Impression【成長を支援するということ⑤・脳内の戦い】
バタバタしていて月一連載のようになってしまいました。今秋から再開で、毎週ペースで月内には次のテーマへと移っていけるようにと思います。前回はこちらから。他者理解の本質に関してせまっています。
そして今回の第五章では生存と繁栄という人の本質視点から解析がなされていきます。
☆生き物として生存するということ
生き物。生命体として私たちは他の生き物と同じようにネガティヴの力を用いています。つまり「危機回避能力」に代表される生き延びるための力です。なので、ネガティヴさそのものを否定することは自分自身の半身を否定するようなものと言えるでしょう。
そして、私たち人間がほかの多くの生命体と異なるのは、自身の成長や変化を促すためのポジティヴさを必要としている点にあります。安心感、希望、喜びといった感情に代表される繁栄の為の力です。
この二つの力をわかったうえで、いかに上手にコントロールするか。これはインナーワークでも言われていることで、これからのコーチングに基本となる考え方であるといえそうです。
実際に本書でもネガティヴの力がコーチングにも有用なシーンには相応の分量をもちいて解説してくれています。典型的なケースで言うならば、いわゆる社会的な不公平さやハラスメント等の理不尽さといった状況下では、こうした危機を回避するための感情動機に有効性があることが多いでしょう。そして逆に、こうした状況や背景の中でもネガティヴであることを否定し、強力なポジティヴ信者としてコーチや支援者が振舞えば、その結果が悲惨なものになることもまた多いわけです。
僕自身の経験でいうならば、災害支援初期の段階でみんなが泥をかき出したり、今日の食事の心配をしているときに「何もできないけれど歌を歌います!」とか「今こそ50年後の未来を語ろう!」という人が来ても、当たり前ですが迷惑なだけなんです。それより先に、どんなに微力であっても今、目の前にある泥を共にかき出し、がれきの一つでも運び出し、水源への水くみを何往復とこなす。その行動選択自体がとても大切なわけです。
ですので、ネガティヴに紐づく交感神経と生存本能が問題を解決しようとしている「場」において支援者は、その解決が加速させるように関わっていく。より「Better」な提案に関する対話を行っていく必要があるのです。
☆「場」の転換
なぜならば、ポジティブさとそれに紐づく副交感神経。そこから生まれる共感のネットワークは、交感神経の稼働中に同時に動くことはできないからです。なので、ポジティブという感情を扱うためには、支援対象者がそれを出せるだけの環境という「場」が必要不可欠になってくるわけです。
この「場」の転換を行うために、支援者は対象者がネガティヴな状態であると判断するならば、その状態が0からプラスへと転じていけるような関わり方が必要になるということです(そしてその形は、往々にしてともに汗をかくという言葉に集約されることもまた多いように思います)。
かくして、生き延びた先でようやく得られるのが「繁栄」のためにどうするかというステージ。先の災害支援で言うならば、食事の心配もなく、医療も含めた生命の危機がコミュニティから遠ざかったと実感できるタイミングです。東日本大震災当時に僕は、仮設住宅の支援としては様々なアーティストやそのワークショップをマッチングさせていきました。共創や生きる実感を体感、体験していくの時間を使うことが被災者の皆さんにとって必要な段階になったからです。
この視点と切り替えに関するバランス感とその判断は、コーチや支援者にとって不可欠なものと言えるでしょう。
☆多様性とその体験
そのうえで支援者としてよりよい関わり方に多様性やバラエティといったものがあることをこの章では伝えてくれています。
対象者がみつけたヴィジョンやよりよい未来像というものが無事に描けたとき、唯一の正解らしいものだけをやり続けさせるような誘導やゴール設定を行うのではなくて「他には?」「他には?」と確認しておくことが大切なのだと教えてくれているわけです。
人はそもそも変化に対してストレスを感じるうえに、集中すること自体に対してもストレスの影響を受ける生き物だからです。なので、同じことを長時間取り組ませるよりも、適度に分散をさせたほうが効果が高いことが科学的セオリーとして不可欠だからです。
その為には複数のアプローチや複数の人との関わりを設計し、日にちや時間の中で分散しつつ、質の高い集中が発揮できるようなデザインがされていること。特により有効な休息時間やその過ごし方が織り込まれていることで、その人のゴールへ向かう状態が加速化されていくといえそうです。
僕自身もビジネスコーチングでは「よりよい睡眠」や「よりよい休み」といった課題が昨今は当たり前になってきていますし、こうした理解と実践はいよいよ大切なのだなと感じた本章でした。
*次回第6章に続きます!
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