を殴る。

「ちょっとこれ、ヤバくない?」
「うん、最高にヤバいよ、悶絶寸前」
「あ、もし死んじゃうならアタシに頂戴よ(笑)」
「ダメ、死んでも離さない(笑)」

とにかく前菜の1品でノックアウトされる。
そう思っていたらその次が

「和牛のタルタル」

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叩いた牛肉の脂身と赤身の中に隠れた砕いた胡椒とチーズの塩気、
それと食感を変えるためか、タルタルの上にのった「インカのめざめ」のポテチがジャガイモの濃厚さと甘味を加える。これは旨味を伴った爆弾である。

牛肉の甘味、チーズの塩気、砕いた胡椒の甘くも苦く、少し遅れてくるピリリとした辛み、そして
ポテチを一緒に食すと食感の中からジャガイモの甘味も感じられる。サツマイモより甘い。

味覚のビンタ…と言ったら言い過ぎか(笑)
あらゆる手のサイズでタコ殴りにされる感じだ。

計算された塩味の加減にさえ悪意を感じてしまう(笑)

「アタシ、これずっと食べ続けられる!」とヤーコが言うと
「それじゃその分加算しますんで」と田窪シェフ(笑)
「やめてください、払いは僕なんで」
「いやぁだぁ、シェフってドSですよね?」とヤーコが言う。
「料理人ってドSの人が多いのよ」とシェフ。

そうか! 「味覚のビンタ」という言葉はあながち間違ってはいないのかもしれない(笑)


「穴子のフリット」

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これも凄いとしか言いようがない。フリットした穴子にトリュフの泡が掛かっている。
下のタルタルみたいなソースはなんだろう? とにかく美味しい。
僕の知っている言語の中にはないんだろうな(笑)
中の穴子はふんわりと柔らかく脂を纏っている。この優しさはなんだろう?
剛直と柔和を駆使した、一筋縄ではいかない料理。優しくも信仰深き猛獣使い。
もう意味がわからない(笑)


「じゃがいものフォカッチャ」

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ヤーコが言う。
「かわいい!なにこれ!」
後々ディーン藤岡に似ているとヤーコに指摘されるポーター氏が
「じゃがいもを練り込んでから焼き上げたフォカッチャです」と説明する。

このころころと可愛い7センチくらいの立方体は真ん中から割ってみると
湯気を立てながら白くてふっくらもっちりとした中身を露わにする。

「いやらしい!」とヤーコ。
「モノを食べるって行為はエロチックな行為に通じているんですよ」とシェフ。
「これ10個はイケる!」とヤーコ。
「いや、すんごい金額になりますけど?」とシェフ。
「やめてください! 家、売らないといけないんで!(笑)」
「シェフってドSなんだ!」
「だから、言っているでしょ?料理人はドSが多いのよ(笑)」とシェフ。
「アメとムチの使い分けが凄いですよね?」とヤーコ。

ヤーコの場合、アメを舐めながらムチをふるうタイプだ(笑)


「秋刀魚のパスタ」

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パスタが2皿あると訊いていたのだが、そのうちの1皿のようだ。
「あー、これ、アサリだぁ!」とヤーコ。

「えっ?」と周囲が固まる(笑)

「えっ? これアサリでしょ?」と詰め寄るヤーコ。
「あのう、気仙沼で獲れた新鮮な秋刀魚を使っております…」とポーター氏がすまなそうに解説。
「そんなオチある?」とヤーコ。
「やっちまったね」とシェフ(笑)
「まあ、いま食べたいのがホントはあさりだったんじゃないの?」とシェフのフォロー。
「優しい! シェフ! さすがアメとムチ使い分けるぅ!」

秋刀魚とオリーブオイルって合うんだ! ちょっと新しい発見だ。
脂が多い魚だからオイルと重ねるとオイリーな感じが残りそうだが、
このお皿は全くそんなことはない。
上にのった香草と和えて食すとまるで、
焼いた秋刀魚をご飯の上に大根おろしをのせて食べるような感覚!


「ウサギの肉ときのこのパスタ」

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「これって鶏?」と訊いてみると「何だと思います?」とシェフ。
すかさずヤーコが「ブタ?」という。
「このサッパリな感じ豚な訳ないだろ!」とマネ氏。
満を持してシェフが「ウ・サ・ギ」とのたまう(笑)
やっぱりドS。ニヤニヤしながら奥に下がる。
「だってさ!」とマネ氏が畳み掛ける。「食材って難しいよねぇ」とヤーコ(笑)
「そうか? ブタとウサギも分からないのは君だけだと思うけどな(笑)」


「自家製パン」

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「まるでご飯を食べているみたい!」とマネ氏が絶賛!
「あ、それ一番うれしい褒め言葉ですよ!」とシェフ。
ヤーコがマネ―ジャーをにらむ。

「ちょっとそのコメント、アタシに頂戴よ!」


「メイン:仔羊のグリル」

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ホントにこれは、凄い逸品でした。
よく食べログ言語で「シェフの火入れ」とかいう言葉がある。
僕としては、なんて想像力のない言葉だろうと思っていたが、
確かに「シェフの火入れ」って、あるな(笑)
シェフの背面に位置した「グリル」は薪を燃やすのグリル。
肉を焼くたびに薪をくべる量を増やしたり、垂れた脂の匂いが付かないようにと工夫していらっしゃる。


実は僕自身、羊とか山羊とか臭みがあってちょっと苦手なのだが、
僕の好き嫌いとかも超えて美味しいと思えるような料理。
とにかく美味しかったのが仔羊の脂身。
こんなに仔羊の脂が甘く、切ないものだったなんて、初めて知った。
その脂の甘さを際立たせる重要なアイテムが3つある。
それは同じく皿に盛りつけられた「岩塩」「胡椒の実の塩漬け」「自家製粒マスタード」である。
この3種類で脂身が3回変化するのである。
特に僕が美味しいと感じたのは「胡椒の実の塩漬け」である。
ピリリと舌先が震え、遠い追憶のように脂の甘さがフラッシュバックする。

エロスって、こういうこと。

大学の頃に私淑していた英文学の教授が言っていたっけ。
「ポンコくん、美味しいものを食べた時の恍惚感って、アレの後に似てない?」
今から考えれば、ただの食後のおっさんの血糖値と血圧が上がっている状態だったと思うが(笑)
美味しいものを食べた時の征服感(達成感)は確かに似通っていると思う。

それに薪で焼いたズッキーニの美味しいこと!
甘くてジューシー。それは焼く前にオイルでコーティングしたせい?
何はともあれ、ナイスグリル!


「ボロネーゼパスタ」

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「美味しいけど、まだ足りないよー!」とヤーコがわめく(笑)
シェフも仕方ないなぁと「んじゃ、〆パスタいく?」と仰っていただける。
「どのくらい食べられるのかな? 10グラムからスタート! 10…20…30…」
「30で!」とヤーコ。

「こういっては何だけど、お腹いっぱいなんだけど、
     まだ食べなくちゃ閉められないという状況は料理人として嫌なんですよ」

「腹八分目がいいってこと?」とヤーコ。
「そうじゃなくって食べる人が美味しいって思える範囲を守ってほしいということかな」とシェフ。

たしかにそうだ。腹一杯という状態は料理を味わえる状態ではない。
腹一杯になりたいならチェーン店のパスタ屋にどうぞ、そう言われているような気がした。
それは、食べる人を選ぶというのは金額でもあり、知性でもある、ということ。
お客さんを選ぶお店ですよ、というマーケティングはある。
ただ値段を見て、高い店だ!とか憤慨する人もいるけどそう思うなら食べない方がいい。
そのほうがお互いにとって精神衛生上いいだろう。
それを信仰だという人もいるかもしれないが、こんな凄い料理を出されたら仕方ないと思う(笑)
まあ、中にはそういうお店しか行きませんみたいな露悪的なレビュアーもいるけどね。

期待って上回って裏切らないとね。

パスタがやってくる。
ボロネーゼソースの威圧感がすごい!
一口食べてみるが煮込んだ牛肉の線維の食感がそれぞれ違う。
包丁で叩いたものと鍋の中で煮込まれて解れたもの。それぞれが組み合わさる。
ただ単に美味いだけじゃ、もったいない(笑)
ただの自家製ミートソースとは雲泥の差がある。それは何だろう?と考えてしまう。
肉とトマトを煮込んだだけじゃ出ないコクがあるんだ。
ホントに広大な宇宙に放り込まれたような気分になる。


「デザート」

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何某という生産者の無農薬の巨峰とヨーグルトアイスに
グレープフルーツのシャーベットを掛けてある。
口の中がさっぱり。人によってはチーズを用意できたりするんだそうだ。


「ミントティと焼きたてフィナンシェ」

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「ヤバくなーい? フィナンシェが焼きたてなんだよ?」と小説家美女ヤーコ。
「君もずいぶんヤバいと思うけど(笑)」と田窪シェフ(笑)
「だから、おいしいものを食べるとテンションあがるんだって!」とヤーコ。
「普段からこうなの?」
「普段からそうですね」とマネージャー氏。
「脳内麻薬が出ているんですよ(笑)」とヤーコ。
「それ自分で言うかな?」

ミントティはカモミールかと思ったけど
「違います」とディーン藤岡に似ているというポーターさんに突っこまれる(笑)
その方がカウンター内に来た時に、

「そういえばさ、藤岡さんに似てるよ」とヤーコ。
「えっ? 藤岡なにさん?」
「弘、か琢哉かってこと?」
「ほら、前に何かつくやつ」
「ああ、ディーン藤岡ね?」
「あ、そうそう、よくできました!」
「君さ、今、大事故になる寸前だったよ(笑)」
「無事生還したね(笑)」
「違うだろ!(怒)」

シェフも藤岡さん(?)もすいませんでした。
ずっとしゃべりっぱなしの3時間でした。
美味しいものを味わいながら、突っ込み突っ込まれ、
驚き驚かされ、楽しい時間でした。




















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