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8年後、ようやく"フジモトマサル"に出会う

あのとき、少し無理してでも買っておけばよかった。後悔先に立たずというけれど、本当にその通りだと思う。人は、いついなくなってしまうかわからない。

先週、『フジモトマサル傑作集』に出会った。

近所にある本屋さんに"フジモトマサル"さんのコーナーができていた。シンプルで可愛い動物たちの少しシュールな漫画のパネルが貼られていて、その下には可愛らしい動物のキャラクターのハンコと、新刊が並べられていた。

「フジモトマサル」という名前に聞き覚えはなかったが、そのイラストと、不思議な味わいのある漫画になんとなく惹かれた。決して安くはなかったけれど、ついつい衝動買いしてしまった。

帰り道、カフェに立ち寄って本を開いた。すると、絵を見ているうちに、どこかで見た覚えがあるような気がした。記憶を探ってみたけれど、どこで見たのかを思い出すことはできず、勘違いかなと思った。

面白くて一気に半分くらい読み進めてしまったけれど、一気に読んでしまうのがもったいないような気もして、その日は一旦家に帰った。

同居人に「とても面白い本を見つけた」と自慢した後、もう少し読みたい気分になって、『夢みごこち』という短編を読んだ。そのとき、突然思い出した。

「この絵、『聖なる怠け者の冒険』と一緒だ!」

『聖なる怠け者の冒険』は、私の大好きな森見登美彦先生の小説だ。単行本の表紙と挿絵が、まさにフジモトマサルさんの絵とそっくりだったのだ。

調べてみると、どうやらその通りらしかった。既視感の原因がわかってスッキリした。その流れで、フジモトマサルさんの記憶が蘇ってきた。当時はお名前を知らなかったけれど。

『聖なる怠け者の冒険』が出版されたのは8年前の2013年のこと。当時私は高校生だった。森見登美彦先生が大好きだったから、お金のことはひとまず置いておいて、店頭で見かけてすぐに購入した。この小説で京都の柳小路の八兵衛明神を知り、京都に行く度にお参りしている。

この本が出た後、挿絵集も出版されたのを覚えている。挿絵集を買うか迷ったが、お小遣いだけでやりくりしていた高校生の私にとっては、ちょっと痛い出費だったから、買うのを諦めてしまっていた。『聖なる怠け者の冒険』は迷わず購入したくせに。

今なら買えると思ったけれど、Amazonだともう中古品しかなかった。そこで、フジモトマサルさんの別の本を購入しようと思いつき、少し調べてみることにした。

私はそこでショッキングなことを知った。フジモトマサルさんは、2015年に慢性骨髄性白血病で亡くなられていたのだ。46歳だったそうだ。

なんとも言えない喪失感に包まれた。ついさっきまで名前を見てもピンときておらず、お金がないことを理由に買うのを諦めていたというのに。

同じ時代を生きていたというのに、私はご存命中にフジモトマサルさんのことを知ることができなかった。あの時に挿絵集を買っていたら、きっと好きになっていただろうと思う。多感だったあの頃に知っていたら、生き方に大きな影響を与えられていたかもしれない。

『おおかみが来るぞ』の、小学生のリアルな友人関係。『二週間の休暇』の、飼い猫が帰ってこない不安。『スコットくん』の、自分はみんなと違うという勘違い。

こんなにもリアルに心情を描いた漫画を読んだことって、未だかつてなかった。心が揺り動かされる感じがした。きっと、これを感動というんだろう。涙を流すことが感動ではないと知った。フジモトマサルさんの作品を、もっと読んでみたい。

私はもう、高校生の頃とは違う。自分で自由に使っていいお金がある。だから、これからは、お金で諦めるようなことはしないようにしようと思う。自分の直感は、意外と信用できるもの。失敗したら売ってしまえばいいだけの話だ。



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