コロナ感染3日目:他の誰かに感染させたら!?
朝からまだ微熱が続いている。
昨日から37度前半で推移している。微熱という真綿で首を締め上げるような悪意はここ2日ほどずっと僕の肉体を苛んでいる。
結核患者はこんな状態をずっと受け容れていたのかと思うと若くして死んだ英傑たちが哀れに思えてくる。
僕は病に関して何の想像力を持ち合わせていない。こんな人間が病にかかると身の不幸を呪うだけで何の利益もうみださない。
窓から見える向こう側の景色は自由と言うにはほど遠く、朝もやの中に沈んでいる。
朝は酸素飽和度と心拍数、体温計を7時までに計ってオンラインのシステムに入力することから始まる。頭から靄が晴れない。ここから朝が始まっていく。ただこの朝はリレーしない朝だ。リレーさせてはいけない朝だ。
体温:37.2度 酸素飽和度:97 心拍数:85
毎朝、7時10分前くらいに館内アナウンスが入る。気持ちよく寝ていようが寝ていまいが、検温とアンケートを記入しろ、と言ってくる。
これが結構つらいのだ。
夜早く寝て朝早く起きるを地でいっていないと無理な時間設定で昨日よく眠れなかったから二度寝したいのだけど…と思ってもその検温とアンケートに応えていると目が覚めてしまうのだ。そのまま二度寝とはいかないのが難しいところだ。
体温は37.5度が目安。
これをずっと越えるようであれば「出所」は延期される。
要はここで重症化する可能性が出てくるわけである。これはここ2年間のコロナ禍での行政の情報蓄積である。目安は情報の蓄積から出てくる。例外は例外でその可能性もあるのだろうが。
保健所の話では重症化しやすい要因が、心臓病などの二次疾患と免疫が極端に落ちる老人だという。コロナ感染の場合、重症化が極端なので経過で一日でも体温が37.5度以上に上がったりすると重症化へ進んでしまう場合が多いという。
子供からzoomのリクエストがあったので早速リクエストに応えてURLを送る。
「ねえパパ。今日の朝ご飯はなあに?」
「なんだろう? まだ持ってきていないんだ」
「朝ご飯は何時なの?」
「7時だから、まだだよ」
息子はとっくに春休みに入っている。休みの時は9時や10時まで寝ているのだが、僕といっしょに朝ご飯を食べると息まいて早起きしたらしい(笑)
いつまで続くやら分からないが、すこしでも早起きする理由になればよいと思っている。
朝食配布の館内放送がながれたので朝食を取ってくる。
今朝の献立はパン食である。割とパワーフードというかハム二枚の下のサラダには鶏のささ身をほぐしたものが和えてありタンパク質は必須なのだなと思う。こういうところがうれしいところでもある。
「病人は草でも食ってろ」的なものではなかったのが、僕にとっては救いだった。病人隔離は昭和史にもある「らい予防法」のような非人間的なものを匂わせるからだ。
バジルとサワークリームで和えたペンネとスクランブルエッグ、フルーツポンチがある。息子はフルーツポンチを見つけ、いいなぁとのたまう。
家なら食べなよ、と皿を差し出すところだがそれもできない。
他の誰かに伝染させる…仲間にどう謝ればいい?
今日は実は憂うつなのである。
自分の感染発症した職場のメンバーに迷惑をかけたことの謝罪と現在の状況を掻い摘んで説明しようと思ったからだ。1日目の日記にも書いたが発症日当日は午後ちょっとまで出勤していた。現時点では課員たちは濃厚接触者になる。まさに「僕のせい」で課員たちにPCR検査を受けさせることになったのである。
結果、陽性者はいなかったのは幸いだった…では済まない。
今の状態ではホテル療養であったとしても雲隠れしているのと変わりないのである。
いろいろと考えたが、
こんな簡単なメールを送った。あまり長いものではなく現在の状況と謝意を示せれば良しと思うことにした。あれこれ深く考えても仕方ない。ネットで文例も探したが、コロナに感染した自分が職場に送るメール例文集などどこを探してもある訳がない。誠意がないわけではない。ふてくされているわけででもない。実際のところ何もできないのである。
zoomで家族と話をしたり、いろいろなことを考えていたらあっと言う間に昼食の時間である。
豚肉の塩だれ炒めと白身魚のフライと豆腐ハンバーグがメインの昼食からかなりボリューミーなお弁当である。付け合わせはもやしの中華風サラダといったところ。これはいい内容である。
だんだんと健康になってきている自分を認識している。
それはもうどうしよいうもないくらいにすぐ「そこ」へきているのだ。
此岸と彼岸を隔てるものそこからまだ此岸にいるのだと分かったときに小躍りしたくなるようなレベルの低い「助かったぁ」という言葉がもれ出そうになる。
幼い頃に読んだオー・ヘンリーの短編、一枚の葉っぱの話ではないが、あの一枚の葉っぱが散ると自分は死んでしまうと言って嘆いた少女とその一枚の葉を描いて少女を元気づけようとした老画家の此岸と彼岸は何だったのか?
いま手元にあるのは矮小な安心でしかない。
現に次々と運ばれてくる入所者たち。入所者が最初にすることは血圧測定なので食事が用意されたときにそれをしているのはいましがたの入所者ということになる。
夕方に体温を測ると36.8度。酸素飽和度は97%。
上々である。今朝からの微熱は徐々に緩和されつつある。
夕飯の時間などすぐだ。
今日はその他に深川めしの弁当、牛肉弁当などがあったが「牛タン弁当」を選択。いちばん大きいと思っていたが、弁当を温めるための装置が下に付いていてほぼ上げ底であった。
むう。
戻ってきている健康。思わず身体の奥からくすぶる生の蠢動が牛タン弁当を欲している。その夜は病み上がりでそれほど食べられないながら、まるでネズミを丸のみにした蛇になったような腹で寝たのである。
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