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意外に知らない「ヌシ」のこと

伊藤龍平『ヌシ: 神か妖怪か』を読了した。

装丁が好みだったのと、「妖怪」という単語に惹かれて買ったのだけど(実は妖怪好き)、買う前の印象よりもはるかに面白かった。

内容としては、伝承を中心に書かれたヌシ論の入門書のような本。難しい言葉が使われていないため、「ヌシ」に明るくない私でもサクサク読めた。

「ヌシ」と言えば、湖沼に棲む巨大魚を想像する人が多いのではないだろうか。池に住んでいる一番大きな魚をヌシと言ったりするし、湿原にいる大きな蛇を追いかけている「藤岡弘、探検隊」のイメージも浮かんでくる。

神か妖怪か、なんて言われると、私が思っているヌシ像とは乖離があるように感じてしまっていたけれど、「湖沼に棲む巨大魚」というのはあながち間違いでもなかったようだ。

ヌシは滞留している場所(特に水辺)に生息していて、ジッとしていることが多いので、ほとんどのヌシは河川沼沢に棲んでいるらしい。

山や森など、陸棲のヌシもいないことはないそうだが、水辺と比べて割と自由に移動できてしまう場所ということもあり、ヌシが生まれにくいのだそうだ。

「えっ、でも『蜘蛛』とか『蛇』は陸棲じゃん」と思ってしまったのだが、これらは水辺のヌシであることが多いのだそう。ややこしい話だ。しかし、言われてみれば、空を飛ぶヌシは聞いたことがない気がするので、「滞留している場所」というのは間違いないことのように思う。

また、興味深かったのは、滞留している場所に住んでいるはずのヌシが、他の場所にいるヌシと関係性を持っている場合があるというお話。

雄のヌシが雌のヌシのもとに通ったり、棲家を通りかかった若い男性を介してふみのやりとりをしたりする伝承が残っているらしい。空を飛んで目的のヌシのもとへ向かうヌシもいたというのには驚いた。

ヌシの特徴、ヌシの生態、ヌシにまつわる伝承、現代のヌシなど、意外と知らなかったヌシのことを知るにはうってつけの1冊だと思う。各地の伝承が収録されているので、ご当所の伝承に興味のある方も是非。

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